撮影現場にてトラブル

 結局、五時間目はずっと鬼ごっこをやっていた。

 後半はけいどろをやった。


 鬼が総司と二条院さんだったのだが、この二人は俺と鹿野さんコンビより厄介だったと思う。


 二条院さんが意外と足が速く、皆を檻に見立てた三角コーンのサークルにドンドン入れていく。

 そして誰かが助けに行けば、木乃伊取りが木乃伊よろしく、気配を消していた総司がソイツを捕まえる。

 かと言って制限時間内に逃げ延びようとしても、二条院さんもアイドルをやっているので鹿野さん程ではないが、体力が多い。

 しかも二条院さんはかなり冷静に立ち回るタイプ。なるべく体力を温存しながら、捕まえられる者から着実に捕まえていく。女子は二条院さんにタッチされても、むしろ嬉しそうに黄色い声を上げてるが…。


 体力管理をしっかりし、ほぼ休む間もなく二条院さんが追いかけ続ける。助けに行っても気配を消している総司に捕まり、逃げることも、仲間を助けることも出来ない。

 洋画のホラー映画でただ滅びの時を待つ、哀れな生存者の気分だった。真の恐怖の鬼ごっこはけいどろであったか…。


 最後に残ったのは俺と鹿野さんだったが、鹿野さんが二条院さんに気を取られてる隙に後ろから総司に捕まってしまった。

 二人の鬼から俺も逃げ切ることが出来ず、見事に全滅させられてしまった。


 体育が終わり、六時間目の授業も恙なく終わったが、六時間目はほとんどの人が眠気との戦いで集中していなかった。


――――――――――――――――――――


 鹿野結衣視点。


――――――――――――――――――――


「あー!楽しかったぁ!」 


 放課後になって、凜華ちゃんと純ちゃんと一緒に、ドラマの撮影現場に向かう。

 本当は桐ヶ谷君と色々話したかったけど、時間が無いのでちょっと寂しいけど自重した。

 私たちシリウスは、主演で出演するドラマの舞台が地元から離れた街だから、生活リズムや健康の為にここへ引っ越しと転校をしに来た。


 初日でどうなるか不安だったけど、お隣さんが凄く良い人だった。

 無愛想で口の悪い男の子だったけど、私がアイドルとか関係無く普段通りに接してくれる人。

 そんな人と今日はお友達になれました!本人は不本意そうだったけど、なんだかんだ仲良くしてくれる優しい人なんだ。


「機嫌良いわね結衣。そんなに桐ヶ谷君と仲良くなれたのが嬉しいの?」

「うん!すっごく嬉しい!アイドルとか気にしないで接してくれる友達が出来るなんて、もう無いんだって思ってたんだもん!」


「ふふふっ。結衣さんが嬉しいと、なんだかこっちまで嬉しくなっちゃいますね」

「えへへ…。それに、冴木君と早乙女君。あの二人もアイドルってことを気にしないでくれて、嬉しかったなぁ」


「……そうね…」


 凜華ちゃんと純ちゃんと今日あったことを話しながら現場に向かう。

 桐ヶ谷君のお姉ちゃん。理乃先輩が凜華ちゃんより背丈があってモデルみたいだったこととか、二人が早乙女君から聞いたアニメの話とか。

 まさかこんなに良い友達が出来るなんて想像してなかったな~。


――――――――――――――――――――


 現場となる商店街に着いた。けど、なんだか監督とスタッフさんたちの様子がおかしかった。

 何かあったのかな?


「お待たせしましたー!シリウス入りまーす!」

「ああ!オリオンちゃん、アルファちゃん、イシスちゃん。来て早々悪いんだけど、今日撮影出来そうにないんだよ…」


 女性監督の江月えづきちゃんが私たちにそう言った。


「何かあったの、江月ちゃん?」

「実は今回ゲスト出演してくれるはずだった俳優が、病院に運ばれちゃってね…」


「えっ。大丈夫なんですか?」

「うーん。足首を捻挫したって話だから、命に関わるようなことは無いだろうけど……今日どころか、暫く無理そうだ。新しい俳優さん探すのにも時間が掛かるし」


 純ちゃんの質問にそう答える江月ちゃん。

 本当に困っている様子だった。


「でも、今回の俳優さんてオーディションから選ばれた人なんでしょ?オーディション受けた人の中に、代わりに出来そうな人とかいないの?」

「そうなんだよ。実はこの役は結構難しくてね。その俳優さん以外に適任がいないんだ…」

「そんなに難しい役だったっけ?」


 江月ちゃんが自作の設定集を開く。


「えーっと。『学校では他人に興味がなく、休み時間に話す友達がいても基本一人で遊ぶことしかしない男子高校生。これは彼の素であり本部でも支部でも、どこでもそう。趣味はゲームや漫画、アニメ鑑賞。学校での彼の評価は、成績はかなり優秀で帰宅部なのに運動神経が抜群。だけど愛想が無いし、口も悪い上に顔も良いって訳じゃないから女子からモテるなんてことは一切ない。だけど心根は優しい男の子』。他にも『目付きが悪い』とか色々あるけど、概ねこんなところだね」

「設定盛り過ぎでは?」


 あまりに盛り過ぎている設定に凜華ちゃんがツッコむ。

 設定集を見てみると、容姿からなにまで本当にびっしりと書かれていた。

 漫画のキャラでもないとこんなの無理じゃん…。


 ……………ん?


「今日出演予定だった人は、この設定に当てはまる奇跡のような人だったという訳ね…」

「いや、実は全然。努力家だし、他よりマシかなって程度で選んだだけさ」

「そ、そうなんですね…。ですがそうなると、ドラマ制作は延期でしょうか?」


「……他人に興味がなく、趣味は所謂ヲタク趣味…」

「? 結衣さん、どうかしましたか?」


 この設定を見て、一人の男の子の姿を思い浮かべる。

 ……普段は気だるげでボーッとしてる印象を受ける目付きだけど、面倒臭そうに私を見てくる目は、目付きが悪い部類に入ると思う。

 そして何より、言葉とは裏腹に凄く優しい一面を持っている(結衣私感)…。


「………ねぇ江月ちゃん。たぶんその俳優さんより、バチコリ役に当て嵌っている男の子がいるんだけど……一般の子でも良い?」

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