シリウスは勉強ができない(二条院凜華は除く)②
どうしてこうなった?
「ほらアルファちゃん!またリズムが早くなってきてるわよ。イシスちゃんはまだ少し動きが固いわよ?もっと力を抜きなさい」
「「はい!」」
目の前でダンスの先生(オカマ口調のガタイの良いお兄さん)が、二条院さんと藤堂さんに熱い指導をしていた。
そしてそれを風景に、シリウスの為に事務所がレンタルしたレッスンスタジオの隅っこの床に座ってノートを広げている二人。もちろん俺と鹿野さんです、はい。
「なぁ鹿野さん」
「なに?」
用意した英単語を一通り暗記してもらい、最後に俺が作った英語の問題に取り組んでもらっているクールモードの鹿野さんに聞く。
「なぜ俺は駅前のレンタルスタジオに連れて来られたのでしょうか?」
「私と純ちゃんに勉強を教える為だね」
「そうだね。でも俺はいつ藤堂さんに勉強を教えるんだ?レッスンしてるみたいだけど」
「あと少ししたら一時間の休憩に入るから、その時だね」
「ああそう……で、なぜそれを俺に説明してくれなかった?」
ピタッと鹿野さんが問題を解く手を止めて、こちらを見た。
「言ってなかったっけ?凜華ちゃんと純ちゃんは普通にレッスンあるから、二人は休憩の合間に勉強するって」
「言ってねぇよ!?」
放課後。勉強に集中出来る場所を確保出来たから、そこで勉強しようということになり、案内されるがままにここまで来てしまった。
本当、こうなるんだったら事前に説明して欲しかった。確かにシリウス全員が休みを貰ったなんて言ってなかったけど、一人が休みだと皆休みだと思うじゃん!
それにこの場にいるのがシリウスだけなら、まだ良かったんだがな……
「「「……………」」」
なんかスーツ着たシリウスの事務所の人らしき人が五人もいるんですけど…!しかもレッスン中の二条院さんと藤堂さんではなく、勉強中の俺と鹿野さんをずっと見てるし!?
その人たちは俺と鹿野さんの反対側、入口近くで待機してるけど、なんか有無を言わせぬようなプレッシャーをヒシヒシと感じる視線のせいで非常に居心地悪いです…。
「なんであの人らずっとこっち見てるの?」
「さぁ?あの人たちが今日来るなんて聞いてなかったから、わかんない」
えー……てことは俺目的かこれ?鹿野さんに懐かれてる俺の監視的な……だったら安心してくれ。俺と鹿野さんの間には何も無いぞ。
とそこで、問題でわからない所が出てきた鹿野さんが質問をしてきた。
「ねぇ桐ヶ谷君。『gave』ってなんだっけ?」
まぁ、これ以上うだうだ言ってたって仕方ない。勉強を教えるのを引き受けたことに変わりないんだ。
しっかりその務めを果たすとしよう。
「与えた」
「じゃあ、『prescription』は?」
「処方」
「えっとつまり……『医者は患者に処方を与えました』?あれ?なんか違和感…」
「頭が固くなってるぞ?医者が患者に出す薬のことをなんて言う?」
「あ!『医者は患者に処方箋を与えました』だ!」
「正解。よく出来ました。ちなみに『gave』が『give(s)』だった場合は、『与える』になるから注意ね」
「はーい……えへへ~」
パチパチと手を叩いて褒めると、鹿野さんは相当嬉しかったのか顔がニヤけていた。ちょっとだらしない顔だ。
この通り鹿野さんは、英語の文章を和訳する問題に取り組んでいた。
一個一個の単語を和訳して組み合わせるやり方だと、疲れてきた頭ではさっきみたいに変な文章になることはよくあることだ。
鹿野さんは違和感に気付けたようだが、多くの人が違和感すら気付かずに、こういうケアレスミスで失点するのだ。
ちなみに英文は『The doctor gave the patient a prescription』だ。
「次の問題で最後みたいだし、それが終わったら一旦休憩しようか」
「うん!よーし…」
鹿野さんが取り組んでいる問題は中学生がやるような問題なのだが、うちの高校では英語が苦手な生徒と得意な生徒で、英語の授業限定のクラス分けがされている。
苦手な生徒のクラスでは、このように中学で習う範囲を中心に授業が行われているのだ。つまり鹿野さんは英語が苦手ということだな。
もちろん授業は英語の先生二人がそれぞれ担ってくれているので、授業は円滑に進んでいる。
鹿野さんが最後に取り組んでいる問題は、次の日本語を英文にしなさいという問題だ。その問題はこうだ。
『遼太郎君には双子の妹がいます。いつも二人はとても仲が良いです』
多くの人が勘違いして間違えてしまう奴をイジワルで入れてみたが、果たしてちゃんと英訳出来るだろうか?
とそこに、誰かの足が視界に入った。
見上げると、デカいメロンが二つ目に入った。それが何かを一瞬で理解した俺は、すぐにそのご立派な果実的野菜をお持ちの藤堂さんの目へと視線を移した。
「すみません。お待たせしました。今休憩を頂いたところです」
「お疲れ様。ほい、タオルとスポドリ。まずは着替えて来ちゃいな」
「はい!ありがとうございます!」
「凜華ちゃんもお疲れ様ー。はい、どうぞ!」
「ありがとう結衣」
スポドリを口にして、汗を拭く藤堂さん。それだけの動作なのに凄く扇情的に見えるのは気のせいではないはずだ。
スタイルが良い人って恐ろしいな…。
汗を拭き終わった藤堂さんから、スポドリとタオルを回収する。
「本当にありがとうございます、桐ヶ谷さん。この後勉強も見て頂くのに、こんなことまで……」
「ただスポドリとタオルを渡しただけじゃねぇか。大袈裟な」
「このお礼は、苦手な国語で100点を取って返します!」
「それはもう苦手じゃなくて、得意科目だね…」
「うふふ。そうですね。では、着替えてきますね」
「ああ。いってらー」
藤堂さんがスタジオを出て行く。
視界の端で揺れ動くメロンに目を向けないように努めるって大変ね…。
ふと視線を感じたので、そっちを見ると二条院さんが俺を見ていた。
「え、なに?俺に惚れたかってボケれば良いの?」
「そういうキャラではないでしょう?」
「ごもっともで」
「ふふっ。特になんでもないわ。ちょっと私がセクハラで訴えられる行為をしていただけで」
「俺に何かしたの!?」
「いいえ?……それじゃあ、私も着替えてくるわ」
そう言って、笑いながらスタジオを出て行く二条院さん。
……なんか、鹿野さんとは違う意味で読めない人だな…。
「はい桐ヶ谷君!出来たよ!」
「ん?どれどれ…」
問題を解き終わった鹿野さんの回答を見てみる。
『Ryoutarou has twin sisters. The two are always very close』
「残念。不正解です」
「えーーー!?どこが!?」
「『Ryoutarou』だな。これよく間違われるけど、人の名前で『~う』は『u』を付けないんだよ。この場合は真ん中と最後の部分な。だから正しくは『Ryotaro』。全部が全部そうじゃないかもしれないけど、思った通りの間違いをしてくれて嬉しいよ」
俺はニチャアと悪い顔を浮かべる。
そんな俺に対して、鹿野さんは頬をフグのように膨らませて拗ねてしまった。
許せ鹿野さん。普段俺を振り回している仕返しだ。
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