閑話 話が違う

 ルクレツィアは焦っていた。


(なんなの……全然話が違うじゃない!)


 武術対抗戦で私と対峙するアイマールは、父が植え付けたというトラウマにより、立ち向かう事も出来ずに私に敗れるはずだったのに……


『カッ、カカッン、カッ、キィン!』


 父よりDクラスのメンバーに送られた、攻撃速度を上げる特殊武具を使ってるのに、全ての攻撃を受け止められた。さらに私の攻撃に慣れたのか、こちらの攻撃速度を上回る速度で反撃に転じられて、いつの間にか攻守が逆転して防戦一方になっていた。


「な、なんなのよ……」


 アイマールの攻撃を受け続けていると、下がり際につま先へ扇を投げ当てられて、私はバランスを崩して尻もちを着いてしまう。


「あっ、キャッ……」


 その後は、一気に押し切られて私は敗北したのだった……


 私は敗れた悔しさから次の試合で勝たせない為に、アイマールへ向かって脅しの言葉を言い放ってやった。


「この事は父に報告するわ。また遊んでもらえるといいわね」

「くっ……」


 予想通りの反応を見せたアイマールに、私は優越感に浸って闘場から降りようとすると、闘技場の観覧席から大声が響き渡ると、私は何者かの理魄によって突然吹き飛ばされた。


「キャッ」

「不必要な脅しを許すつもりはないよ。あんたはこの女学院に相応しくないね。私の権限を行使して、あんたを退学処分にする」


 突然、私へ退学処分を言い渡したのは、この女学院の学院長だった。まさかあの場所から、私が言い放った言葉を聞き取れたとは思ってなく、なんとかごまかそうと嘘の言い訳をすると、アッサリと真実を暴露されてしまったのだった……


 その後は、守衛兵に付き添われる形で、強制的に女学院から追い出されたのだった……


 私は退学処分を受けて、失意のまま王都にあるイーブル商会にある自宅へと戻った。女学院に居るはずの私が現れてメイド達が驚く。苛つく私はメイドに語気を強めて父の居場所を聞いた。


「お父様はどこに居るの?急いで報告する事があるから教えなさい!」

「だ、旦那様は会長室で来客中で……」

「判ったわ。メイリン!荷物を部屋へと運んで置きなさい!」

「かしこまりました」


 父が居る会長室へ急ぎ足で移動する。来客中だと聞かされたけど、そんな事に構ってる余裕はないので、ノックもせずにドアを開けて部屋へと入る。


『バンッ!』

「お父様、どうなってるのよ!全然話が違うじゃないの!おかげで女学院を退学されたのよ!」

「ん、ルクレツィアか、なんの話をしてるんだ。今は来客中で構ってる暇は……退学だと!詳しく説明しなさい」


 その後は、客が居るその場で武術対抗戦であった事の全てを説明すると、お父様の表情は娘の私から見ても気持ち悪いと思えるほどの笑みを浮かべ、客の方は信じられないといった表情になっていた。


「そういう事だ。貴方の借金を肩代わりしてやるから、代わりに娘を昔のように私へ貸してもらえるかな?レジストリー男爵」


 驚いたことに来客はアイマールの父だった。借金地獄で苦しいから、再び借金の肩代わりに娘を差し出すつもりなのか。本来なら同情するんだろうが、アイツのせいで退学になったので、これから地獄のような苦痛を味わうのかと思うと、心の底から喜びが込み上げてきたのだった。



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