人間やめてる

 二条院さんからハンデとして、俺と鹿野さんに手を繋いで鬼をやって欲しいとお願いされた。

 鹿野さんの運動能力が男子よりずば抜けているからと言う。

 鹿野さんの運動能力は男顔負けとは隆二から聞いていたが、このハンデは流石に大袈裟だと思っていた。


 俺だって運動に関しては下手な運動部の奴より自信はあるし、男顔負けと言ってもたかが知れてると思っていた。


 鬼ごっこが始まるまでは……


「あははははっ!桐ヶ谷君やるね~!私についてこれる男の子は初めてだよぉ!」

「はぁ…!はぁ…!はいタッチーッ!」


「なぁ!?この2人、速過ぎるだろ!?」


 始まってみるとどうだ。鹿野さんは俺と同じスピードで並走するし、全く息が切れる様子が無い。

 手繋ぎというハンデがあるのに、始まって五分で半分近くタッチしていた。

 男顔負けというのは大袈裟でも何でもない。明らかに俺より体力があるし、まだまだ余力があるのが見て取れる。

 俺はもう限界に近いっていうのに…。


 鹿野さんはそんな俺に気を遣ってか、一旦走るのをやめて歩いてくれる。


「ふぅ〜!楽しいー!。だいぶ捕まえたけど……なんか減ってる気がしないね~?」

「はぁ……はぁ……はぁ…。コイツ……人間やめてやがる」


 休みなく五分も全力で走り続ければ、息が切れるどころか倒れ込んでもおかしくないのに、全然余裕の表情を浮かべている。

 こんな体力お化けと比べても仕方ないのはわかっていても、腰に手を置いて休んでる自分が少し情けなく感じる。


「私は人間をやめるぞ、桐ヶ谷ー!」

「はぁ……はぁ……とっくにやめてる癖に……何言ってんだか…」

「んー。でも桐ヶ谷君は凄いねー。本当に私についてこれるんだもん」

「そりゃあ……どうも…」

「なんかスポーツやってるの?」

「筋トレとランニング以外やって、ない……はぁ…他はたぶん、親の遺伝…」

「そうなんだ。遺伝って凄いんだね~」


 父さんが小さい頃から色々なスポーツに手を出してたらしいから、その遺伝に影響されてるのもあって運動神経は誰よりもあると密かに自負していた。

 だから女子である鹿野さんが俺以上に運動能力が上なのが、少しショックだった。

 ただ、反射神経などは俺の方が軍配が上がる。


 逃げてる奴が左右どちらかに逃げると、先に反応して手を伸ばしているのは俺だからだ。

 運動神経、反射神経だけで見れば、恐らく男である俺の方が上。

 しかし、昔から俺以上に運動を熟していたであろう鹿野さんの方が体力、身体能力諸々は断然上。


 ………うん……勝ってる所を上げてもやはり惨めな気持ちになる。


「うーん。それにしても、結構タッチしてるはずだけど、凍ってる人少ないね。助けに来ようとしてる人を率先して狙ってるし、凍ってる人から近すぎず遠すぎず、丁度いい距離感でタッチして助けに行け辛くしてるのに」

「はぁ……ふぅ………たぶん、総司だな」

「早乙女君?なんで?」

「アイツは昔から気配を消すのが上手いんだ。アイツがヲタクのござる野郎になる前は、いつの間にか背後に突っ立ってることなんてざらだった。たぶん今も……いた!あそこ!」


 俺が指さす方に、凍ってる人をタッチして助けてる総司を発見した。

 本当にアイツはあんな目立つ格好してるくせに気配消すとわかり辛くなるな…。意識しないと全く見つけられん。


「よーしっ!次のターゲットは決まったね!」

「その次は隆二な?たぶん逸早く総司を復活させに来るから」


 目標を明確にし、俺と鹿野さんは総司に向かってまた全力で走り出す。

 その様子は他から見ると、獲物を狩ろうとする肉食獣に見えたという。

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