閑話 転籍命令
師匠から書類を受け取り、私はアイマールの実家レジストリー男爵家へと向かった。
手にした書類とは、アナスタシア.アリスター妃爵が王国から与えられている権限の1つ、有望な貴族子女を転籍させる権限の行使だ。
まぁ、借金で生活苦に陥ってる訳だから、将来有望なアイマールの成長を邪魔すると判断を下したのは当然だ。
私を乗せた馬車がレジストリー男爵邸の前に到着したので、馬車から降りてエントランスへと向かう通路を進むが、全く手入れがされていない前庭は、とても貴族邸とは思えないものだった。
(男爵家が武功をあげれないと、ここまで落ち込んでしまうのか……)
通路を通ってエントランスに着いたので、ドアをノックして暫く待つと、執事ではなく1人の少女が現れて挨拶をしてきた。身なりからするとマールの妹なのかな?
「ようこそ、レジストリー家へ!どちら様でしょうか?」
「こんにちは、私はレジストリー子爵家の当主を務めるミーナリアと申します。レジストリー男爵はご在宅ですか?」
同じレジストリーと聞こえた為に少し戸惑った少女は、少し間をおいてから返事をした。
「少々お待ち下さいね」
「はい」
少女が戻って行くと、武の男爵家の当主とは思えない体格の男性が現れた。
「お待たせしました。レジストリー男爵家の当主トーマソンです。本日はどのような御用かな?」
「女学院の学院長であるアリスター妃爵様の名代で参りました」
上級貴族の中でも最上位に位置する妃爵と聞いて、トーマソンは少し驚いたようだが、直ぐにサロンへと当主が直々に案内をした。
(金策に困って執事を解雇したのかな?)
サロンへ通されて席に着くと、後妻と思われる女性がお茶を持って来たが、所作は全くなってなかったが、私は気にせずに用件を伝える。
「妃爵様の名代で参りましたミーナリア.レジストリー子爵です。こちらが妃爵様からの手紙と書類になりますのでお目通しを」
レジストリーの名に少し驚きながらも、なにか言おうとしたが辞めて、手紙と書類を受け取り内容を確認した。手紙を読み進めると表情が険しくなり、最後は唇を噛み締めて私を睨んだ。
「この内容を受け入れる事を、お断りする事は出来るのでしょうか?アイマールは私の愛娘です。いきなり転籍させると言われても困ります」
再び借金を帳消しにする為の大事な娘を、簡単に手放す事は出来ないか……妃爵を命令を断る方が問題だと思うんだけどね。
「私は名代なのでなんとも言えませんが、王家と同等の妃爵様のご命令を、下級貴族が断れると思われるのですか?」
「くっ……しかし、時間の猶予は頂けないかと、娘と話し合わないと直ぐには……」
なかなか書類にサインをしないので、私は少し脅しをかけてみる。
「では、このまま私と王都へ向かい直接その事をお伝え下さい。妃爵様へ断られたと私からは伝える事は出来ませんから」
「わ、判りました。直ぐにサインをします」
流石に妃爵へ直談判など出来る訳もないので、慌てて書類へサインをして渡した。これで、マールはこの家の呪縛から解放されると思うと、笑みが出そうになったが耐えきった。
「では、用件が済みましたので失礼します」
「娘に会う事は叶わないのでしょうか?」
「サインをされた時点で、血の繋がりはあってもレジストリー子爵家の者となったので、娘と軽々しく口には出さないで頂きたい。アイマールは私が不自由ない生活を遅らせます」
そう言った後は、振り返らずに男爵邸を出て馬車に乗って王都へと戻ったのだった。
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