第54話 最後の弟子

 私は優しさを感じながら身を委ねた。


 そして、心が落ち着くと目を開けると、私は膝の上に頭を乗せている事に気付いた。


「あっ……」


 確か、私はミナ先生の教諭室で学院長と会って、私に起こった全てを話した後は……そこからの記憶は無かった。正確には話してる途中からの記憶が無かった。


「目が覚めたいか?かなり辛い事をさせて本当に申し訳なかったね」


 私は有ろう事か学院長の膝を枕にして寝てしまっていた……慌てて頭を上げようとすると、学院長の温かい手が私の頬に触れた。


「そのままで良いんだよ」

「あの……でも、流石に……」

「弟子は師匠の言う事を聞くものだよ。もう少しゆっくりしてると良い」


 学院長が私の事を弟子と言った。


「私なんかが弟子になって良いのですか?私は理魄を偽って不正に……」


 理魄を偽って不正に入学した事を口にしようすると、学院長は指で私の口元を軽く押さえた。


「アイマールの才覚〚創造変換トランスフォーム〛は無限の可能性を秘めていて、私の考えだと理魄を凌駕する物だと思ってる。実際にフォースの疑似理魄を持ってるだろ?セブンスだって可能な素晴らしい能力じゃないか。私の目で確認しても理魄と認識したんだから、疑似理魄ではなく理魄だよ」


 口元に指を当てられたので、私は頷いて返事をする。


「これからは、私の弟子として鍛えるからね。厳しいかと思うけど頑張っておくれ」


 私は頷く。


「アイマールはアナスタシア.アリスターの最後の弟子になると思うけど、その事で国に尽くそうなんて思わなくても良いからね。争い事は悲惨で何も残らない……私も大事な弟子アリエルを失ったからね」


 学院長との話をしているとドアをノックする音が鳴ると、私の口元に当てられていた指を離してから返事をする。


「入って良いよ」

「失礼します」


 ドアが開くと、ミナ先生とアリシャが入ってきて、アリシャは不安な顔をしながら、学院長の膝枕で横になってる私の元へ歩み寄った。


「大丈夫だよ。凄く気持ちも穏やかなんだけど、師匠からお母様のような優しさを感じるから、甘えさせてもらってるの」

「そうですか。それは良かったですね」


 アリシャは私の言葉を聞いて、優しい笑顔で答えた。するとミナ先生が確認するように私へ声をかけた。


「師匠と言ったから、アイマールは私の妹弟子になったんだね」

「はい、これからはお姉様と呼んだ方が良いですか?」


 私が軽い冗談で応えると、ミナ先生は予想外の返事に少し驚いたけど、笑いながら応えた。


「放課後で他の生徒が居ない時にはお願いするわね。可愛い妹ちゃん!」


 私とミナ先生のやり取りに、その場は笑いに包まれたのだった。


 私はこの日から、アナスタシア.アリスター妃爵の正式な弟子となり、母が歩んだ道を辿る事になったのだった。


◇◇◇

 次回の更新から修行の章となります。


 王国の最高戦力と言われた学院長と師弟関係となり、厳しい修行が始まります。

 引き続き『辛い過去に立ち向かい、幸せを掴むまで』をお楽しみください。


 







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