第4話

・・・終わりが近づいていた。

 

戦いに次ぐ戦い、尾張の一領主から天下人へ、まさに苛烈を極めた四十九年の人生であった。


その信長が最後の力を振り絞り、血塗れになった体を起こしていった。


そして胡座をかいて座ると、女にこう告白をしたのだった。


『・・・そなたは信じないであろうが、今でもわしはお農を愛しておる・・・

 これからもずっと・・・そう、未来永劫わしの妻はお農一人じゃ・・・』


『だったら、何故あんな酷い仕打ちをしたんだっ!』


女は目に涙を溜め、信長を厳しく非難した。


握りしめた拳だけでなく、体全体を怒りと悲しみで震わしながら・・・


『己が力のみで天下を一統するためには、ああするしかなかった・・・

 お農には・・・いや、散っていった全ての者達には申し訳ないと思うておる・・・

 今となっては、もはや何を言っても始まらぬが・・・』


そこまで話すと、信長は突然口から血を吐き激しく苦しみ始めた。


死は、もう目の前まで来ていたのだ。


『フフッ・・・もはやこれまで、か・・・

 悔いはない・・・何もかも全てを背負い逝くとしよう・・・

 ただ、その前に一つだけそなたに頼みがある』


『この期に及んで、何だ!』


『ここでわしの首を切り落とし、そのまま寺から持ち出して欲しいのじゃ・・・』


『なにっ!?』


『最後の最後、この首を十兵衛に持って行かれるのはわしとっては恥辱の極み。

 それなら我が娘の手によって斬られて逝きたい・・・

 勝手な言い分であるが、何も言わずこの願い聞き入れて欲しい・・・

 首は何処ぞに捨てても構わぬゆえ・・・どうか、頼む・・・』


女は剣を拾い上げ、強く握りしめた。


宿敵・信長による最初で最後の願いを叶えてやることを決意したのだ。


無言のまま信長の前に立つと、女は剣を振り上げた。


『・・・すまぬ』


信長はそう一言漏らすと、胡座をかいた状態でゆっくりと自身の頭を女に差し出していった。


そしてー。


『さらばじゃ・・・我が娘よ・・・』


それが第六天の魔王と恐れられた男の、地上に於ける最後の言葉となった・・・

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