第9話・遊佐郁人の覚醒
遊佐郁人たちは半狂乱になりながら駆けていた。
(どうして神野が生きてるんだよ! ドラゴンに食われて死んだはずだろ!!)
それだけではない。
遊佐たちがけしかけたダイアウルフの群れを、デタラメな火力の
「言っただろう! 逃がさねぇからなぁぁぁぁっ!!」
背後で真央の声がする。
(まずいまずいまずいまずいまずいまずい……)
アレはまずい。
昔、王級の冒険者を見たことがある。大型のドラゴンを一撃で葬るような人の形をしたバケモノだ。あの冒険者を見た時に感じた恐怖に近い何かを神野からも感じた。
(捕まれば殺される!)
その確信があった。
当然だ。自分たちは真央を殺したのだ。同じことをされてもしかたがない。
(こんなはずじゃなかったのに!)
バカを騙して大金を儲けるだけの簡単な話だった。
この世界は弱肉強食だ。無能なバカは有能で頭のいい自分たちのような人間の餌になる。それが自然淘汰だと遊佐は思っていた。
(ふざけるなよっ!!)
全力で駆ける。肺が苦しい。鼓動に合わせて視界が白む。時間がゆっくり流れるような感覚の中、遊佐は頭を高速で回転させていた。
自分に使える
他のパーティーメンバーも似たようなものだ。
勝つためには覚醒しなければならない。
(
だが、
個人にのみ使うことのできるワンオフの
(この状況を覆せる
足を止める。殺す。どうやって?
自分はなんだ? 前衛の剣士だ。剣で戦う? 危険だ。真央の
だから、こちらも遠距離で攻撃するしかない。
(あの王級冒険者がやったように――)
ビルほどに巨大なドラゴンの首を、刎ね飛ばした
アレを使えればいい。
使え。使うんだ。イメージしろ。今、それができなければ、確実に殺される。
走りながら遊佐は剣の柄に手を添えた。
記憶の中にあるイメージを思い出す。あの冒険者の動きに重ねる。できる。自分を信じろ。
(俺にならできるっ!)
遊佐は走りながら剣を引き抜き、その場で踵を返す。仲間たちが驚きの声をあげた。
「うおおおおおおおおおっ!!」
魔粒子を炎に変換、刀身に発生させる。ねばりつくような炎を刃として飛ばした。
「できるじゃねぇかぁぁっ!!」
「
真央の放つ巨大な火球に炎の刃は飲まれて消えた。
「え?」
嘘?
目の前に両足の裏。
顔面にドロップキックをくらった遊佐は、衝撃に吹き飛びながら意識を失った。
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