第75話 前世の知識

 師匠との修行の後に、夕食までの間はアリシャと武術の訓練をした。


 図書館で希少鉱石の文献を借りてから部屋へと戻って、夕食の後はミスリルの事を調べていた。


 調べていると流石に専門的な文字ばかりが記載されていたので、流石に読んだだけでは簡単に理解できそうになかった……すると、急に身体が『フワッ』と浮遊感に襲われると、違う風景が見えてきた。


 そこに見えるのは白衣を着た黒髪の女性が机に向かっていた。上から彼女の事を見ていると、徐々に彼女の姿が大きくなっていって、そのまま彼女の中に侵入するように重なったその時、たくさんの知識が流れ込んで来た。


 都合が良い事に私は理系女子で地質学が専門だったようで、鉱石を理解する為に必要な知識もその中に含まれていた。


(これは前世の私、藤原 愛音の姿なのかな?)


 知識が流れ込んだら愛音から離れるのかと思ったら、私はそのまま離れる事なく行動をともにする事になった。机に向かって研究に勤しんでいると、背後から声をかけられる。


「愛音ちゃん、頑張ってるねぇ〜、研究はそれくらいにして食事へ行こうよ」

「教授、私はもう少し調べるので食事は1人で行ってください」

「そんな事を言わないでくれよ。僕の気持ちは判ってるだろ?そろそろその気持ちに応えてくれても良いんじゃないか?」


 教授と言われた男は言葉の後に、肩に触れると『ゾクッ』と寒気がした。私はこの男の嫌な雰囲気を感じた事がある……イーブル?


「ご家族がいるじゃないですか?それに私には好きな人がいるので、お断りしたじゃないですか」

「真面目だねぇ、楽しい時間を過ごすだけだよ。僕を拒むと研究室に居られなくなるかも知れないんだよ?」

「っ……、でも私は彼を裏切れません。それにそんな事になれば、私はハラスメント行為で事務局に訴えます」


 その言葉の後に、愛音は研究を止め、研究室を後にした。


「まっ、待って愛音ちゃん?」


 愛音は大学を後にすると、急ぎながら帰宅していると背後からの衝撃を感じると目の前が暗くなった。その瞬間、私の意識が愛音から離れた。


 愛音を襲ったのは教授で、気を失った彼女を車に乗せてその場から離れた。


「はぁ、はぁっ、手荒な真似はしたくなかったけど、既成事実をこれで撮影して、誰にも言えなくさせてもらうよ」


 そう言った後に、助手席で気を失った愛音の身体に触れようとした瞬間、ハンドル操作を誤ってしまい、車は反対車線にはみ出し対向車と正面衝突をした……


「ぐっ……愛音ちゃん……もう少しで手に入ったのに……」


 教授の言葉の後に、車はガソリンに引火し炎上をして、車に残された2人はそのまま焼死した。


(これが、私の前世の結末だったの……何が起こったのかも知らないまま死んだのね)


 その光景を見ていると視界が白く輝き始めると、私の事を呼ぶアリシャの声が聞こえてきた。


「お嬢様、起きてください」

「あっ、アリシャ?私は……」

「ミスリルを調べられてたら、そのまま寝落ちされてました。お疲れのようなので、ベッドで横になりましょう」

「う、うん……ねぇ、凄く怖い夢をみたの……寝つくまで手を握っててくれる?」


 私は前世の最期を知って心が不安定だったので、アリシャに甘えると笑顔で頷いてくれた。


「かしこまりました。では、寝室へ」


 私はアリシャに寄り添われながら、その日は眠りについたの。


(あの教授、あの男と同じ雰囲気だった……まさか、あの男もこの世界に?)

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