第6話・遊佐郁人の微笑


 遊佐郁人はダンジョンフォンで撮っていた動画を確認しながら、舌打ちを鳴らした。


「決定的な画が撮れてねぇじゃんかよ」


 神野真央をドラゴンに捕食させたのだが、カメラには地面などが写っているだけで、真央が遊佐を煽っている音声しか入っていない。真央が食われた瞬間、カメラを手にしたが、その時には落とし穴の横穴にドラゴンが引っ込んでしまい、食事シーンすら写せなかった。


「どうすんだよ? ダンジョン潜ったのに儲けは無しか?」


 金髪頭の真栄田がなじるように言ってくる。

 ダンジョンに潜るのもタダではない。探検料を取られるし、装備だって消耗品だ。剣や槍も無限に使えるわけではなく、研ぎに出すなどメンテナンスは必要になってくる。


 今や、ダンジョンに潜れば誰でも稼げる時代ではない。


 希少魔物モンスターの魔粒子結晶や、ダンジョンにドロップするアーティファクトなどは、最低でも三階層より深く潜らなければならなかった。一月はかかる探索だ。学生が片手間でできることではない。


 結果、今はダンジョンの動画配信サイトで金を稼ぐのが主流になっている。それにしたって、人気を得るには誰でも知っているような超有名冒険者だったり、顔が良かったり、トークがうまかったりしないと抜け出すことはできないのだ。

 今や、ダンジョン動画配信界もレッドオーシャンとなっているため、特にこれといって個性の無い遊佐たちには、辛い戦いだった。


 そんな中、過激な動画配信をしている裏サイトがあると噂で聞いた。

 裏動画サイトは、無料の動画もあるが、そこから有料動画にユーザーを引っ張るシステムになっていた。


 これが金になる。


 無料動画の一再生に対する広告料も、Dチューブより高いし、なにより有料動画を売れるのが大きい。


 エロ、グロ、なんでもありで、特にグロいモノはユーザーが少ない分、単価を高く設定できる。最低でも一本五万円。ダンジョン内スナッフ・フィルムとなれば、世界中のイカレた好事家どもが群がってくる。


 たった一本で、数億くらい平気で稼げるのが裏動画配信サイトだった。


「今回は諦めて他のFラン引っ張ってくればいいだろ。次だよ、次」


 山北が勝手なことを言っているのが、また遊佐の癪に障った。


「ヘラヘラしてんじゃねぇぞ。新作の動画あげねぇとユーザーに忘れられちまうだろ!」

「でも、どうすんだよ? 他にネタでもあるのか?」


 篠原の問いかけに遊佐は舌打ちを鳴らす。


「無けりゃあ作るしかねぇだろ」


 吐き捨てるように言ったところで、人の気配を感じた。遊佐はハンドサインでパーティーを立ち止まらせ、魔粒子感知サーチ魔術スキルを使い、接近してくるモノを探る。


(冒険者か……?)


 幸いにして第一階層のダンジョンは迷宮だ。隠れる場所などいくらでもある。遊佐は無言のまま、ハンドサインで仲間に隠れるよう指示する。


「あ、えっと……今日はダンジョン内でソロキャンプしようと思います。え? キャンプの経験は無いです。あ、お金、あまり投げないで大丈夫です」


 ダンジョンフォン片手に少女が一人歩いていた。

 チラリと顔を見たが、なかなかに整った顔立ちをしている。アイドル売りのソロDチューバーだろう。投げ銭に礼を言っていたことから察するにリアルタイムの生配信中と言ったところだろうか。喋り方はしどろもどろなくせに、顔がいいというだけで人気の出るアイドル系Dチューバ―を遊佐は蛇蝎の如く嫌っていた。


 不意に真栄田が「なあ、魔物モンスターアタックって知ってるか?」と尋ねて来た。


「知ってるよ」


 ニヤリと笑いながら遊佐が答える。

 魔物モンスターアタックとは、魔物モンスターを引き連れ、別パーティーに突っ込むことだ。冒険者界では御法度な行為とされており、最悪、冒険者免許を取り上げられることもあった。


「新しい企画のネタ、できたじゃねぇか」


 うまくやれば、美少女冒険者が魔物モンスターに殺される動画を撮れるかもしれない。それが無理でも、魔物モンスターアタックをする動画は裏動画配信サイトでは、人気のジャンルだ。


「よし、撮影開始するぞ」


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