第102話 看板のない店

 お母さんと手を繋いで街中を歩いて行く。


「先ず防具かな?私と違って近接戦闘もできるから、軽量なライトアーマーが良いのかな?」

「そうですね。私は近接戦闘タイプなので、良さそうな物を見繕いましょうか?」


 討伐訓練へ向かう為の買い物なので、最初は防具を揃えるみたい。お母さんは理魄を使った後方タイプなので、近接戦闘に適した防具には詳しくないようなので、アリシャが見繕うと言った。


「助かるよ、お願いするね」

「かしこまりました。それで防具店は女性店主なのでしょうか?男性だと調整するのは無理かと思います」

「うん、それは大丈夫だよ。アナスタシア様御用達の防具屋だからね。ほらっ、あの店だよ」


 アリシャは店員のことを気にしていたけど、女性店員の店だと聞いて安心した。ただ、師匠御用達の店ってことで違う意味で不安になってると、お母さんが店が見えてきたと教えてくれた。


「へぇ~、大きな店かと思ってたのと、店の看板がないのはちょっと予想外かな?」

「女性専門の装備屋だからね。じゃあ入ろうか」


 3人で店に入ると、白髪が目立つ初老の女性が声をかけてくれた。


「いらっしゃい、あっ、ミーナリアじゃないか久しぶりだね」

「セリアさん、お久しぶりです。今日は娘の装備を揃えにきました」

「ちょっと待って!あんた独身なのに娘ってどういうことなの?」


 なんの説明もなしに娘とか言うので、セリアさんは驚いてお母さんに説明を求めると、私の頭に『ポン』と手を乗せてから紹介した。


「ヘヘっ、この子が私の娘アイマールだよ」

「初めましてアイマールです。いつも母がお世話になってます」

「まぁ、よくできた娘だね。こんな可愛い娘に装備が必要なのかい?」


 お母さんの紹介の後に私が挨拶をすると、セリアさんは目を細めながら私を褒めてから、お母さんに装備のことを聞き返したの。


「うん、マールはね、私と同じアナスタシア様の弟子だから、修行の一環で魔物の討伐へ行くことになるんですよ」

「ほぉ~、妃爵様の弟子なら気合が入るね。どんな装備を考えてるんだい?」


 セリアさんが希望の装備について聞いてくると、アリシャが前に出て私の代わりに説明をしてくれた。


「私が説明します。お嬢様は素早い動きを活かした戦い方をするので、各パーツに分かれたライト系のアーマーセットを考えてます」

「ほぅ、興味深いね。妃爵様の弟子だから理魄の攻撃主体かと思ったけど、【稀の戦姫】のような装備にしたいってことだね?」


 アリシャの説明を聞いて、セリアさんがお母様のような装備と言うと、私は思わず2人の会話に割り込んでしまった。


「その【稀の戦姫】は私の母アリエル.レジストリーのことでしょうか?」

「えっと、アリエル.レイバック間違いじゃないかい?」

「いえ、間違ってません。アリエル様は嫁がれてレジストリー姓に変わりました。お嬢様はアリエル様の1人娘です」

「そうなのかい?確かにアリエルも緑の髪に翡翠の瞳だったね。そうかい娘だったのかい……」


 私が【稀の戦姫】の娘と知ったセリアさんは、感慨深い表情になってから口を開いて、懐かしい話を聞かせてくれたのだった。

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