第112話 囮作戦②

 会員証を持たない男はバツが悪そうに答える。


「これは、申し訳ありません!直ぐに取って身に着けてまいります」


 そう言った後、慌ててその場を去ろうとするのを、お母さんは男の首元へ杖を当てて制止して、近くにいた職員に声をかけた。


「待ちなさい。そこのあなた、カレンと協会長を呼びなさい。これはSランクハンターであるミーナリア.レジストリーの命令だよ」

「か、かしこまりました」


 職員は慌てて2人を呼びに行くと、不審な男は抵抗して逃げようとしたので、杖で顎を突き上げて気絶させた。


 倒れた男の頭に杖を突き立てながら、2人が来るのを待っていると、不気味な気配で背筋が凍りつきそうになったので思わず振り返る。すると謎の手が私に触れようとしたので、本能が危険だと訴えたので一気に距離を取った。


「おや、レジストリー子爵様、そんなに慌ててどうかされましたか?」


 不気味な気配の正体はイーブルで、あのまま体に触れられていたら、私の理魄も壊されていたのかも知れない。


「っ、どうかだって?殺気を向けてなにを言ってるのかしら?」

「そんな物騒なものは出せませんよ?それより倒れてる方の様子を見ないといけませんね」


 何食わぬ顔しながら返事をすると、そのまま倒れてる男の左胸の辺りに触れた瞬間、『ビクッ』と体が動くとその後は動かなくなってしまった。


「ふむ、死んでいるようですね。心臓に疾患でもあったのでしょうかねぇ」

「よく言う……、お前が」


 男が口を割ることを恐れて、ヤツの崩壊コラプスの力で殺したのか……、『お前が殺った』と言いかけたけど、証明することができないので言っても仕方ない。すると、私の後に控えていたアリシャに気づくと予想通りにマールと勘違いした。不気味な笑みを浮かべ近寄りながら話しかけた。


「おや、そちらのお嬢さんが娘さんですか?小さい頃に会ったことがあるんだけど、私のことを覚えてるかな?●●●●!」


 最後の一言はアリシャの耳元で囁くように言ったので、聞き取ることができなかったが、アリシャはフードを取ってから返事をする。


「私はミーナリア様の従者なので、お会いするのは初めてです。崩壊コラプスとはどういう意味なのでしょうか?」


 予想外のできごとに目を見開いて驚くイーブルは、慌ててごまかそうとする。


「あっ、いや、何でもない。そうか従者の者でしたかこれは失敬、今の言葉は忘れて欲しい。レジストリー子爵様、私はこの後に急ぎの用があるので失礼します」


 そう言うとイーブルは急ぎ足で討伐協会を後にした。その後すぐにカレンと協会長がやって来たが、イーブルに殺された内通者は職員ではないことが判った。


 囮作戦で内通者を拘束して、イーブルの仕業だと告発させることは失敗に終わったのだった。


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