桐ヶ谷太知と桐ヶ谷静香
しばらく鹿野さんたちと談笑した後、江月さんから無事オーケーを貰い、その場で解散となった。
鹿野さんたちは事務所の人と話があるそうなので、喫茶サエキに残った。
さて、鹿野さんにお詫びの品としてシュークリーム(十個)を奢ってもらった俺は、一人家に帰ってる最中な訳だが……実は一つ問題が残っていたことを思い出した。
「母さんたちにどう説明しよう…」
そう。俺は両親に何の相談も無しにドラマの出演を承諾してしまったのだ。
一応、15歳以上は独断でテレビに出ても良いらしいけど、これってドラマも含まれてたっけ?
スマホで調べてみるけど、ネットには『雑誌の取材や街頭インタビューを15歳未満が受けるには保護者の許可が必要。15歳以上は特に必要ない』といったことが書かれてるが……ドラマについては一切書かれていない。
たぶん俺の調べ方が悪いんだと思うけど……はぁ。とにかく話しておいた方が良いよな…。
母さんたちにどう説明するか悩んでいると、いつの間にか家の前にいた。
人って考えごとをしてる時って、なんでこんなに時間が経つのが早いんだろうかと常々思う。
大きく溜息一つして、扉を開ける。
リビングに入ると、お姉がソファの上でスマホをちょしていた。……やべ方言出た…。
「おかえり。随分遅かったわね?もう19時になるわよ」
「ただいま。母さんと父さんは?」
「遅くなるって。21時くらいに帰るって言ってた」
母さんと父さんは同じ会社で働いている。
元は母さんが上司で、父さんが部下の関係だったらしい。
「そうか…。なぁお姉……ちょっと相談があるんだけど…」
俺はソファの前にあるテーブルにシュークリームが入った箱を置く。早速と、お姉がシュークリームを出しながら言葉を返してくる。
「なに?珍しいわね、貴方が相談なんて……って、なんで十個もあるの?はむはむ…」
「それも含めてご説明させて頂きますと……実は俺、シリウスが主役を務めるドラマに出ることになりまして…」
「……………………………………」
しまった……急な話過ぎて、お姉が石像のように固まってしまった…。
あ、やめて。SUGOIDEKAIシュークリームに顔半分隠されてる状態でこっち見ないで。正面から見るとマヌケっぽくて笑いそうになるから。
「むぐむぐむぐ……お姉ちゃん。突然の告白に窒息死しかけたわ」
「息も止まるくらいビックリしてたんか…」
俺はお姉に、俳優さんが怪我でドラマに出られなくなり、代わりに俺がスカウトされたことやその理由、そしてシュークリームの件を説明していった。
「……なるほど。さっきの電話はそういうこと……まぁ私は誠の好きにすれば良いと思うけれど……それって、母さんたちに話したの?親権者の許可がどうのみたいな法律があったはずだけど…」
やっぱりそこなんだよな~。でも江月さんは特にその辺の話してなかったし、たぶん大丈夫だと思うんだけど…。
「とりあえずお疲れ様。その話は母さんたちが帰って来てからでも良いでしょう。母さんがうどん食べたいって言ったから、晩ご飯はうどんにしたわ。食べる?」
「いただきます」
この事は母さんたちが帰って来てから話し合うことになり、うどんを食べることにした。
――――――――――――――――――――
「ただいま」
「遅くなってごめんなぁ。寂しかったろ?」
うどんを食べてからしばらく、リビングで今日の勉強の復習していたら、いつの間にか母さんと父さんが帰って来る時間になっていた。
「おかえり。お姉は今風呂行ってる。あと父さんがいなくても別にいい」
「母さん!息子が冷たい!?」
「そう。良かったわね」
「良くない!」
このウザくてうるさい方が父さん。名前は桐ヶ谷
中年のおっさんの癖に筋骨隆々で、ガタイが日本人離れしている。流石昔から色々なスポーツをやっていただけある。
真正面から喧嘩しようものなら絶対殺されるね。
そしてお姉とほとんど変わらない口調で喋っているのが母さん。名前は桐ヶ谷
凄く若いです。とても今年で48歳とは思えないほど若い顔をしている。20代って言われても信じられるくらいだ。
お姉は母さんからの遺伝子をほぼそのまんま受け継いでいる。つまり母さんも普段は全く表情が動かないのだ。
だけど隆二や総司とかの来客があった場合は少し口角が上がる。口角を上げれるようになるまで一年かかったらしい。
こんな両極端な二人がよくもまぁくっ付いたことよ…。人生何があるか本当にわからないな。
「母さん、父さん。実は話があるんだけど……」
俺は二人に、今日あったことを事細かに説明していった。
説明が終わる頃にはお姉も風呂から上がり、本格的な家族会議が始まる……かと思ったのだが…。
「そう。よかったわね。ちょっとした大金持ちになれて」
「え…。母さんそれだけ?もっとこう……無いの?」
「ええ。相談も無しに勝手に引き受けた事は悪いと思うけど、貴方の人生なんだから、好きにしたら良いと思うわ。監督から何か聞かれたら、許可は貰ったって言いなさい」
えー……なんか思ったよりあっさりしてるなぁ…。
「えっと……父さんは?」
「シリウスと一緒にテレビに出れるなんて、羨ましい~ッ!?キーッ!」
父さんはハンカチを咥えながらそんなことを言っていた。あんたファンだったのか…。
「「あなた(父さん)うるさい」」
母さんとお姉に言われ、しょぼくれる父さん。
本当、図体の割にメンタル弱いな…。
「はい。すみませんでした……と、冗談は程々にしてだ。珍しいな。お前がそんな面倒臭いことに手を出すなんて」
「まぁ……ただの気まぐれだよ」
「なるほど……だが、生半可な気持ちでやる訳じゃないんだよな?」
さっきと違って真面目な顔で聞いてくる父さん。
普段ふざけてる人だけど、実は誰よりも誠実な人だ。
さっきはあんな冷たい反応をしてしまったが、これでも父さんのそういう所だけは尊敬している。そういう所だけは。
「ああ。俺はやるからには全力でやる男だってことは父さんも知ってるだろ?最初は確かに嫌だったけど、今日学校で鹿野さん……オリオンに言われた事を思い出してさ」
「オリオンちゃんに言われた事?」
「将来やりたいこと無いなら、とりあえず興味のある物をやってみろ的な事を言われた」
具体的な内容は忘れたけど、そんな感じだったと思う。
別に俳優に興味があった訳じゃないけど、こんな機会もう無いだろうし、とりあえずやってみた。
最終的に折れるような形で引き受けた訳だけど……まぁ、結構楽しかった。
将来の夢の選択肢としては、悪くないと思う。少々大きい夢になるだろうけど…。
「そうか……お前はやっと、ちゃんと前を向くことが出来たんだな…。よし、母さん!赤飯だ!あの誠がここまでやる気になるなんて、こんなめでたい事は無い!放送日は皆で赤飯食いながらそのドラマを観よう!」
「良いけど、近所迷惑よ。少し静かにしないともぐわよ?」
「ははははははっ!おいおい母さん、子どもたちの前で夜のお誘いはちょっと……あ。ごめんなさい。無言で部屋に連れ込もうとしないでお願い致します。なんでもしますからー!」
母さんが父さんを連れて、自分たちの寝室へと向かった。なんか俺が問答無用で鹿野さんに連れ回されてる情景と被って、ちょっとデジャブを感じる…。
まぁ二人の部屋は防音がしっかりしているらしく、いくら騒いでも近所迷惑にはならないと思う。
……とりあえず、父さんからも許可が貰えたってことで良いんだよな?たぶん。
「……ふぅ……お腹一杯。ごちそうさま。鹿野さんにお礼言っておいて」
「うん。わかった」
実はマイペースにずっとシュークリームを食べていたお姉。
残ったシュークリームは五個……え?一人で半分食ったん?別腹化物かよ…。
「残りは貴方と母さんたちにあげるわ」
「いや、俺はもう撮影の時に食ったからいらないんだけど…」
とりあえず冷蔵庫に突っ込んでおいて、明日食べることにした。
「誠」
「うん?なんだ?」
「応援してる」
「……うん。ありがとう」
お姉の短い激励にそう答え、俺は風呂に入りに行った。
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