第44話 柔と剛の対決

 キャメリアは闘場から降りてからも、腹部を押さえたまま自力では動けないでいた。


「キャメリア、その状態じゃ残りの試合に出るのは無理だよ。医務室で治療をしてから試合は棄権しよう」

「でも、私が試合に出て役目を果たさないと……グッ……」

「会話するのも大変な状況じゃない……貴女の対抗戦にかける想いは、私が引き受けるよ。だから治療してこの場に戻って声援で力を送ってね」

「ア、アイマール……私は貴方に……」


 キャメリアが痛みに苦しみながらも何かを言おうとすると、闘場から声を掛けられる。


「勝者セイラ!Aクラスの中堅上がりなさい」


 次鋒のクリスティもアッサリと敗れて、中堅である私の順番が回ってきた。


「ごめんね。話しの途中だけど呼ばれたら行ってくる。キャメリアがくれた情報は無駄にしないからね!」

「くっ、私は何も……」


 私はキャメリアに笑顔で頷いてから闘場へ向かうと、肩を押さえながらクリスティが降りてくる。申し訳なさそうな顔をしながら、すれ違いさまに声を掛けてきた。


「ごめん、何も出来なかった」

「ううん、後は私達に任せて。キャメリアの介抱をお願いね」


 私が闘場に上がると、息すら切れてないセイラは余裕の笑みで待ち構えていた。私が両手に扇を持って自然体で立つのを確認すると、ミナ先生が試合開始の合図で3戦目が始まる。


「では、3戦目開始!」


 セイラは槍を振りかぶりながら間を詰めてきて、フェイントなんてせずに全力の一撃を打ち込んできた。扇では受け止める事が出来ないと判断したんだね


「せぇええい!」

「はっ!」


 私は2つの扇を交差させてから、槍の一撃を受け止めるのではなく、インパクトの瞬間に勢いを殺さずに軌道を変える。勢いはそのままだったので、セイラはバランスを崩しながら床へ槍を叩きつける。


『ガキッ!』

「なにっ!」


 大きな隙が出来たセイラの背中へ、私は受け流した時の力を利用して、回転しながら扇を開いて打撃を入れる。あたった瞬間に開いた扇は衝撃で閉じていく。


『タン、タッタッタッ……』

「くぅ……」


 模造武具とはいえ、軽金属で出来た親骨と中骨の連撃が入ったので、セイラにはダメージが入ったはず。それでも体勢を立て直して槍を水平に振って、槍の得意な距離を取って構え直す。


「やるわね!お勉強だけと思って油断したわ!」


 打撃を入れられた事で自尊心を傷つけたのか、油断をしたと言い訳をした後に、軽い突きを連続で入れてきた。強い突きを放つタイミングを見計らっているんだと思ったので、少し隙を作って乗ってみる事にした。


「やぁー!」


 思った通りに引っ掛かったので、突きに対して扇を広げて斜めに向けてから、渾身の突きを受け流してからは、体を右に回転しながら右手の扇でセイラの左脇腹へ一撃を入れて、その勢いのまま体を回して左手の扇を、セイラの顔の手前で止める。


『ビュッ!』

「ひっ……」


 セイラが小さな声をあげて目を閉じたところで、ミナ先生が試合を止める。


「それまで、勝者アイマール!」

「ありがとうございました」

「……ました」


 私はAクラスの控え席に顔を向けて、キャメリアへ笑顔でウインクをすると、嬉しそうに頷いてからクリスティに補助されながら医務室へと移動して行った。


(キャメリアのお陰で、相手の戦闘スタイルが判ったから勝てたんだよ。ありがとう)


 



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