第53話 私の全てを……

 私は学院長から母との出会いから弟子となった経緯や、共に戦場へ赴いた時に母に生命を救われた事などを聞いた。


「アリエルを治療した医師からは、戦場に戻る事は不可能だと聞かされてね。そのまま故郷へと帰って行ったんだよ」

「戦場から故郷へと戻られる時に、戦災孤児だった私をアリエル様が引き取ってくれたのです。そしてレジストリー家へ嫁がれた時には、メイドとしてお供しました。その後はお嬢様がお生まれになったので専属メイドとして任せれました」


 アリシャが母との出合いについて口にした後に、目を瞑って話を続けた。


「アリエル様から全てを任されたのに……私はお嬢様をお守りする事も出来なかった、不甲斐ないメイドです。妃爵様、どうかお嬢様の事をよろしくお願い致します」


 アリシャが私を守れなかったと言う、これまでずっと守ってくれていたのに、私はそんなアリシャに向かって言葉をかける。


「ア、アリシャ!私はずっと守られて来たよ!アリシャが居なければ命を絶ってたもん」

「くっ……お嬢様」


 私とアリシャのやり取りの中、学院長が一通の手紙を机の上に置いてから話し始める。


「そのメイドが私に頼んだ理由はこれだよ。アイマールの実家から手紙が来てね。弟子にするにあたって、メイドから色々と話を聞いてね。悪いんだけどイーブル子爵に絡む可能性がある物は、私の権限で確認させてもらってるんだよ」


 学院長が話し終えると、ミナ先生が続けて口を開いた。


「私は誓約書を交わして、アリシャが知ってる範囲でアイマールの過去を聞いたの。それでイーブル子爵の周りを調べていると、イーブルとあなたの父が接触したと報告があがったんだよ」


 あの男の名前を聞くと身体が反応して、私は『ブルブル』と震えだしてしまった……しかも父があの男と接触してるなんて、あの時と同じ事がまた起こるのかと思い、不安にかられた。


「本来なら女学院に通ってる間は、長期休暇の期間も学院外に出る事は出来ないのに、レジストリー男爵は実家へ戻るように書いてるんだよ。イーブル子爵が、アイマールに執拗に拘る理由が判らないんだ」


 私の反応を見て、学院長が申し訳なさそうな顔をしながら話しかけてきた時に、私は理解した。アリシャの知らない私の全てを知りたいんだと……


「私とあの男の間にあった事を……全てお話します……」


 その後は、上手く話せたのかは覚えていない。


 ただ、お母様に優しく包まれてる感じがしたので、その優しさに身を委ね続けたの。


(お母様ってこんなにも優しくて、とっても柔らかいんだね……)

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