閑話 イーブルの報告書

「アナスタシア様、こちらがイーブル子爵の調査報告書になります。全ての調査は終わってませんが、この国の出自ではありません。詳しくは報告書をお読みになってください」

「ご苦労。下がっていいよ」

「失礼致します」


 深く頭を下げた使者が部屋を後にする。


『パサッ』


 渡された報告書を机に置いてから、ワインセラーからワインを取り出してグラスに注ぐ。


「ふぅ〜、美味い。さて、これにはなにが書かれてるんかな?」


 机に置いた報告書に手に取り、封を開けようとするとドアのノック音が聞こえた。


『コンコン』

「ミーナリアです。マールの討伐から戻ったので報告をしにきました」

「入っていいよ」


 ミーナリアが部屋に入ってくると、ワインに気づいたのでグラスを手に取り、私のお気に入りの高級ワインを遠慮なくなみなみと注いだ。


「あっ、それはなんですか?」

「これかい?イーブルの調査報告書だよ」

「!?」


 イーブルの報告書を聞いておかしな反応をするので、なにか思うことがあるのか聞いてみた。


「どうかしたかい、調べると言ってただろ?」

「いいえ、討伐が終わっ後に、討伐協会で手続きをした帰りにイーブルに会ったものですから」

「!?マ、マールは大丈夫なのかい?」


 あの子のトラウマを考えると、イーブルに会えば普通ではいられないはずだ。なにか大変なことがあったのかと思ったけど、落ち着いてワインを飲む様子から違和感を感じた。


「あっ、大丈夫です。ワイバーンの討伐で疲れちゃって馬車で寝てたので、その場には居ませんでしからね」

「ほっ、そうかい、ワイバーンを討伐して疲れきったのかい。ってワイバーンだって!!」


 草原での討伐訓練なのにワイバーンって、意味がわからず大声を出してしまった。このバカは私の指示を無視して、山岳地内にでも行ったのか?


「まさか、草原にあんな大物が現れるなんて驚きましたが、行動不能にしたといえワイバーンを一撃で仕留めたのは、もっと驚きましたよ」

「そ、そうかい。あの娘の理力量なら驚きわしないよ。はぁ、イーブルと会わなくて僥倖だよ」

「はい、それより報告書を見ましょうよ」


 イーブルと会わなかったことに安心してから、2人で報告書の内容を確認する。


 そこには約10年アリスター王国へ難民として訪れて、当時は奇妙な言葉を発していたと記されていてた。おそらくそれは日本語なのだと理解した。その後は難民キャンプで過ごしていたが、アリスタ語を覚えると頭角を現して小さな店を立ち上げて、瞬く間に大商会まで成り上がった。画期的な発明品を数種類ほどを、世に送り出したと記されているので、間違いなくイーブルはマールが言っていた教授なんだと確信した。


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