第68話 お節介

 私はキンバリー様をクラスの輪へ加える為に、積極的に話しかける事にした。


 キンバリー様が1人で教室へ入って席に着くと、私は歩み寄って朝の挨拶をする。


「キンバリー様、おはようございます」

「……」


 挨拶をすると『チラッ』と顔を向けたけど、言葉を発する事なく視線をもどした。私達とキンバリー様の間には分厚い氷壁があって、簡単には溶かす事ができないのは判っている。それでも毎日続けると決めたので、この程度の反応で諦めたりはしない。


「これは、授業に出れなかった間の要点を押えたノートなので、よろしければご覧になってくださいね」

「……」

「お渡しするので、判らない事があればなんでも聞いてくださいね。では、席に戻ります」

「……」


 私はノートを手渡そうとしたけど、視線は前へ向けたまま反応がなかったので、もう1度声をかけてから机の上にノートを置いてから席へ戻ると、グリアが少し苛立ちながら小さな声で話しかけてきた。


「何なのあの態度は、返事くらいすれば良いのに苛立つわね」

「あははっ、私には予想通りの反応だったよ。積み重ねていくだけだから見守っててね」

「本当にマールは人が良すぎるわね」


 午前の授業が終わって、この日はクラス委員の会合があるので集会所へ向かって、キンバリー様のメイドに声をかける。


「パメラさん、こんにちは」


 私に声をかけられると思わなかったのか、パメラは驚きの表情をしたけど、直ぐに冷たい表情になって愛想のない返事をした。


「アイマール様、何かご用でしょうか?」

「はい、キンバリー様へ授業のノートを渡したので、もし判らない所があれば声をかけて欲しいと伝えたのですが、多分声はかからないと思うので、このノートをパメラさんに渡しておきます」


 私がノートを手渡すと、一応受け取って『パラパラ』と中身を見てから、変わらず愛想のない言葉で返事をする。


「これがどうしたと言うのですか?」

「もし、キンバリー様が勉強で困っていたら、パメラさんがそれを使って教えてあげてくれるかな?私は嫌われてるから……」


 私の言葉を聞いてパメラは驚いた。


 嫌われてると判っていながらも、お節介ともいえる行動をする事が理解できないんだろうね。パメラは少し意地悪な返事をしてきた。


「私がこれを捨てるとは思わないのですか?」

「パメラさんが、キンバリー様の為になる可能性がある物を、捨てる事はないと信じでます」

「そもそも、これが役に立つとは限りません」

「でも、役に立つと判断されれば、それを使ってくれますよね?」

「お答えしかねます」


 パメラは曖昧な返事をしたけど、キンバリー様の為になるなら絶対に捨てないと確信した。理由は簡単で、専属メイドは生まれた時から身の回りの世話をしてる。専属メイドにとっては無償の愛情を捧げる対象だから。


「では、私は勉強会へ向かうので失礼しますね」

「……」


 パメラは言葉を発する事なく、小さく頭を下げるだけだった。でも、ノートはしっかりと受け取ってくれたので十分な結果を残せたと思う。


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