第56話 成長の証

 理力操作を開始して1週間が経つと、水玉の大きさは相変わらず均一に出来ないけど、形状を維持しながら理力切れを起こさないようになった。


 師匠からも、成長の証がハッキリと見えると褒められて、残った時間は部屋へ戻らずにアリシャに武術の訓練に付き合ってもらうようになり、かなり効率が良くなってきた。


 そして、師匠との基礎訓練が終わった後に、いつも通りにアリシャと訓練場で打ち合いをする。


「お嬢様は目が良いですが、もっと扇と身体の動きを一体化させないと対処できなくなりますよ」


 アリシャはそう言った後に、扇の攻撃速度を上げてくると、目では扇の動きを追えても身体が反応できなくなって押し込まれる。


『カッ、カッ、カッ、パシッ!』

「はっ、はっ、あっ、あんっ……」


 最後は扇を弾かれた時に手首へ軽く扇が当たって、思わず声が漏れたところで一本を取られると、アリシャは直ぐに私に近寄って手首を確認する。


「大丈夫ですか、痛みはありませんか?」

「うん、大丈夫だよ。一連の動作にまだまだ無駄があるんだね」

「そうです。打ち合いはここまでにして、私の扇の動きを見てから真似してくださいね」

「うん」


 アリシャの動きはとても滑らかだった。私もその動作を真似したけど、扇の動きが少しブレると面に空気が当たって僅かに遅れる。恐らく1秒に満たない僅かな遅れが、さっきの打ち合いで扇を弾かれる原因だと判った。


「アリシャの領域に到達すると、線の動きが少しブレても隙になるんだね。まだ時間があるから動きの練習を続けるね」

「はい、水平の動きに気をつけてくださいね」


 私の隣でアリシャも線の動きをしながら、ブレる瞬間を指摘して癖のある動きには、手を添えながら身体に染み込むまで、同じ動作を繰り返してその日の練習は終わった。


「ふぅ~、疲れたよ。汗でビッショリ……」

「お疲れ様です。部屋へ戻って汗を流してから、夕食にしましょう」

「うん、お腹が減ったから早く帰ろう!」

「お嬢様、淑女がそのような言葉を……」

「2人の時は大目に見てよ。ねっ?」


 私が舌を出しながら頼むと、『はぁ~』とため息ついた後に軽く頷いてくれた。


「私と2人の時以外はダメですからね」

「ありがとう。アリシャ大好き」

「ふふっ、早く部屋へ戻りましょう。お腹の音が鳴る音を他の方に聞かれるとマズイですからね」

「もぅ、そんな事にならないよ」


 少し頬を膨らませながら、アリシャの腕にしがみつきながら部屋へと戻ったの。


§アリシャの想い§


 お嬢様が女学院に入学されてからは、毎日のように笑顔を見せるようになられた。同性だけの環境ならこれだけ明るく元気に過ごす事が出来るのだと安心した。


 女学院に在籍できるのは最大で5年なので、卒業後は当初の予定通りに、人里から離れた場所を見つけて暮らす事がベストだ。


 トラウマを克服する事が出来ればと思うけど、弟ですら拒んでしまうのだから厳しいだろう。私もその事だけは気をつけなければ……


 お嬢様の幸せこそが私の幸せ。


 必ずお嬢様を幸せにしてみせる。


 アリエル様、私達をお守りください……

 



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