第94話 ムッとするアイマール

 私とハーレイの試合が始まる。


「いやぁーーーっ」


 ハーレイは声をあげながら、大剣を下に向けて駆け寄ってくると、手前で立ち止まってフルスイングをしてきた。その剣速は大剣のものとは思えない速さで、風の理魄を纏わせて速度を上げたんだと思う。


『シュッパッ!』


 咄嗟に躱したけど、完全には躱しきれずに稽古着を掠めると、胸元が『ハラリ』と裂けていた。直撃していたら大怪我をしていたかも知れない、私は審判を努めるお母さんに顔向けると、厳しい顔をしながらハーレイに注意をする。


「ハーレイ、理魄の使用は認められてるけど、今の技は危険過ぎるよ。同じことを繰り返せば失格にするからね」

「明確な基準を言って頂かないと困ります。勝つ為に全力を尽くしてるのに……」


 勝つ為にしたことを注意されて困惑気味なハーレイは、相手が怪我をすることを気にしてないようだった。


「勝つ為なら相手が大怪我をしても良い訳がないでしょ?」

「はぁ、今の技は使いませんが、これから出す技はその都度判断してください」

「ねぇハーレイ、自分が放った技で相手が怪我をするとかは考えないの?」

「それは当たらなければ判らないでしょ?」


 ハーレイに怪我を負わせる可能性を聞いてみると、かなりズレた答えが返ってきた。何を言っても平行線をたどりそうなので、私も少し『ムッ』としたので、ハーレイに合わせることにした。


「先生、このまま行きましょう。私もハーレイに合せて戦うことにします」

「マー、アイマールが良いのなら認めるけど、ハーレイは本当にそれでいいのね?」


 私が合わせると言ったあと、お母さんは私が何をするのか理解したようで、ハーレイに念をおすように聞きなおした。


「私は構いませんよ。アイマールありがとう」

「ううん、怖い思いをするかも知れないから、先に謝っておくよ。ハーレイごめんね」


 私は謝ったあとに、右の扇に水の理魄を、左の扇に風の理魄を纏わせる。ダブルの理魄を持っていても、同時に使える者は師匠の弟子くらいしか居ないので、ハーレイは目の前で起こってることに驚きを隠せなかった。


「えっ、ダブルの理魄?しかも同時に発動なんて……」

「さぁ、当たると危険だから絶対に避けてね?」


 私はハーレイに忠告してから左右の扇を振るうと、水と風が交差すると水が固まりだして氷になった。先が尖った氷がハーレイを襲うと、強張った表情で慌てて後方へ回避するが、回避というより腰が抜けて、後ろへ転んだというのが正しいのかも知れない。


「きゃっ、あっ、危ないじゃない!」

「私へ放った武技も危なかったよ?貴女の戦い方に合わせてるんだから、そのことで文句を言われても困るかな」

「っ……」

「自分は良くて私はダメなんて言わないよね?」


 私は扇を軽く振って水と風の理魄を解除しすると、扇を閉じて『クイッ、クイ』と下から上へ動かして立ち上がるように促す。ハーレイは大剣を杖代わりにして立ち上がると、悔しそうな表情をしながら大剣を構えた。


「次は打撃だけど受けることは勧めないよ」


 先に忠告してから、閉じたままの扇に雷の理魄を纏わせると、一気に加速して間合いを詰めて扇での打撃をいれる。ハーレイは反応できず大剣を盾代わりに打撃を受け止めた。


『バチッ、バチバチバチンッ!』

「きゃっ!」


 打撃を受け止めた瞬間に、ハーレイの体に雷撃が流れて手にした大剣を離してしまった。私はハーレイの首元で扇を寸止めすると、お母さんが私の勝ち名乗りをあげて試合が終わった。


「それまで、勝者アイマール!この勝利により武術対抗戦の優勝はAクラス」


 勝利の瞬間、アリグリア達が闘場へ駆け上がってくると、5人で抱き合い優勝を喜びあったの。


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