第24話・俺とロミオと折檻棒
俺とロミオの野球拳勝負が決定した瞬間、トーマが賭けの胴元をはじめ、主に男子生徒たちが乗っかりはじめた。まだ女どもはブーブー言いながら、ロミオを慰めたり心配したり、俺たちに敵意のこもった視線を向けてきたりする。
敵意には敵意で返すのが俺のスタイルなので、舌ベロ出して中指立てて煽りまくってやった。
脱ぎ散らかしていた服を改めて着直していたら、魔王が呆れたようなため息をつく。
『君は敵を作るのが好きなのかい?』
――お前の世界はどうか知らんが、俺の世界には敵しかいねぇよ。人間なんて率先して敵対してくる奴か、味方の振りして敵になる奴の二種類しかいない。全部敵なら、思考パターンも読みやすくて楽だ。
『君の妹もかい?』
――肉親だって同じだよ。でも、敵に回したくないから努力するんだろ? 恩を売るなり愛情を示すなり、味方の期間を長くする努力は必要だ。莉子だって俺がDVクソ兄貴だったら、あんなに懐いたりしないだろ。
『なるほど、そういう価値観なら、私のことを信じてもらうのにも時間がかかりそうだね』
――信じるなんて行為は思考の放棄だろ。裏切られた時に「信じてたのに!」ってキレる奴いるけどさ、ただ疑うことを放棄して楽してただけじゃね? 裏切られるのも全部自業自得だよ。
『そうだね。でも、私は君に信じてほしいから、好きになってもらえるよう努力をしよう。君が妹にしているようにね』
――お前が何をしようと俺は疑うことをやめないよ。
『要するに私を理解しようと努力してくれるということか……なんだ、君も私のことを好きなんじゃないのかい?』
――魔王が俺を信じたいなら好きに信じろよ。俺も好きにお前を疑うだけだ。
などと魔王と会話をしている内に賭けは締め切られたらしい。いつの間にか、ラオウが審判役となり、俺とロミオに「準備はできたか?」と尋ねてくる。お互い、うなずいたところで、うるさかったギャラリーが静まりかえった。
「それじゃあ、はじめるぞ」
ラオウの言葉に俺は構える。どこから持ってきたのかわからないが、なんか野球拳の曲まで流れ始めてきた。
「や~きゅ~う~♪ す~るなら~♪ こ~ゆ~ぐあいにしやしゃんせ~♪」
俺とギャラリーが一体となって歌っているのに、ロミオはキメ顔で直立不動だ。
スカシやがってよ!!
「アウト! セーフ!! よよいのよいっ!!」
結果、普通にジャンケンで負けた。
しかも、六連敗っすわ。
ジャケット、シャツ、ズボンにベルト、靴や靴下も脱ぎ捨て、残りはボクサーパンツ一枚だけ。
あれ? ロミオ君、ジャンケン強くね?
ロミオはキメ顔で前髪をかきあげ、フッと笑った。
「どうやら正義はロミオにあるようだね。ま、当然の結果さ」
ギャラリーから「おい何やってんだよ!」とか「一枚くらい剥きなさいよ!」などと野次が飛んでくる。女子の声も混ざっていたが、気にしない。
ラスト一枚。ここで負けても俺は構わない。
俺たちの目的はチンコの大きさでロミオにマウントを取りつつ、ロミオファンのバカな女子どもの海馬に俺の珍棒の記憶を刻みつけ、トラウマにしてやることだ。
だから、ここまで作戦どおりなのだが、どうにも釈然としない。
さて、どうしたものか? と考えていたら、魔王がため息をついた。
『彼、
――はあ!? どういう!?
『おそらく未来予知の一種だろう。いわゆる魔眼系の
――卑怯じゃね!? なにそれ、チートじゃん!! 対応策は!?
『今の
思わず、舌打ちを鳴らす。さすがに
最終的に負けてもいいんだけど、メンタル的に勝った気分になりたい。
「次が最後だけど覚悟はいいかい?」
ロミオが澄ました顔で俺に言ってくるが、俺は魔王に語り掛けた。
――数秒先しか見れないのか?
『おそらくね。未来認知系の
――外れるんだ?
『数秒先ならほぼ外れない。魔粒子の流れ的に目に頼った未来視だろうね』
目に頼ったねぇ……。
なるほど、だったらやりようはあるかもしれない。まあ、最終的には運だし、負けても目的は達成される。
あとは気分の問題だ。
俺は覚悟を決め、舌ベロを出してロミオを煽った。
「お前、卑怯じゃね?
ピクリとロミオの眉間が寄った。それに付随してギャラリーがザワつきはじめる。審判をしていたラオウが「おい、どういうことだよ?」と尋ねてきた。
「おおかた未来予知とか未来認知とか、そういう
「……仮にそうだとして、それになにか問題があるのかい?
フッと髪の毛をかきあげながらロミオが言い、女子たちが黄色い声援をあげる。ま、実際、ロミオの言うとおりだ。
「ああ、ルール上、問題ない。それと気づかず勝負を挑んだ俺の落ち度でもある。まあ、正直、これ以上の勝負をやる意味が無い。俺は強制的に負けるってことだろ?」
「あれだけ煽っておいて、君は逃げるのかな?」
既に勝った気でいらっしゃるようですな。いいぜ、その調子だ。慢心してくれ。
この超実力主義なD特区で生き残ってきた無能力者を舐めるんじゃねぇよ。お前ら、上から目線の天才どもと、俺はレスバと拳一つで渡りあってきたんだ。
「いいや、逃げねぇよ。けど、次のジャンケンで俺が勝ったら、お前は全部脱げよ。いいだろ? 別に。お前は絶対に勝つんだからさ」
ロミオの眉間にシワが寄る。後ろの女どもが「はあ? 意味わかんないし!」「見苦しいんだよ、ブス」「負けを認めなさいよ!」とか騒いでいた。
「それとも~、絶対に勝てるってわかってても、逃げちゃうんでちゅかね~? ま、陰でこそこそ
メスガキ顔で煽りまくってやった。さすがにカチンと来たようでロミオの視線が細くなる。
「わかった。いいよ。次、僕が負けたら、全裸になろう。でも、それじゃあ、君のデメリットが無さすぎるんじゃないか?」
「いいぜ。罰ゲームでもなんでも聞いてやるよ」
「僕が勝ったら、学園を去れ。君のような奴の顔は二度と見たくない」
さすがに即答できなかった。
魔王のおかげで
ま、その辺はどうとでもなるか。最悪、レスバでご破算にしてやればいいんだし。
「いいぞ。俺が負けたら、退学届けを書いてやる」
そう言ってから俺は人差し指を立てた。
「そのうえでルールを少し変えたい。ここから先はなんでもありの野球拳だ。お前だって
「ああ、かまわないよ」
言質は取った。
「最初はグーで行くぞ」
「ああ」
ロミオがうなずく。距離を近づける。奴が見ている未来が何秒先かはわからないし、最終的には運だ。負けた時のことが脳裏を過ぎる。恐怖が無いと言えば嘘になるが、それに付随して脳が痺れ、グッと世界が狭まっていく感じ。脳汁が出ている。
「最初はグー!」
グーを出し、振り上げた動きのまま右手の縦拳でロミオの顔を殴った。
予知能力を発動しているからロミオは俺の拳を半身になるように躱す。その手前で俺は手を開き、目打ちを狙う。最初の拳は躱せるだろうが、次の目打ちを躱すには体勢が悪い。
目を叩かれたロミオが怯んだ。
目を閉じたら未来も視えないよな!!
再び拳を握った俺は、ロミオの顎先を裏拳で掠らせる。パンと顎を叩いた瞬間、ロミオの膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。
「ジャンケンポン!!」
俺はチョキ、倒れたロミオの手はパー。
「見ろ、審判、あいつパーだよな!」
審判ラオウが「パーだな」とうなずく。
「よっしゃあ! 大勝利っ!!」
勝どきをあげたら「卑怯よ!」「ブスって心までブスじゃん!」「ありえないわ!」と女子どもからの大ブーイングである。そんな女どもに煽り顔で舌を出して挑発しまくってやった。
「なんでもアリの野球拳って言いましたよね~? てかさ、
ロミオが顎を押さえながら俺を睨んでくる。俺は勝ち誇った顔でロミオを見下ろした。
「はい、俺の勝ち」
ロミオは憤怒の形相で俺を睨んでいた。
「……まだ勝負はついてない」
「はあ? 負けたんだから、とっとと脱げよ」
「なんでもありの野球拳って言ったのは君だ!
不意に生じた風の刃。反応しきれず、防御態勢を取る。
だが、風の刃は俺の体を切り裂きはしなかった。
「先に裸になったほうが負――」
ロミオが目を大きく見開き、俺の股間をガン見しているし、周囲が一斉に静まり返った。
『君は裸が好きなんだね』
魔王の言葉に視線を下へと落とす。俺のボクサーパンツが切り刻まれ、布切れになっていた。当然、俺の陰茎は御開帳されている。
俺は腕を組み、勝ち誇った顔でロミオを見下ろした。
「俺の勝ちだ」
「あ、はい……」
ロミオがしょんぼりと目をそらした瞬間、女子たちの悲鳴が鳴り響く。
よし、計画どおり!!
「ひゃっはー!! 叫べ叫べ! これが折檻棒ってやつだよ!! お前らが家族以外で初めて目にするチンコは無修正な俺のチンコだーー!! 記憶に刻んどけやっ!!」
魔王が呆れたようにため息をついていた。
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