シリウスは勉強ができない(二条院凜華は除く)①
鹿野さんの勉強を見ることになった。それは別に良い。誰かに勉強を教えることで、俺も良い復習になって身になるからな。
だから涙に弱いとはいえ、鹿野さんの勉強を見ることを請け負う事態に問題はない。
俺は弁当を食べ終えた後、手始めに鹿野さんと約束していた五時間目の数学の宿題を教えてあげることから始めた。
「で、この公式に当てはめて、ここからXの2乗をかければ答えは出るよ」
「ふむふむ。なるほど……それじゃあ最後の問題も公式に当てはめて……………これでどうかな?」
「残念。公式の使い方は合ってるけど、これ応用問題なんだ。ここの式はこうして……」
「むむむ……ここをこうして……」
鹿野さんは地頭は良いらしく、教えたことはすぐに吸収出来ていた。
数学は苦手みたいだが、ちゃんとした人に教えてもらえれば普通に出来るタイプ、と言ったところか。
これなら普通に先生に教えてもらいに行けば、考査も心配ないと思うんだが…。
「なぁ鹿野さん。これなら先生に直接教えてもらえば?」
「先生の説明じゃ理解出来ないので無理」
問題に集中している為か、普段より少し低い声で言う鹿野さん。
数学の先生の説明って割とわかりやすい部類だと思うけどな?鹿野さんの肌に合わないのだろうか。
「桐ヶ谷君の説明の方が丁寧でわかりやすいし、頭にスッと入って来る感じがするんだよね。だから、桐ヶ谷君の方が良い」
鹿野さんが集中している時の顔には、いつもの笑顔は無かった。
凄く真剣な表情をしており、二条院さんのようなクールっぽい印象を感じた。
……これが俗に言うギャップ萌えと言う奴か。普段の『可愛い鹿野さん』とは違い、今は『綺麗な鹿野さん』という感じだった。
『カッコイイ鹿野さん』でも良いかもしれない。クラスの男女関係なく彼女に見惚れていたし、俺も少々見惚れる程だ。
「……出来た。どうかな桐ヶ谷君?」
「ん?ああ……うん。合ってる。やっぱり鹿野さんは飲み込みが早いな。教えがいがあるよ」
そう言うと、鹿野さんはいつもの笑顔に戻った。
集中し過ぎて知恵熱でも出たのか、額に手をやっていた。
「そんなことないよ。私はいつもここまで飲み込み良くないよ。桐ヶ谷君の教え方が良いんだよ」
「そうか。お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないんだけどな~。桐ヶ谷君、本当に学校の先生に向いてると思うよ?」
以前チラッと話した奴か。理想があるなら、その職は十分向いてるみたいなこと言ってたっけ?
理想と現実は違うが、今回みたいに誰かに勉強を教えることは出来るから、鹿野さんの言う通り向いてるかもしれない。
「まぁ公務員だし、将来のことを考えると無難な職業ではあるよな」
「確かにそうだね。それにしても、桐ヶ谷君の教え方が上手いって言っても、ここまですんなり頭に入って来るとは思わなかったなー」
ノートを頭の上で広げながら言う鹿野さん。大袈裟な気もするが、こうやって褒められるのは良いもんだな。
……良いもん、か…。鹿野さんからの賛辞をこうして素直に受け入れられるのは、やっぱり彼女が裏表のない真っ直ぐな人だからだろうか。
まぁ。今はそんなことどうでもいいか……さて、放課後からは鹿野さんの他の苦手科目も詰めないとな。さっきの絶望的な表情から察するに、勉強は全体的にあまり得意ではなさそうだし、苦手な教科も多そうだ。理解力はあるみたいだけど。
そう考えると結構骨が折れそうだな……まぁ俺も良い復習になるし、別に良いか。
放課後の勉強のことを考えていると、鹿野さんが目を閉じて顎に手を当てて考えるしぐさをする。
そしてしばらく考えた後、鹿野さんがこちらを見て口を開いた。
「……ねえ桐ヶ谷君」
「なに?」
「実はね、純ちゃんも結構ヤバいと思うんだよね?特に国語系。それで、桐ヶ谷君に差し支えなければ……」
「藤堂さんの勉強も見て欲しい、と?」
「えっと……ダメかな?」
鹿野さんが不安そうな顔で聞いてくる。
そんな顔しなくたって、別に断りはしない。俺も文章問題に関して若干不安が残っているし、それこそ教えるがてら良い復習になる。
「一人も二人も変わらないから、藤堂さんが良ければ見ても良いよ」
「やったー!じゃあ放課後、夜まで時間ある?結構遅くなると思うんだ」
え?そんなに遅くまでやるつもりなの?鹿野さんどれだけ苦手科目あるんだよ…。
「まぁ……大丈夫だけど、20時までには帰らせてくれよ?」
「ありがとう、桐ヶ谷く~ん!じゃあ早速、マネージャーに相談してくるね!」
そう言って教室から出て行く鹿野さん。
迎えの電話とか、その辺の話でもするのだろう。
この時の俺は、てっきり放課後の図書室かどこかの空き教室で勉強するのかと思っていた。だがそれは全くの思い違いであった。
思えば、鹿野さんはシリウス三人が休みを貰ったなどと言ってなかった。カラオケに行くのであれば二条院さんと藤堂さんも誘っていただろうに、なぜこの時の俺はそれに気付かなかったのか……そのせいでこの後の俺は、盛大に後悔することになったのだった。
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