第42話 立ち向かう勇気

 武術対抗戦の前日に選抜委員の会合が行われる。出場届の提出と初戦の組み合わせを決める。武術対抗戦は初戦で勝ったクラスの次戦は、負けたクラスと当たる事になっていて、3戦目は当たってないクラスとの対戦になってるの。このシステムだと、3戦目に全勝対決になる確率が高く盛り上がるかららしい。


 そんな大事な会合だけど、私は参加する事に不安を感じていた。理由はルクレツィア.イーブル嬢の存在で、彼女からなにかしら接触されるのが怖かったから……


 アリシャは私の不安な思いを察して、寮から出ていく前に優しく抱きしめて声を掛けてくれた。


「お嬢様、不安な気持ちなのは判りますが、立ち向かう勇気を持ちましょう。相手は同じ女学院生であって、あの男ではありません」


 アリシャは同じ女学院の生徒だから、怯えずに立ち向かう勇気を持つように言ってきた。意味は判るけど気持ちの整理が出来ない……


「そうだけど、あの言葉を出されると冷静では居られないよ……」


 不安でいっぱいになって弱気な言葉を返すと、私の両肩を力強く持ちながら、いつもとは違う強い口調で語り掛けてきたの。


「大丈夫、お嬢様はあの言葉に負けてません。全ての理魄を壊されても、それを克服して女学院へ入学したのですよ。何度も言いますが、立ち向かう勇気を持てば絶対に大丈夫です。私がお嬢様に嘘を言った事がありますか?」

「ないよ」

「では、私の言葉を信じてくれますね?」

「うん、頑張るね。ありがとう」


 私は『ありがとう』と伝えた後に、アリシャに抱き着いて目を閉じた。


「頑張るね……少しだけこのままで居させて」

「かしこまりました」


 暫くアリシャに甘えさせてもらった後は、部屋を出ていつも通りに授業を受けた。放課後は選抜委員の会合があるので、勉強会は私とグリアは参加しないけど、他のクラスメイトだけで復習をするらしい。


 私達はクラスメイトに声を掛けて、集会所へ雑談をしながら移動をする。


「マール、選抜委員の会合へ向かうわよ」

「うん、会合と言っても初戦の組み合わせと、出場届を提出するだけだから早く済みそうだね」

「早く終わって時間があれば、少しだけでも明日に備えて軽く打ち合う?」

「いいね。訓練場を使えるかミナ先生に聞いてみよう」


 そんなうちに集会所へ着いたので、席に着いて会合が始まるのを待つ。少し遅れてDクラスの委員が入室すると、ルクレツィアは私の方を向いて『ニコッ』と笑顔を見せながら近寄って来た。


「明日はお手柔らかにお願いね。私は対抗戦の結果を父に報告してるから、不甲斐ないと叱られるのよ」


 ルクレツィアは私を動揺させようと、父と叱られるというワードを入れて話し掛けてきた。胸の鼓動は激しくなったけど、アリシャに言われた通りに勇気を持って立ち向かう。


「クラスの勝利の為に全力を尽くすので、圧勝してしまったらごめんなさいね」

「まっ、流石は天才ね。貴女の事をしっかりと報告しておくわ」


 ルクレツィアは、そう言った後に、Dクラスの委員長と一緒に少し離れた席へ移動して行った。


(アリシャ、頑張ったよ……帰ったら褒めてね)


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