第8話・俺は暴力に酔いしれた


 脳汁がヤバかった。

 

 夢にまで見た魔術スキルを使い、魔物モンスターをバッタバッタと薙ぎ払っていくのだ。しかも、ほぼ一撃である。


「ひゃっはーーー!! 暴力だけが全てを――」


 火球操炎フレイムを一気に五回、並列使用。


「――解決するぅぅぅっ!!」


 魔物モンスターを一掃。ぺんぺん草すら残らない。まあ、ダンジョンに雑草は生えないけどな!


 無双ボーナスタイムで蹴散らした魔物モンスターの魔粒子結晶を拾い、その都度、口の中へと放り込む。


魔粒子回路スキルツリーのレベルがあがったね。次はどんな魔術スキルが欲しい?』


 ――逃げたクズどもを見つけ出したい。


 復讐は何も生み出さないかもしれないが、人類は皆クリエイティビティに溢れているわけじゃない。綺麗事の理想論は素晴らしいと思うが、綺麗事を押し付けてくる人間と、それを貫けない口だけ野郎は大っ嫌いだ。


 なので、信念の無い俺は普通に復讐を選ぶ凡人だ。

 力を手に入れたら、それ相応に暴走したり調子に乗るし、やられた分はキッチリ返す。


『順当に行けば魔粒子感知サーチだろうね。周囲の魔粒子を知覚できるようになる』


 魔物モンスターレーダーのような魔術スキルだ。俺は「じゃあ、それで」と魔王に伝え、新たな魔術スキルを覚えていく。


 同時にステータス画面がポップアップした。


 名前・神野真央

 性別・男性

 年齢・16

 魔粒子回路総量スキルツリー・レベル・3

 魔粒子耐性・測定不能

 魔粒子適性・14

 総魔粒子量・4887

 使用可能魔術スキル

 火球操炎フレイム治癒魔術ヒール身体強化オーガメント痛覚制御ペインコントール魔粒子感知サーチ


 ステータス画面を見て気づいたことがある。


 ――なあ、この総魔粒子量って減ってるよな? 魔術スキルを使ってるからか?


『ああ、そうだよ。この魔粒子がゼロになれば、君は魔術スキルを使えなくなる』


 ――どうやって回復するんだ?


『放置しておけば勝手に体内で生成されたり、周囲の魔粒子を取り込んでいく。幸い、君は魔粒子耐性がデタラメに高いから、この魔粒子の総量もこの世界の人間に比べるとだいぶ高いと思うよ』


 ――どれくらい?


『ケタが一つ違う。サンプル数は少ないけど、私が把握している限りで言うと平均値は300から800くらいだ。1000を越えれば、かなり優秀な部類に入るんじゃないかな?』


 魔術スキルは使えなかったのに、魔粒子総量だけは高いとか、宝の持ち腐れも甚だしいな……ま、こうして魔術スキルを使えるようになったんだから、別にいいけど……。


魔粒子感知サーチ


 魔術スキルを使った瞬間、魔粒子の塊のようなモノを幻視する。一ブロック先で何かが戦っているようだった。


『……誰かが魔物モンスターに囲まれてるみたいだね』


 ――お前も見えたのかよ?


『君がシャットアウトしない限り、君の知覚情報は私にも入ってくる。嫌ならシャットアウトしてくれていい』


 俺は「ふ~ん」と相槌を打ちつつ駆けだした。ま、別にかまわないか……。


『それで、どうするんだい? 状況的に考えて君を陥れた連中とは思えない。私としては無視して進むことを推奨する』


 ――俺を騙したクズ野郎たちかもしれないし、違うなら違うで助けるだけだ。


『……君は確かに魔術スキルを得たけど、まだ使い方に慣れてはいない。魔粒子障壁プロテクトも覚えていないし、魔物モンスターの数も十二体と数が多いし、君がやられる可能性だってある』


 ――俺はクズに騙されて死にかけた。だから、同じクズにはなりたくない。


 まあ、襲われているのが遊佐どもなら、それはそれで魔物モンスターをフルボッコにしてから、正式に復讐することになる。


『……よくわからない考え方だね』


 ――お前だって誰かが川に溺れてたら助けるだろ?


『助けないよ。なんの利益があるんだい?』


 ――あ、そうですか。俺は助けて恩を売るタイプなんだよ!!


 やはり魔王を名乗るだけあって邪悪な奴らしい。

 そんなことを考えながら大きな通路に出る。何体ものダイアウルフが小柄な女に襲い掛かっていた。


火球操炎フレイムはやめたほうがいい。君はまだ威力や規模のコントロールができない。保護対象を巻き込んでしまう可能性がある』


 ――アドバイス、ありがとさん!!


身体強化オーガメント!!」


 全身の筋力を底上げし、駆ける。魔術スキルで倒せないなら、肉体言語で語るだけだ。


 女冒険者に飛び掛かるダイアウルフめがけて、俺は跳ぶ。体を錐もみに回転させたドロップキックだ。身体強化オーガメントの筋力向上に加え、更に回転も乗っけている。

 キャイン! 無様な声をあげて転がるダイアウルフを、着地と同時にサッカーボールのように蹴飛ばしてやった。壁に当たった衝撃で、ダイアウルフが炸裂霧散する。


「俺の邪魔すんじゃねぇ! 犬どもぉぉぉっ!!」


 無双すぎて脳汁がハンパなかった。

 誰だって美少女が悪い奴に襲われているところに助けに入る妄想をするはずだ。俺だってする。ましてや、命の危機ともなれば、これ以上無いシチュエーションだ。


 なんてかっこいいんだ、俺ってやつはよ!!

 ふへへ、自分のかっこよさと、この無双感に鼻血が出そうだぜ!!


『楽しんでるところ悪いが、君の下半身を覆っていたジャケットが奪われたよ』


 ――俺の股間をマジマジと見るんじゃねぇよ!!


 俺が素手でダイアウルフを殴り飛ばす横で、魔王が俺の一物をガン見していた。どういう状況だよ、これ!!


『君たちの生殖器には興味が尽きないね。大きくしてくれないか?』


 ――戦闘中になに言ってんの!? お前、魔王じゃなくて痴女なのかよ!?


『戦闘中ね……それより私は君のことに興味がある。肉体も精神も込みで私は君のことを知りたいんだよ』


 小悪魔のようにペロリと唇を舐めていた。


 とはいえ、変態魔王のことばかり考えている暇は無い。襲い掛かってくるダイアウルフを殴り飛ばし、噛まれたら治癒魔術ヒールで治す。てか、もうじれったい!


「くたばれやぁぁっ! 火球操炎フレイム!! 火球操炎フレイム! 火球操炎フレイムぅぅぅっ! あはははは! 魔術スキルってのは最高だぜぇぇっ!! 毎日てめぇらの群れを一つ焼いてやるぁぁっ!!」


 ひゃっはー! と叫びながら魔術スキルで一掃。ぺんぺん草も残さない。てか、ぺんぺん草ってどんな草なんだよ? 俺、知らないんだけど?


 気づけば魔物モンスターを全てぶちのめしていた。だが、助けた女のほうに振り返るわけにはいかない。


 素っ裸だし、しかたがないよね……。


 俺だって命の危機を露出狂に救われたら、喜んでいいのか怖がっていいのか判断に困る。それにさ、ほら、なんか助けたのに痴漢扱いとかされたら、俺、泣いちゃいそうだし……。

 痴漢冤罪とかマジおっかない。

 顔くらい確認したかったけど……いや、よそう。

 むしろ、振り返らず立ち去るほうがクールな気がする。


 俺は女のほうにケツを向けながら、落ちてた魔粒子結晶を拾い、口に放り込んだ。相変わらずジャリジャリしてて砂のような味しかしない。


 ――なあ、魔王、服を作る魔術スキルとか無い? あと、人のケツを撫でるのやめてくれない?


 感触は無いけど、なんか幽霊にセクハラされてるみたいで、嫌なんだよ……。


『物質を生成する魔術スキルは、今のレベル帯だと無理だね。一時的な幻視の魔術スキルなら、もう二、三レベル拡張できれば修得は可能だ』


 しかたがない。素っ裸の変態だと思われるくらいなら、接触せずにクズを追いかけるか……。


 ――魔粒子感知サーチ


 百メートルほど先に五人組らしきパーティーを発見した。

 こいつら、もしかして遊佐どもか?

 そうに違いない! そうであれ!!


「逃がさねぇからなぁぁぁぁぁっ!! まとめて天誅かましてやるぁぁぁっ!!」


 とりあえず、遊佐のクズをみつけたら裸にひん剥いて服を奪ってやる。

 善は急げとばかりに走り、通路の角を曲がった。そこには、全速力で逃げる遊佐どもの背中。


「言っただろう! 逃がさねぇからなぁぁぁぁっ!!」


 さあ、楽しい復讐のはじまりだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る