桐ヶ谷理乃と早乙女総司

 学校が近くなると、やはり自然と学校の奴らの視線が集まり始める。


「ねぇ。あの人…」

「うん。桐ヶ谷誠、先輩だよね?」

「うっそ!本当にうちの高校だったんだ…」


 あれは一年か。他の奴らより生の芸能人を見て興奮してる感じが強い気がする。


「あれがシリウスと一緒に出る桐ヶ谷か?テレビで見るより普通だな…」

「なんであんな奴がスカウトされたのか…」

「どうせあんな風にオリオンちゃんと一緒にいたいからって、積んだんだろ」

「うわ。賄賂とか最低だな……てかなんで氷の女王様と一緒なんだ?」

「桐ヶ谷なんだから、姉弟なんじゃないか?全然似てないけど」


 うちにそんな金は無い。そんな金があったら気になってる漫画と最新ゲーム機買います。

 お姉がなんか凄い愛称?みたいなので呼ばれてる辺り、たぶん先輩だな。


「誠殿ー!一昨日のテレビ見たでござるよー!」


 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。この独特な呼び方とござる口調は完全に総司だ。


「おはようー早乙女君!今日もヲタクコーデ、決まってるね!」


「おー!鹿野殿と……り、理乃先輩も一緒でござったか…。おはようでござる…」

「ええ。おはよう総ちゃん」


 総司がお姉を見て、萎縮し始める。

 総司は前に言っていた通り、お姉が苦手だ。小さい頃は家族以外でお姉と一番仲が良かったのは総司だったはずだが、なぜこんなにもギクシャクするような関係になったのか…。

 ちなみに総ちゃんというのは、見ての通りお姉が総司に使ってる愛称だ。


 挨拶したお姉が鞄から何か出して、総司に渡した。

 それは総司が録画したアニメを落としたDVDだった。


「面白かったわ。ヒロインが病んでしまって、主人公に『私の膝枕好きでしょ?』と言うシーンは参考になったわ」

「そ、そうでござるか……一体なんの参考かは聞かないでござる…」


 これは驚いた。総司はお姉のことが苦手だなんだのと言ってる癖に、アニメを貸し借りする仲であったとは…。

 お姉は顎に手を当て考えるしぐさをし、総司にヤバい質問をした。


「……ねぇ。総ちゃんも、病んでる女の子の方が好きなの?」

「全っ然でござる!?勘違いしないで欲しいでござる!アニメと現実は全くの別物!現実であんな病んでる女の子がいるとか勘弁したいでござる!」

「膝枕は?」

「うっ……ま、まぁ拙者も男故、憧れはあるでござるが…」

「そう…」


 二人が謎のやりとりしていると、突然鹿野さんが俺の手を引っ張る。


「桐ヶ谷君、先に行こ!邪魔しちゃ悪いし」

「は?邪魔?一体何の話だ?」

「良いから良いから!それじゃあ理乃先輩、早乙女君。私たち先に行ってるから、ごゆっくり~」


 そう言って鹿野さんが俺を連行するようにして学校へと歩き出す。

 なぜ急にそんなことをするのかわからなかったが、まぁ鹿野さんなので気にしないことにした。鹿野さんの行動は考えるだけ無駄だ。


「え!?ちょ、待って欲しいでござる!拙者も一緒に……」


 総司が先に行く俺たちを追いかけようとするが、お姉が総司の手を掴んでそれを許さなかった。

 総司の手を掴んだ時、なにやら先輩らしき人たちがざわついた気がした。


「総ちゃん。このアニメの続きはもう借りれる?」

「ああ。それだったらもう、別のDVDに落として持って来て……ってそうではなく!拙者を理乃先輩と二人にしないでくれでござるー!?誠殿ー!鹿野殿ー!」


 総司の悲しい悲鳴が、辺りに響き渡った。

 しかしお姉はそれを気にした様子もなく、いつもと変わらない無表情のままただ総司の手をギュッと両手で掴んでるだけであった。


 ……なんだ。あの二人、結構仲が良かったんだな。


「回復魔法を使う主人公が過去に戻ってやり直すアニメも気になっているのだけど、聡ちゃん持ってる?」

「いやあの、アレはちょっと……清楚な理乃先輩にはオススメしかねるでござる…」

「あら?お色気要素が強いってことかしら?それなら大丈夫よ。これでも危険な場所に出会いを求めたりするアニメとかで慣れてるから」

「それを遥かに越えてるんでござるよなぁ…。てかそれより、周りの視線が痛いような…。何故なにゆえ?」


 後から総司に聞いた話だが、周りの……特に3年生の先輩たちからの嫉妬の視線が凄かったそうだ。

 お姉、本当にモテるよな。

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