まるで事後のようでござる…。

「総司ーーー!」


 ビクッと総司の肩が跳ねる。

 ギギギィとこちらを見た総司は情けない声を上げながら逃げ出した。


「ぎゃあああああっ!?とうとう目を付けられたでござるー!?」


「ちょ!?早乙女君、意外と速ッ!?下手な運動部の子より速いんじゃない?」

「逃げ足だけだがな!」


 総司は「こっち来るなでござるー!」と言いつつ、逃げながらしっかり凍ってる人をタッチして助けている。

 相変わらず変に器用な奴だ。


 総司は本当に逃げ足だけは速い。その為、なかなか追いつけない。

 恐らく鹿野さん単体であれば追い付けると思うのだが……手繋ぎハンデがあるから当然無理だ。


「いいぞ総司!制限時間は残り八分だ!一秒、いや十秒、いいやあと一分は時間を稼げ!」

「早乙女くーん!死ぬ気で頑張ってー!」


「文字通り拙者に死ねと申すか二人共ー!?もう結構限界でござるーーー!」


 隆二と二条院さんの無茶な注文に答えながらも、しっかり逃げている総司。

 身体に限界が来ても逃げ続けられてるのは、脳内麻薬アドレナリンがドバドバ溢れてるんだろう。

 総司はそういう体質だ。いや、小学生の頃鬼ごっこでトラウマになるほど俺が散々追い掛け回したから、そういう体質になってしまったというのが正しいか。


「はぁ……はぁ……こんな悪夢はもう無いと思っていたのに、なんでこうなるんでござるかー!」


「はぁ……はぁ…。仕方、ない…。鹿野さん!こうそくいどうだ!」

「おう!」


 待ってましたと言わんばかりに笑顔を弾けさせながら、鹿野さんは速度を上げる。

 俺もとっくに限界が来てる身体に鞭打って、鹿野さんに並走する。


「えーーー!?どこのマ○ラ人でござるかー!?」


 こうそくいどうを発動したことにより、俺は限界を無理矢理超えて、鹿野さんは全力で走ることが出来、総司を捕まえることに成功した。


「やられたでござるー!?」


「やったー!じゃあ次は冴木君だー!」

「ちょ、まぁッ!?」


 すぐさま隆二を捕まえに行こうとした体力お化けの鹿野さんに引っ張られた俺は、体力はほとんど残っていなかった為、転倒してしまう。


「きゃあっ!」


 鹿野さんは転倒した俺に引かれる形で巻き込まれて、可愛らしい声を上げながら同じく転倒してしまった。

 お互い怪我は無く、本当にただ転んだだけで済んだ。

 しかし、転んだ体勢が悪かった。


 鹿野さんは床に仰向けに倒れて、俺が鹿野さんの顔の横に両手を付いた状態。明らかに俺が押し倒したかの様な体勢であった。

 しかし、俺は疲れ果てた状態のせいで、その状況を呑み込めていなかった。辛うじて鹿野さんを潰さずに済んで良かったー程度しか頭に無かった。


「き、きききき、桐ヶ谷君…。は、早く避けてくれないと、起き上がれないなー…なんて……」


 頬を赤くしながら言う鹿野さん。しかし今の俺はそれを聞き入れることは出来ない。

 なぜなら体力がもう残って無さ過ぎて、自分の身体を支えている腕さえぷるぷると震えて倒れずにいるのがやっとなのだ。


「はぁ……はぁ……はぁ…。鹿野、さん…」

「は、はい…」

「……少し…休ませて……はぁ……もう身体…限、界……」

「ひゃうぅっ…」


「ま、誠殿から……なにやら謎の色気を感じるでござる…」


 自分がなんかいやらしく聞こえる言い方したことに気付かず、総司に頼んで身体を起こしてもらった。


 残り時間五分になった段階で少しまともに動けるようになり、そこからは顔が赤くなった鹿野さんとまた手繋ぎ状態で、総司を復活させられぬように立ち回り、隆二、二条院さんと着々と捕まえていった。

 ただ、残り十秒で奴らは捕まえたのだが、隅っこでずっと縮こまっていた藤堂さんに最後まで気付けなかった為、結果は逃げる側の勝利となった。


 マジで大人しくしてやがったよ…。

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