第21話・俺はやっぱりクズが好き
「また三途の川でじいちゃんと会っちまったぜ」
ラオウは豪快に笑っていた。その横でシュウこと修一郎も首の辺りを手で押さえ、トーマはスマートフォンを弄っている。
「いやぁ、最近のじいちゃんは、俺と会っても、またか? しか言わなくてよ」
ラオウと俺のつきあいは古い。
小学生の頃から一緒の学校に通っており、なにかにつけ、ラオウが俺にカラんできたのだ。その都度、デスパンチで迎撃してきた。その流れでいつの間にか、仲良くなり、悪友としてつるむようになっている。
ちなみにラオウがFクラスに落ちた理由は『学力不足』だ。
リーゼントという時代遅れな髪型からもわかるとおり、ラオウは頭が悪い。
「ていうか、いい加減、喧嘩挑んでくるのやめろよ。素手なら俺が勝つんだからさ」
ラオウは
「なあ、兄弟……お前、知らないのか? 臨死体験ってめっちゃ気持ちいいんだぞ?」
「え? お前が俺に挑んでくるのってそれが理由なの?」
「それ以外になにがあるってんだ?」
衝撃的な真実を突き付けられ、一瞬、思考が停止する。
どうやら俺は知らない間に友人を怪物に変えてしまっていたらしい。デスパンチを使うのは今後控えよう。
「頭を本気で蹴るとかイカレてんのかよ……」
ブツクサ文句を言うシュウに「先に喧嘩を売ってきたのはお前らだろうが」と言い返す。
「てめぇがルナちゃんと朝から仲良くドスケベかまして登校してるってタレコミがあったんだよ!」
「ドスケベしてねぇわ」
シュウは目を見開き、俺をにらんだ。
「いや、してるね! お前は粉飾童貞だ!!」
そして、天を仰いだ。
「俺もドスケベしてぇぇぇぇぇぇぇっ!! あおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
シュウの遠吠えに女子が引いていく空気を肌で感じた。というか、物理的にも距離を取っていた。無理も無い。
獣人である修一郎は、普通に考えてFクラスにいるはずがない。獣人種は高い魔粒子適性を持っているし、身体能力が人間よりも高い。そのため、冒険者としての才能があるのだが、こいつは人間性に問題があって、Fクラスに落とされた。
「ドスケベしてぇ……ドスケベしてぇよぉ……」
シュウの口癖は「ドスケベしてぇ」である。その発言だけでセクハラなうえ、こいつは女子をジッと見つめ、視姦するのだ。やめろと注意されても「視姦は合法です」と言って逃げる。実際、直接的なセクハラは一切しないのだが、発言に問題があったりして、Fクラスに直葬となった。
そんなに童貞を捨てたいなら、さっさと娼館に行けばいいのだが、本人曰く「エロゲーみたいな恋がしたい」というわけのわからないピュアさを持っている。
昔、トーマが「現実でエロゲーのような恋ができる奴はいねぇでござる」と言ったら、烈火のごとくブチギレて、トーマをフルボッコにしていたので、夢見る童貞を怒らせてはいけない。
「真央殿もルナたんファン倶楽部の情報網をなめないほうがいいでござるよ」
スマートフォンを弄りながら、トーマが言う。デスパンチをくらっても反省しないあたり、こいつも頭がおかしい。
まあ、この中で一番ヤバいのが、クソエルフこと星宮斗真だ。
こいつはガチの犯罪者である。
もともとCクラスの生徒だったのだが、持ち前のハッキングスキルやらコミュニケーション能力を使ったヒューミントで、代々木冒険者スクールの生徒情報を盗み出し、それをブラックマーケットで売りさばこうとしていたらしい。
らしい、と言うのは証拠が無く、事前に防がれたからだ。
だが、トーマがやろうとしていた証拠も無いし、事件は起きなかったため、退学処分にはできず、しかたがないからFクラスに放り込み、要監視対象者となったらしい。
らしい、と言うのはトーマが自分で言っていたことなので、全て嘘という可能性もあるためだ。
そんなイカれた級友が俺にとっての友人である。
「はあ、マジでこの世界はクソでござるなぁ……」
これみよがしにトーマがため息をつくので「なにがあったんだよ?」と興味は無いけど、尋ねてみる。
「拙者、マリンちゃんというダンジョン動画配信者を追いかけているのでござるが、そのチャンネルがアカバン喰らってから復活してないのでござるよ。それでムシャクシャして、幼馴染と朝からドスケベライフをかましている真央殿のお命を頂戴しようと思ってしまった……」
「ムシャクシャしてやったって犯罪者の供述だぞ、それ?」
一応、つっこんでおく。あと、ドスケベはしてないし、俺はルナが嫌いだ。と言うと、火に油なので、もう何も言わない。
「よくわからないけど、どうしてアカバンなんて食らったんだよ?」
「生配信中に裸の男性が映ってしまってな……」
シュウが「リアタイドスケベ配信なのか!?」と反応していたが、エロ犬の発情期はスルーするに限る。
「ダンジョンに局部もろだしの露出狂冒険者がいたでござる」
「なにそいつ? イカレてんな……」
さすがの俺も引く。
「まあ、マリンちゃんがピンチだったので、その露出狂がいて助かったのは事実でござるが、局部が全世界に配信されてしまったでござる……」
「これ以上無いデジタルタトゥーじゃないか」
さすがの俺も同情する。
「まあ、顔は映っておらず、局部とケツだけでござるが、動画が拡散してしまったでござる。結果、マリンちゃんのチャンネルは運営に消されてしまったでござるよ……」
深いため息をついていた。
「……そりゃあ、真央殿、殺すってなるでござるよね?」
「うんそうだね、にはならないからな」
「あのチンコ野郎……拙者がみつけたら、とりあえずマリンちゃんを助けてくれた礼を言ってからぶっ殺すでござる」
そんな怪気炎をあげていた。
正直、こいつらの推し活に興味は無い。
「そう言や、最近、迷惑系、むちゃくちゃ捕まってるよな」
というラオウの言葉にシュウが「天誅仮面だろ」と答える。
「あの動画見たでござるか? めちゃくちゃウケたでござる。拙者もチャンネル登録したでござるよ」
「そんなに面白いのか?」
と知らない振りして尋ねたらシュウが「サイコー」と答えた。
「てか、普通にガチの犯罪者相手に戦うってメチャクチャかっけぇよ。弟子入りしたい」
「拙者的には天誅仮面に全裸マンを捕まえてマリンちゃんのアカバンを無しにしてほしいでござるよ」
その言葉にラオウも乗っかる。
「つーか、普通に強いんだよ。
「あの火の球、エグイよな。ダンジョンの壁も貫くんだぜ? チートかよ」
「天誅仮面に助けられた勢が言うには、
「普通にダンジョン潜るより正義を成してるってのがいいよな。仮面はダセぇけど」
シュウの言葉にラオウも「たしかに仮面はダサい」とうなずいていた。
どうやら天誅仮面の仮面以外の評判は上々らしい。仮面を新しいモノに変えてもいいけど、まあ、微妙にダサいくらいが注目されるだろう。
『嬉しそうだね?』
俺の隣の席に座っていた魔王をチラリと見た。
――当然だろ。学生が朝一で話題に出すってのは、それだけ今をつかんでるってことだ。この路線で行けるとこまで行って、稼げるだけ稼いで引退だな。
『もう引退のことを考えてるのかい?』
――長く続ければ、それだけ正体がバレる可能性もあがるだろ? 俺は有名人にはなりたくないんだよ。
アイドル扱いされても平気なルナと俺は違う。
有名税で自宅を特定されたり、突撃されたり、場合によっちゃあ命を狙われるなど絶対に嫌だ。
――莉子が大学行けるくらいの金を稼げればいい。
それが叶ったら、あとは普通に危なくない仕事をするだけだ。冒険者とは関係ない普通の仕事を……。
――それまでは正体を隠し通さなきゃな。
俺は嘘をつくのが嫌いだ。
だから、ラオウたちに黙っていることに少なからずの罪悪感はある。でも、まあ、こいつら、平気で背後から殴りかかってくる程度に日頃から俺を裏切る連中だ。
だから、多少の不義理は連中だって許容範囲だろう。
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