第20話・だから俺はデスパンチを使う
駅から十分ほど歩くと見えてくるのは白い尖塔のような縦に長い建物が校舎だ。他には戦闘訓練用の体育館や、
エントランスは多少広く、駅の改札のようなゲートがある。ワラワラとアリが巣穴に帰っていくように、皆一様にゲートに学生証を提示して、中へと入っていくのだ。
代々木冒険者スクールは、学内試験の結果によってランク分けされている。
上からA、B、C、D、E、Fとなり、Fクラスは冒険者としての才能は無いという烙印を押されているようなものだ。
『この世界は縦に大きな建物が多いね』
――D特区は狭いからな。
魔粒子耐性のある人間を、隔離地区に押し込んでいるようなものだ。軽い人権侵害だけど、全世界が無視を決め込んでいる。まあ、普通の人間にとって魔粒子は毒以外の何物でもないからしかたないんだけども……。
『それに、皆、似たような服を着ているね』
――制服って言うんだよ。
次の瞬間、魔王は童貞を殺す服装から、女子生徒の制服姿に変わっていた。朗らかに微笑みながら『これで君とお揃いだね』と言ってくるあたり、油断がならない。
隙あらばフラグを立てようとしてきやがる……。
魔王への警戒心を強めつつも俺はFクラスの教室に入った。
教室には窓が無く、年中、じっとりとしている。通称、追い出し部屋、あるいは刑務所。そこにいる連中も、冒険者として失格の烙印を押された奴しかいない。俺のように能力が低かったり、性格に問題があったり、単純に学力テストで落とされたりする奴もいる。
まあ、俺を含めてロクでもない奴しかいないのだが、気のいい連中も多い。
「よお、真央!! おはよう」
時代錯誤なリーゼント頭の男が朗らかな笑みを浮かべながら手をあげて挨拶してきた。
「ああ、おは――」
「死ねぇぇぇぇぇっ!!」
いきなり殴りかかってきやがったので、とっさに躱しつつ腕を取って廊下へと投げ飛ばした。
「朝から何すんだよ!?」
抗議の声をあげたが、背後に殺気を感じ、振り下ろされた木刀を跳んで躱す。今の一撃、本気で打ち下ろしてきてたな。
「朝っぱらからルナ様を泣かそうとしたそうでござるなぁ!!」
小太りなメガネのエルフだ。太っているくせに無駄にパッチリ二重で睫毛が長く、顔が整っているのがムカつく。
「俺はいつ何時でもレスバは本気でやる! 幼馴染だろうが女子供だろうと容赦はしない!!」
「幼馴染とか架空の存在だろうがぁぁっ!!」
チビの犬耳獣人が、ワイヤーアクションみたいな跳び蹴りをかましてくる。それも、どうにか躱して、着地した獣人の頭を思い切り蹴飛ばしてノックアウト。本気で殺しにかかってきてやがる、こいつら!!
『君たちの世界の学校は朝から治安が悪いね』
――Fクラスはバッドな奴しかいねぇからな!!
俺も制服の上着を脱ぎ捨てる。
「素手での喧嘩なら負けねぇぞ!!」
メリケンサックをハメて殴りかかってくるリーゼントの滝本ラオウ。漢字で書くと裸王。名前は漫画のキャラクターをそのままつけられたらしいが、なぜ羅ではなく裸なのかはわからない。親がアホなのだろう。
俺はデスパンチをラオウの胸に叩き込んだ。
ラオウは胸を押さえながらぶっ倒れる。蹴り飛ばした獣人の初鹿野修一郎は、ピクピク痙攣しながら倒れているので、もう大丈夫だろう。死んだふりの可能性もあるが……。
残りは小太りエルフの星宮斗真だ。
「おい、クソエルフ。ラストはお前だ」
トーマはアメリカ人のように肩を竦めて木刀を投げ捨てた。
「HAHAHA! いつもの冗談でござるよ」
「冗談? 俺の頭ブチ割る気で来てたよな?」
「拙者たちは共にFクラス。底辺は底辺同士、仲良くすべきでござる。それに、拙者は不殺の戒めをやぶりたくないでござる」
「これはお前らが始めた喧嘩だぞ? 一人だけ無傷で終われるとか思うなよ」
「……フッ……さすがは真央殿……相変わらず容赦がないでござるなぁ……幼き頃、二人でザリガニ釣りに行った頃を思い出すでござる……」
「なに架空の思い出話始めようとしてんの? お前と出会ってまだ一年なんだけど?」
「許してほしいでござる!! 出来心だったんでござるよ!! 拙者の推しのチャンネルがアカバンくらってムシャクシャしていたんでござる!! 拙者やマリンちゃんも混迷する社会情勢の被害者でござる!! 全て社会が悪いと思いませんかっ!? 私はそう思う!! 同士真央よ! ともにこの社会をぶっ壊すために立ち上が――」
「お前もデスパンチな」
「その頭の悪い名前のパンチは嫌でござる!! ほら見て! ラオウが泡吹いてる!!」
「うるせぇ!! デスパンチ!!」
きちんとデスパンチをぶちこんでやる。
放置しとくとマジで死ぬので、蘇生するためにデスパンチ・リバースを打って二人とも生き返らせておいた。
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