第92話 誰にも止められない

 武術対抗戦の優勝決定戦が始まる。


 Aクラスの先鋒キンバリー、Bクラスの先鋒セイラが闘場に上がって注目の初戦が始まった。


 互いに槍を持って試合が始まると、キンバリーが土の理魄で先制する。


「槍だけなら勝てないかも知れないけど、理魄を使えば勝機はあるはず〚水の玉ウォーターボール〛!」

「打ち消せ〚土の盾サンドシールド〛!」


 セイラが理魄で土の盾を出して相殺しようとしたけど、理力で上回るキンバリーの水の玉を止めきれず、やや勢いが落ちた程度でセイラに襲いかかる。


「武術で負けるわけにはいかないの〚斬撃波スラッシュ〛!」

『ズバッ!』


 迫りくる水の玉に、セイラは槍術の武技である斬撃波を放って斬り裂いた。そして、斬撃波の勢いは弱まりながらもキンバリーの元へ向かう。


「私の水の玉を斬るなんて……、〚土の盾サンドシールド〛!」


 キンバリーはセイラと同じ土の盾を出して受け止めたが、盾を出すことに集中し過ぎてセイラを見失い、その隙をつかれ柄の部分で鳩尾に突きを入れられると前崩れに倒れた。


「それまで、勝者セイラ!」

「セイラ完敗よ」

「キンバリー貴女は強かったわよ」


 キンバリーは善戦むなしくセイラに敗れたけど、その顔は清々しいもので、恥じることなく闘場より降りてきた。私はキンバリーに労いの言葉をかける。


「キム、あの土の盾の発動速度は凄かったよ」

「ありがとう。でもセイラの全力を引き出せなかったわ……」

「大丈夫。おかげでセイラは理力操作が苦手だと判ったよ。ありがとう」


 私がキンバリーと話をしてる途中に、セイラの勝利を告げられた。


「それまで、勝者セイラ!」


 闘場を見上げるとキャメリアは片膝ついていた。試合開始早々に、セイラの突きが胸部に当たったところで戦意喪失とみなされたみたい。セイラの圧倒的な強さに、闘技場は歓声に沸いていた。


「勝てなくても、少しは疲れさせないとね」

「「グリア、頑張って!」」

「あまり期待はしないでね」


 声をかけると軽く笑顔を見せてから闘場へ上がって、セイラと同じ槍を構えて開始を待った。


 試合が始まると、アリグリアが上下で素早い突きを放ってセイラを揺さぶろうとしたけど、セイラは前に出ながら突きを弾くと、槍を反転させて柄の部分でアリグリアの膝に打撃をいれた。


『カツッ』

「っ……」


 打撃の後に槍を引き戻すと、柄を強く握り締めてから一気に振り降ろした。


「やぁーーっ!」

『ガツン!』

「きゃっ」


 アリグリアは槍を横に向けて両手で受け止めたけど、強烈な一撃に耐えきれず尻もちをつく。距離を詰めるセイラに、一矢報いようと足を狙って槍を横に払うも、軽いジャンプで躱されて、そのまま槍を振り降ろし寸止めされたところでセイラの勝利が告げられた。


「それまで、勝者セイラ!」


 セイラが尻もちを付いてるアリグリアに手を差し伸べると、握って立ち上がる時に声をかけた。


「何度やっても勝てる気がしなかったわ」

「前期で同じ経験をしたからよ。今の私は誰にも止められないわ」


 セイラはアリグリアと話をした後に、私の方を見て『今度は勝つ』と言わんばかりの表情を見せたのだった。



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