第10話・よって俺は罰をくだした

 逃げるカスどもを追いかけていたら、見たことのない魔術スキルを遊佐が使ってきて、少し驚いた。


火球操炎フレイムで消すんだ』


 冷静な魔王の声に火球操炎フレイムを発動。炎の刃を火球で飲み込む。そのまま火球を飛ばしても良かったのだが、それだと瞬殺してしまうので、すぐに消し去った。


『先ほどのは火球操炎フレイムの亜種かな? なにがしたかったのだろう? あんな形にするなら、素直に火球操炎フレイムを使ったほうが効率的だと思うんだが……』


 よくわからんが、そういうモノらしい。

 細かいことはどうでもいいので、俺はポカンとアホ面をさらしている遊佐の顔面にドロップキックを決めた。吹っ飛ぶ遊佐。着地する俺。その勢いのまま遊佐の首根っこをつかみ、身体強化オーガメントの発動。


 遊佐の体をぶん投げ、逃げる四人の背中にブチ当てる。ボーリングのピンが弾けるように四人も吹っ飛び、その場に転がった。


 ――拘束するとか、そういう逃がさない感じの魔術スキルを覚えておけばよかった。


痛覚制御ペインコントールはやはり余計だったね』


 ――うるさいな。死ぬほど痛かったんだよ!


『逃がしたくないなら簡単だ。火球操炎フレイムで足を消し飛ばしてしまえばいい』


 ――死んじゃうだろ。


 殺されたから殺す、と単純な仕返しはしたくない。というか、クズを殺して罪の意識に苛まれたりはしたくないのだ。まあ、俺の気が済むまでボコボコにはするが。


『殺したくないなら、治癒魔術ヒールを使えばいい。頭を潰したり、首を刎ねない限りは大概の傷は治るよ』


 ――なるほどな。


 たしかに今の俺には失った体を治癒魔術ヒールで再生することができる。

 だが、あれは地獄だった。クソ痛かったし、なにより自分の体がもう元に戻らないレベルで損壊しているのを見るのは、メンタルに来る。


 まあ、とりあえずの罰としては妥当なラインだな……。


火球操炎フレイム


 五つの火球を生じさせ、連中の足に照準を固定。一斉に焼き払った。


「ぎゃああああああああ!!」


 五人が叫び声をあげる。いい気味だ。


連中は「いでぇえぇぇっ!」「なんで!」「俺の足ぃぃ!」などと、泣き叫んでいる。その気持ちはすごくわかる。でも、叫びすぎ。


「足が無くなったくらいで叫ぶんじゃねぇよ。俺は下半身が引きちぎれたんだぞ? しかも、ドラゴンの口の中でグチャグチャひき肉になったもんとご対面だ」


 どいつもこいつも涙や鼻水を流しながら、恐怖に怯えた目で俺を見ている。


「助けてくれ!」


 真栄田が言う。


「お前は俺が引きあげろと言った時に助けてくれたか?」

「あ、あれは遊佐がやれって!」

「そうだ! 俺たちは関係ねぇ!」


 篠原たちもそれに乗っかり、遊佐が「ふざけるなよ! お前らだって乗り気だっただろ!」と半狂乱に叫ぶ。

 クズどもの責任のなすりつけ合いは、なんて見苦しいんだろう。


「安心しろ。全員殺す。次は腕を焼き切ってな」


 へへへと笑いながら火球操炎フレイムを発動。山北の股間が盛大に濡れた。もらしたらしい。


「嫌だぁ! まだ死にたくねぇよぉ!」

「黙れ。消し飛ばすぞ」


 火球を山北の眼前まで飛ばし、ギリギリで止める。


「おい、お前ら、全員、服を脱げ」

「ひっ!」

「急げ」

「え?」

「もらされる前に服を脱げっつってんだよ」


 片足の無くなった遊佐たちだったが、全員、半狂乱になりながら苦痛にうめきながらも服を脱いでいく。それを受け取り、俺は着替えていくのだが、パンツだけ残しているのがムカついた。

 パンツを脱がないということは、生きて帰れるかもしれないと思っているということだ。


 反省が足りない。


「パンツも脱げよ」

「え?」

「脱がないならそれでもいいが、ソッコーで消し飛ばす」

「脱ぐから!」


 放り投げられたパンツを火球操炎フレイムで綺麗に炭にした。さすがにこいつらのパンツをはくのは気持ち悪いしさ……。


「片足程度じゃ、さすがに足りないな。火球操炎フレイム


 全員の左腕の肩辺りを狙って火球操炎フレイムを飛ばした。泣き叫んでいるが、知ったこっちゃない。俺だって痛かったんだ。


「お前ら、こういうこと今回が初めてか?」

「は、初めてだよ! いでぇぇっ!」

「今からカメラを確認するけど、もし他のデータがあったら――」

「三回目だ!!」


 遊佐が叫ぶ。


「人も殺してんのか?」


 遊佐は黙る。沈黙こそ雄弁だ。


「ほんと、クズだな」

「ち、直接じゃないし、わざとじゃない! 偶然だよ! 偶然、トラップにハマっちまってさ!」

「で、その動画を裏動画配信サイトであげたと? 確信犯じゃねぇかよ?」


 遊佐たちは黙り込む。


『なかなかに外道な連中だね』


 ――別に珍しくはないけどな。


『そうなのかい?』


 ――東京ダンジョン特区は治安が悪いんだよ。冒険者なんて大概一発逆転狙った脳筋とかサイコパスがほとんどだし、利権争いの抗争だってよくあるし。


 そもそも特区は日本の自治権が及ばない空白地帯だ。一応の法はあるけど、最終的に暴力と権力が物を言う修羅の国である。


 ――つっても、こいつらがクズなのは変わらん。普通に犯罪者だしな。


『どうするんだい? やはり排除するかい?』


 ――まあ、殺してもいいんじゃないかなくらいには思ってるよ。


 人が死ぬのは日常茶飯事だ。


 ――ただ、やっぱりこのバカどもにも家族なりなんなりいるわけでさ。殺せば悲しむ奴もいるんだろ? そういうのを考えるとな……。


 俺にだって家族がいる。俺が死ねば、妹が悲しむ。


火球操炎フレイム


 残っていた手と足も消し炭にしてやった。ダルマになった遊佐たちが「殺さないで」とか「死にたくない」とか泣き叫んでいる。傷口が焼き爛れているため、失血死しないのがいい。


 俺は遊佐たちが持っていたカメラを拾い、録画されていた動画を確認した。このカメラの中だけでも、俺と先ほどの女冒険者以外に、二人ほど被害にあっている。

 そのうち、一人は魔物モンスターに食われて死んでいた。


 俺はため息まじりに動画を止め、遊佐の体に触れながら「治癒魔術ヒール」とつぶやく。次の瞬間、遊佐がのたうちながら叫んだ。


「いでぇぇぇぇぇっ!」

「俺はな、正直、もうお前らのことはどうでもいいんだ。でも、俺が死んでたら、家族が悲しむだろ? あいつを悲しませようとしたお前らを、簡単には許せなくてさ……」

「腕がぁ生えてるぅぅのにぃぃっ! あづいだいいだいいだいいだい!」

「安心しろ。再生しきったらもう一回焼いてやる。お前らが殺した奴はもう、その痛みさえ感じられないんだから」

「いやだぁぁっ! 許じでぇぇぇぇっ!!!!!」

「ダメ! 許さない!!」


 俺は優しいので、俺を騙して殺した奴に治癒魔術ヒール火球操炎フレイムの激痛コースを三セットほどやるだけで許してやることにした。


 終わった頃には、全員、メンタルが崩壊したのか俺が声を出す度に「ひっ!」と小便をもらすようになっていた。


 その後、素っ裸のままダンジョンを出させる。ポータル管理局の連中は騒いでいたが、そこで服をもらっていた。そして俺は、クズどもに証拠を持たせて、自警団へと出頭させることにした。


 自警団の建物をバックに五人が横一列に並ぶ。その光景を俺はしっかりとカメラに収める。


「わ、私たちは、ダンジョン内で迷惑行為を続け、その動画をアップして金を稼いでいました……」

「何回したんだ?」


 と俺は遊佐を詰める。


「よ、四回です」

「そのうち、何人死んだ?」

「ふ、二人ほど……」

「人殺した金で食う飯はうまかったか?」

「か、勘弁してください……」

「うまかったかって聞いてんだよ!! お前らの母ちゃんが作った飯はうまかったのか!?」

「うまかったです!!」

「お前らの母ちゃんはお前らを人殺しに育てたかったのかよ!?」

「違いますっ!!」

「反省しろやっ!!」

「すんませんっ!!」


 五人そろってビクッと体をすくませる。


「で、お前ら、どうするの?」

「わ、私たちは、自分たちの行いを反省し、自首することにしました」

「クサい飯食ってこいや!! それが本来、人を傷つけて食う飯なんだよ!!」

「「「「「すんませんっ!!」」」」」

「しっかり罪を償ってこいよ。逃げたり、反省してなかったら、俺が超法規的にバチを当てにいくからな」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 そこでいったんカメラを切る。


「あと、俺のことを誰かに喋っても殺す……いや、その前にさっきのことを十回くらい繰り返す。あと、連帯責任な。誰か一人でも俺のことを喋れば、五人全員バチを当てて殺す」

「「「「「喋りません!!」」」」」


 再びカメラを回す。


「ほら、自首してこい」


 笑顔で言ってやる。遊佐たちは「わかりました」と悲鳴を上げるように、自警団の建物の中へと飛び込んでいった。

 その背中をカメラで追い、奴らが見えなくなったところでカメラを切った。


 D特区には少年法とか無いし……あいつら、下手したら極刑だろうな……。


 ま、あとは司法に任せよう。

 あいつらが死刑になろうがならなかろうが、俺にはもう関係ないのだ。


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