第101話 女学院の外へ

 中等科のクラス分けが発表されて、中等科の前期が始まるまでの長い休暇に入る。アリグリア達は女学院から実家へと戻って、貴族独特の忙しい毎日を送ることになる。


 私はというと、師匠との厳しい訓練が始まるんだけど、実は『ワクワク』しているの。これまでの院内での訓練ではなく、院外へ出て魔物を討伐する実戦訓練をするから。私はあの日を境に自分の部屋に閉じこもり、女学院へ入学しても敷地内から出たことがなかったから。アリシャと2人きりだった生活から友人ができて、素晴らしい師匠との出会いがあり、そして優しいお母さんまでできた今は、この世界で生きていくのが嫌だった頃が、嘘のように思えるほど楽しい。


 今日は、討伐訓練へ向かうにあたって必要な物を揃える為に、お母さんとアリシャの3人で街へ買い物へ行くことになった。街へ出るにあたって問題なのは、私の異性に対する異常な恐怖症で、2人に寄り添われる形なら大丈夫なのかということだった。


「お嬢様、無理はしないでくださいね」

「そうだよ。無理だと思ったら直ぐに言うこと、判ったわね?」

「うん、そんなことを言うから、逆に緊張しちゃうじゃない」


 過保護な母とメイドの言葉で逆に意識し過ぎて緊張してしまった……。私の言葉を聞いた2人は『あっ』という顔をして焦りながら謝ってきた。


「ごめん、そうだよね。逆に意識しちゃうよね」

「申し訳ありません。メイド失格ですね……」


 完全に落ち込んでしまった2人を見て、私は少し言い過ぎたかなと思い、笑いながら『大丈夫』だと話しかける。


「そんなに落ち込まないでね?2人が心配して言ってくれてるのは判ってるから、無理だと思ったらちゃんと伝えるからね。今日は3人で買い物へ行けるのを楽しみにしてたんだから、早く出かけようよ」

「そうだね。マールの欲しい物はなんでも買ってあげるから遠慮しないでね!」


 買い物を楽しみにしてたと伝えると、お母さんの表情は明るく、アリシャは安堵の表情になったところで女学院の門から外へと出かけた。


(今日のお母さんの財布の紐はゆるそうなので、私の方が気をつけないと……)


 門の外へ出て周りを見ながら歩いてると、人通りは少ないけど男性が歩いてるのを確認すると、意識をしなくても少し身構えてしまい、それに気づいたアリシャが心配そうに声をかけた。


「お嬢様?」

「あっ、大丈夫……」


 少し緊張気味に答えると、お母さんの手が『スッ』と触れたかと思うと、そのまま優しく握りしめてくれた。私がお母さんに顔を向けると『ニコッ』と微笑んでから声をかけてくれた。


「こうやって手を繋いでいれば、少しは安心するでしょ?」

「うん、ありがとう」


 なにかあれば伝えると言ってたのに、それ以上の早さで私の異常に気づいてくれた。本当に過保護だなぁ〜と思いながらも2人の気遣いに感謝しながら王都の街中を歩いて行ったの。

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