藤堂さんは守ってあげたい系女子

 金曜日のテスト勉強が終わり、帰り際に鹿野さんからチケットを貰った。

 だが、印刷機とかで作られたようなものではなく、手作り感満載のチケットだった。


「何これ?」

「それ、私お手製の明日のライブチケットだよ。それを受付の人に見せれば、関係者席に通してもらえるようになってるから、桐ヶ谷君も見に来てよ!」


 関係者の場合はチケットとか必要なく、受付の人に名前を言えば案内されると思うのだが、鹿野さん曰く「チケットの方がライブに来た感あって良いじゃん!」とのこと。鹿野さんらしいな。

 だけど俺は、微塵も行く気はなかった。


「嫌だよ面倒臭い。関係者席とか、絶対周りに芸能人とかいっぱいいるじゃん…。色んな意味で絡まれそうだ」

「大丈夫だって。ちゃんと良識のある人たちしか呼んでないからさ。皆一人の観客として来るから、全然心配いらないよ。お願い!桐ヶ谷君が応援してくれたら、私いつもの倍頑張れると思うから!」

「たぶん頑張らなくて良いと思う…。二条院さんが大変そうだ」


 実際それを聞いた二条院さんが「え゛…?」って言ってめっちゃ嫌な顔してるし…。

 シリウスのライブでは、アドリブ大好き鹿野さんが暴れに暴れまくることで有名らしい。

 そのアドリブのフォローをして、なんとかライブを成功、否。大成功まで導いているのが、シリウスの縁の下の力持ち的存在、二条院さん。


 前に彼女のフォローなくしては、もはやシリウスは成り立たないという言葉を聞いたは、当の本人からであった。そう言った二条院さんの目に光が無かったのが印象に残っている。南無三。

 鹿野さんは二条院さんに散々叱られてるらしいけど、全く反省の色は見えず、全てのライブで大変苦労して来たそうだ。


 二条院さんは「まぁ、なんだかんだアイドルをやるのは楽しいわ」と言っていたが、ちょっとあまりにも可哀想過ぎるので、同じ鹿野さんに振り回されてる者同士、今度気晴らしかなんかに付き合ってあげようと思ったのは鹿野さんに内緒だ。

 言ったら絶対付いてくるだろうから…。


「あの、桐ヶ谷さん」


 どう鹿野さんの誘いを断ろうか悩んでいると、藤堂さんから声をかけられた。


「なに?」

「えっと……私も、桐ヶ谷さんに見に来て欲しいです。私たちの勉強を見てくれたお礼になるかどうかはわかりませんが、絶対桐ヶ谷さんに、良かったって言ってもらえるようなライブにしますので、その……見に来て、頂けないでしょうか…?」


 次第に声が小さくなっていき、手を胸の前にして上目遣いで懇願する藤堂さん。

 ……………ふむ。鹿野さんのわざとらしい上目遣いよりも、不安とナチュラルな愛おしさを藤堂さんから感じる…。

 これが俗に言う守ってあげたい系女子か?実に庇護欲を掻き立てられる表情だ。


「……………まぁ、勉強を教えた礼と言われちゃあな…。そういうことなら、喜んで行かせてもらうとするよ…」


 本音はめっちゃ行きたくない。でもこのまま断ろうものなら、鹿野さんだけでなく藤堂さんの士気にも関わるだろうしな…。

 主に鹿野さんのアドリブについて行けるかという方面で。


 それに、彼女もこれだけ俺に見に来て欲しがってるんだ。断るのもなんだか忍びないというものだ。


「ほ、本当ですか!?」

「本当本当。男に二言は無いよ」


「やったー!言質取ったからね桐ヶ谷君!明日のライブで、度肝を抜かせてあげるよ!」

「はいはい。期待しておく」


 俺の生返事に鹿野さんは頬を膨らませるが、すぐに元の眩しい笑顔に戻る。


「桐ヶ谷君の前で~♪ライブ~♪ふんふーん♪」


 どんだけ俺が来るのが嬉しいんだよ…。


「桐ヶ谷さん。私たちのライブ、楽しみにしててください!必ず度肝を抜かせてみせます!」

「はいはい。でも藤堂さんはそのままが一番だから、鹿野さんみたいにはっちゃけないでよ?」

「あははは。了解です」


 そんな会話をした後、俺はコッソリ二条院さんに話しかけた。


「こりゃ今まで以上に苦労しそうだな?」

「ええ……今からもう胃が痛いわ…」


 お腹を押さえて、げんなりとする二条院さん。

 ……明日、胃薬を差し入れしよう…。

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