第9話・遊佐郁人の覚醒


 遊佐郁人たちは半狂乱になりながら駆けていた。


(どうして神野が生きてるんだよ! ドラゴンに食われて死んだはずだろ!!)


 それだけではない。

 遊佐たちがけしかけたダイアウルフの群れを、デタラメな火力の魔術スキルで一掃していた。しかも裸で。意味がわからない。


「言っただろう! 逃がさねぇからなぁぁぁぁっ!!」


 背後で真央の声がする。


(まずいまずいまずいまずいまずいまずい……)


 アレはまずい。

 昔、王級の冒険者を見たことがある。大型のドラゴンを一撃で葬るような人の形をしたバケモノだ。あの冒険者を見た時に感じた恐怖に近い何かを神野からも感じた。


(捕まれば殺される!)


 その確信があった。

 当然だ。自分たちは真央を殺したのだ。同じことをされてもしかたがない。


(こんなはずじゃなかったのに!)


 バカを騙して大金を儲けるだけの簡単な話だった。

 この世界は弱肉強食だ。無能なバカは有能で頭のいい自分たちのような人間の餌になる。それが自然淘汰だと遊佐は思っていた。


(ふざけるなよっ!!)


 全力で駆ける。肺が苦しい。鼓動に合わせて視界が白む。時間がゆっくり流れるような感覚の中、遊佐は頭を高速で回転させていた。

 自分に使える魔術スキル身体強化オーガメント火球操炎フレイムのみ。

 他のパーティーメンバーも似たようなものだ。


 勝つためには覚醒しなければならない。


規格外魔術ユニークスキル!)


 魔術スキルには汎用魔術コモンスキルと、規格外魔術ユニークスキルという二種類がある。汎用魔術コモンスキルは、使い方を数式やイメージで共有できるため、コツさえつかめれば誰にでも使える魔術スキルだ。

 だが、規格外魔術ユニークスキルは違う。


 個人にのみ使うことのできるワンオフの魔術スキルだ。中級冒険者の資格を得るには、この規格外魔術ユニークスキルを修得していることが条件となる。


(この状況を覆せる魔術スキルを……!)


 足を止める。殺す。どうやって?

 自分はなんだ? 前衛の剣士だ。剣で戦う? 危険だ。真央の魔術スキル規格外魔術ユニークスキルだ。あんな火砲、近距離で躱せる気がしない。

 だから、こちらも遠距離で攻撃するしかない。


(あの王級冒険者がやったように――)


 ビルほどに巨大なドラゴンの首を、刎ね飛ばした魔術スキル

 アレを使えればいい。

 使え。使うんだ。イメージしろ。今、それができなければ、確実に殺される。


 走りながら遊佐は剣の柄に手を添えた。

 記憶の中にあるイメージを思い出す。あの冒険者の動きに重ねる。できる。自分を信じろ。魔術スキルはイメージだ。可能性だ。才能だ。自分は天才だ。


(俺にならできるっ!)


 遊佐は走りながら剣を引き抜き、その場で踵を返す。仲間たちが驚きの声をあげた。


「うおおおおおおおおおっ!!」


 魔粒子を炎に変換、刀身に発生させる。ねばりつくような炎を刃として飛ばした。


「できるじゃねぇかぁぁっ!!」


 規格外魔術ユニークスキルを使えるようになった。やはり自分は天才だ。


火球操炎フレイム


 真央の放つ巨大な火球に炎の刃は飲まれて消えた。


「え?」


 嘘? 規格外魔術ユニークスキルだぞ? あの王級冒険者の魔術スキルを真似たんだぞ? なのに、どうして、そんな簡単に……?


 目の前に両足の裏。

 顔面にドロップキックをくらった遊佐は、衝撃に吹き飛びながら意識を失った。

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