俳優 桐ヶ谷誠③
曇天☆夕立レストランが放送された翌日、日曜日。
この日は第一話のクライマックス、俺と鹿野さんによるアクションシーンだ。
敵のアジトに乗り込み、次から次へと襲い掛かって来る敵とトラップを攻略し、今回の事件の黒幕の元まで行き、捕まえるというシーンだ。
江月さんがスタッフと俺たちキャストに向けて声を張る。
「良いかい!?黒幕の
「「「えーーー!?俺(私)たちの心配はー!?」」」
「怪我したら治療費は出すし、全員の給料も上げるから頑張れ!」
「「「無茶苦茶だー!?」」」
そう言いながらも、スタッフそれぞれが持ち場へと向かう。
ドラマの撮影に参加してからというものの、いつも江月さんが如何にやべぇ監督か思い知らされている。
鬼才とでも呼べば良いのだろうか?人間離れした才能という意味ではなく、鬼畜という意味で。
もちろん本来の意味で鬼才なのかもしれないが、やはり鬼畜という言葉が彼女には似合う。
とにかく無茶な注文をすることが多いのだ。もっと限界を超えて早く走れだの、多少息切れする程度の疲れなら鼻で息をしろだの、カメラマンに向かって敵を投げ飛ばせだの……カメラマン嫌いなのあの人?
江月さんのドラマを撮影する時は、仙○を常備した方が良いのではなかろうか?……さらに10日分の無茶をさせられるだけだな…。
「本当色々な意味で、あの人が有名な理由がよくわかるわぁ…」
「うーん……江月ちゃんを庇う訳じゃないけどね。ああいう拘りがあるから、江月ちゃんは躍動感のある凄い映像が撮れるし、人気が高いんだよ」
俺が呆れを含んで感心していると、鹿野さんがそう言う。
確かに江月さんのああいう無茶苦茶なやり方が視聴者から人気なのだろうとは思う。撮った物を見返すと、編集してなくてもどれもその面白さが伝わって来る躍動感のある映像ばかりだった。
だが……
「俺は二度とやりたくないな。こんなジャ○キーみたいな撮影…」
「とか言いつつ、桐ヶ谷君ってば毎回楽しんでるじゃん」
「そう見える?」
「うん。見える。それに、学校でボーっとしてる桐ヶ谷君をずっと眺めてるのもなんか楽しいけど……桐ヶ谷君が楽しく俳優やってる姿の方が見ていて楽しい」
「……そう…」
俺をずっと見ていたという、普通の男なら勘違いしそうな発言は無視して、これまでの自分を振り返る。
鹿野さんの言う通り、思っていたより楽しく俳優をやっている自分がいる。
アドリブ大好き鹿野さんに振り回されてることが多々あるが、なんかそれにもだんだん慣れて来てしまって、次はどんなアドリブが飛んで来てそれをどんな切り返しをしてやろうかと考えるのが、柄にもなく結構楽しくなっていた。
「……………いや、でもやっぱ面倒臭ぇな鹿野さんに合わせるの。毎回家に帰ると死んだようにベッドの上で寝る羽目になるし…」
「あはははっ。ご愁傷様ー♪」
「あ。今猛烈に殺意湧いて来た」
俺は鹿野さんの両頬を軽く引っ張った。
「あわわわ!ごめんにゃひゃいごめんにゃひゃい、ゆるひてー…」
頬が伸ばされてる状態で喋る鹿野さんがなんか面白いので、しばらくグニグニと上下左右に鹿野さんの頬を伸ばしたり縮ませたりして遊んだ。
「きゃー!ゆるひてーきりゅぎゃやきゅーん」
とか言いながらも笑ってるので、そのまま鹿野さんの顔で遊んでいた。
可愛い女の子はどんな顔しても可愛いんだな。
「えへへ~…」
……軽くとはいえ、頬を引っ張られてるのに幸せそうな顔されるとМなのかと疑いたくなるな…。流石に言わんけど。
「おいそこのバカップル!スタッフが配置に着いたから始めるよ。持ち場に着けー!」
「だってよ」
江月さんのバカップル呼びは無視して、俺は鹿野さんの頬を横に引っ張ってから離して指定の位置に向かった。
「へぶちゅ!?もうー、伸ばした頬っぺた急に離さないでよー……えへへ~」
鹿野さんは頬に手をやりながら、幸せそうな顔のまま同じく指定の位置へと向かった。
……やっぱMなのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます