修行の章

第55話 修行開始

 女学院の前期が終了して長期休暇に入る。


 長期休暇なので授業は行われないけど、基本的には卒業するまでは、学院の敷地から出る事はない。例外として、生徒の家側から帰省申請が行われて学院長が認可した時のみ、学院の敷地から出る事ができる。


 私にも実家から帰省申請があったけど、学院長が認可しなかったので帰省せずに済んだ。


 父は変わらず金策に困って、あの男から再び借金をしてるようで、今回の帰省で私を借金の肩に差し出すつもりだったみたい……本当に最低な父親だと思う。


 他の貴族令嬢はグリアも含めて実家へと帰省して行った。グリアは最後まで帰省したくないと言っていたけど、伯爵家ともなるとサマーパーティー等の催しがあるので、家族が揃わなければ体裁が悪いからね仕方ないね。


 そんな訳で長期休暇は午前中は、帰省しない平民の生徒達と学力と武術の勉強会を、午後からはアナスタシア師匠との修業となった。


 長期休暇初日の午後になり、いよいよ修業が始まるので、私は学院長室で師匠から修行の説明を聞く。


「先ずは基礎を徹底的に鍛えるよ。理力操作と理力量の底上げの修行だけど、何故この地味な修行が大事だと思う?」


 基礎を徹底的に鍛える理由を聞かれたので、私の考えを答えた。


「理魄を使うと理力を消費します。そして理力量には限界があるので、理力操作で力の消費を減らすと同時に、理力量を底上げすれば単純に使用回数が増やせるからです」


 その通りだよ。ミナより遥かに理解してるから説明の時間が省けるね。では、見本を見せるから同じようにやってごらん。


「先ずは視認しやすい水の理魄を使って、両手の手のひらに水玉を出す」

『ポッ、ポッ』


 師匠は言葉の後に手のひらに水玉を出したので、私も見様見真似で水玉を出してみる。


『ポッ、ポンッ……パシャ』


 なんとか水玉を出す事はできたけど、師匠のように同じ大きさの物でないし、形状を維持するのもままならずに10秒程で壊れてしまった……


「あっ……」

「簡単そうに見えて難しいだろ?ただ、いきなり水玉を出せるとは思わなかったよ。今日は理力が尽きるギリギリまでこの修行をするよ」

「はい、あの……理力が尽きるギリギリとはどのように確認すれば良いですか?」


 理力の見極め方を知らないので、師匠へ質問をすると『ニヤリ』としてから答えてくれた。


「何度も理力切れを経験して学ぶんだよ。理力切れで落ちた時は、メイドを呼んであげるから安心するように」


 自分で感覚を掴めとの事だったので、私は言われた通りに手のひらに水玉を出して維持をする修行を始めた……


「あっ……」


 修行を始めて2時間程経ったところで、私の理力は底を尽いて目の前が真っ暗になった。


(これが理力切れなんだね……)


 理力切れで修業初日を終えたのだった。


§アナスタシア視点§

 アイマールは本当に頭が良い娘だ。


 修行を行う理由もしっかりと把握してる。ミナの時とは大違いだし、アリエルと比べても理解度は非常に早い。


 いきなり水玉を出したのにも驚いた。ミナは1週間、アリエルでも2日掛かったのに……1番驚いたのは理力総量だ。あの不安定な水玉で2時間も続けるなんて信じられなかった。


 この娘はいずれ私を超えると確信した。

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