第89話 ミーナリアの過去
お母さんの胸元で甘えたタイミングで、お母さんが軍隊に入隊せずに、女学院で教師になったことを聞くことにした。
「ねぇ、お母さん小さい頃の事を教えてよ」
一瞬、私の頭を撫でる手が止まったけど、直ぐに手を動かしながら話してくれた。
「私は平民の生まれで、お父さんは町工場に勤めていて、お母さんは町の食堂で働く共働きの家庭だったの。平民ではごく普通の家庭だったかな」
「お母さんは1代目の子爵だったもんね。平民から子爵になるなんて頑張ったんだね」
私が凄いと伝えると『ニコッ』と笑ってから話を続けた。
「私に理魄がある事が判ると、両親が進学することを勧めて女学院へ入学したんだよ。平民の私は卒業するまで女学院から出れないから、実家へ帰ることができなくて辛かったけど、期待に応える為に必死に努力を続けたの。そんなある日……」
お母さんの話が止まった。私は黙ってその顔を見つめることしかできない……、お母さんは大きく息を吸ってから話を再開した。
「そんなある日、アリスター王国に隣接するアーネスト王国が、私の故郷へ侵攻してきたの。師匠とアリエル様の活躍で、数日のうちに撃退したけど……私の両親は戦火に巻き込まれて帰らぬ者になったの」
「お母さん……」
そう言ったあとに目を瞑って唇を噛み締めた。私はお母さんに抱きついて声をかけると、強く抱きしめかえしてきた。少し間を置いてから話を続けたの。
「両親の訃報は学院長だった師匠から聞いて、その時にアリエル様が怪我されたことも聞いたんだよ。そして師匠から弟子にならないかと誘われて、私も争いの抑止力になれるならと誘いを受けたの。その時は軍隊に入隊するものだと思っていたんだけど、私が選抜科に進学した時にアリエル様から手紙が届いたの」
「お母様からの手紙?」
「うん、弟子になったことを知って、これからのことについてアドバイスをくれたの。その手紙には子供を授かったとも書かれていて、軍属になって血に染まる生き方をしたことを後悔されて、同じ弟子となった私には、そんな道を進んで欲しくないと書かれていたの。そして、産まれてきた子供に師匠から学んだ全てを教えることが、今から楽しみだと書かれていたんだよ。その授かった子供がマールだったんだね」
お母さんとお母様の間で、そんな交流があったことを初めて知った。私は生まれてから愛されたことがなかったけど、生まれる前にお母様からたくさんの愛を貰っていた。そのことを知った私の目から涙が溢れ出した……
「私は愛されていたんだね」
「そうだね。私もアリエル様には負けるけど、マールの事を愛してるよ。私はアリエル様が亡くなったと聞いて、教師になると決めたんだよ。マールが進学した時にアリエル様の代わりに教える為にね」
私はお母さんの過去と教師になった理由を、無事に知ることができたのだった。
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