誠の姉
総司と鹿野さんたちシリウスと一緒に昼飯を食べることになった。
俺の隣に鹿野さんが座り、二条院さんと藤堂さんが前。残り一つの席は俺と藤堂さん側に、所謂誕生日席の形にして、そこに総司が座った。
「それにしても、女子と一緒にご飯を食べる日が来るとは思わなかったでござるな~」
「小中一緒に食べてたろ」
「給食と一緒にするでないでござるよ…。それとこれとは全く別でござる」
そんなもんかね。
まぁ隆二と総司曰く、普通の男の価値観と比べると、俺の価値観は枯れてるらしいからな。普通はそんなもんなんだろう。
三段式の弁当箱を開けると、「おおー」と鹿野さんが感嘆の声を上げた。
「桐ヶ谷君のお弁当、彩りしっかりしていて凄く美味しそう」
「そう。お姉に伝えておくわ」
本日の弁当は、一段目に昨晩のあまりである炊き込みご飯。
二段目にバランを挟んで分けてあるピーマンの肉詰めとだし巻き卵。
三段目にレタスとブロッコリーとプチトマトだった。
保温機能が付いてるので、ピーマンの肉詰めとだし巻き卵。それに炊き込みご飯はまだ暖かい。
「桐ヶ谷さんには、お姉さんがいらっしゃるのですね」
「お弁当を作ってくれるなんて、凄く面倒見が良いのね」
「まぁそうだな。良い姉を持ったと、毎日感謝してるよ。普段何考えて生きてんのかわからんけど」
藤堂さんと二条院さんの言葉にそう返す。
お姉は一個上で、この学校の三年生だ。俺が父親似でお姉が母親似だから、俺たち姉弟はあまり似ていない。
ただ、趣味や食の好みは同じなので、弁当のラインナップを見る度にちゃんと姉弟なんだな~と実感する。
モグモグ……うん。俺とお姉が好きな甘めのだし巻き卵だ。うんまいうんまい。
「うぅ……拙者、誠殿の姉上は苦手でござる…」
「どうして?桐ヶ谷君のお姉ちゃん、弟のお弁当を作ってくれる優しいお姉ちゃんって感じするけど?」
「鹿野殿も一度会えばわかるでござるよ。誠殿も言っていた通り、一体何を考えてるのか全くわからないんでござる…」
「うーん……何を考えてるのかわかりにくいっていうのは、桐ヶ谷君も同じじゃない?」
さり気なく俺をディスりやがったな鹿野さん……事実だけども…。
「いやいや鹿野殿。誠殿の姉上はわかりにくいのではなく、本当にわからないんでござるよ。無機物が如く無表情が常で、表情筋はほとんど動くことはござらん。最近話題の100人の女の子を幸せにするアニメの、AI少女みたいに。誠殿には申し訳ないでござるが、二人は本当に姉弟なのか疑うレベルでござる」
「あのアニメの……そ、それは流石に大袈裟なのではないでしょうか…?少なからず笑ったりとか、それくらいの表情は浮かべるのでは?」
藤堂さんが俺に視線を向けて来る。
総司のヲタク特有の例えについて行ける藤堂さんに少し驚きつつ、俺は首を横に振った。
アイドルも深夜アニメ観るんだな。しかもあんなカオスなやつ。
「いや。総司が言ってることは本当だよ。なんだったら見に行けば良い。この学校の三年だから」
俺がそう言うと、どうやら鹿野さんは興味津々だったらしく……
「え。何組?」
「確かC組だったはず。我が姉ながら、美人だからすぐわかると思う」
「よーし!凜華ちゃん。純ちゃん。ご飯食べ終わったら、一緒に桐ヶ谷君のお姉ちゃんに会いに行こうよ!」
鹿野さんが唐突にそう提案する。
この人は本当に思い立ったらすぐ行動に移すタイプだな…。
「え?でもいきなりは迷惑よ。それも見ず知らずの人相手は、余計に…」
「大丈夫!桐ヶ谷君も一緒に行ってくれるから!」
「おいこら。勝手に決めるな」
二条院さんに勝手なことを言う鹿野さん。
彼女は俺の都合なんかお構いなしなのか?
「だって会いに行けって言ったのは桐ヶ谷君でしょ?だったら、紹介してくれる人が必要だよね」
「見に行けと言ったんだ。会って話をしろとまでは言ってない」
「でも私たちって、有名人だよ?三年生の教室に行って騒ぎにならない訳ないし、桐ヶ谷君のお姉ちゃんを見ていたら、何か用?って声かけられちゃうよ。そうなったらどっちにしても、見るだけじゃ終わらないでしょ?」
……意外だ。この人一応そこんとこ自覚あるんだ。
てっきりいつも考えなしに行動してるものだとばかり思ってた。
「なんだか凄く失礼なこと考えてない?」
「気のせいだ。まぁ確かに、変に騒がれてお姉にばかり迷惑が掛かるのも申し訳ないし、別に良いけど…」
「やったー!桐ヶ谷君のお姉ちゃんにご挨拶だー!」
「もう……結衣ったら…」
普段から気苦労が絶えないのだろう。二条院さんが凄く頭痛そうにしている。
俺もこの五時間にも満たない付き合いで結構ストレスになってるから、その気持ちはわかるよ。今度一緒に胃薬飲もうな。
「総司はどうする?」
「遠慮するでござる!あの人よく拙者に絡んで来るから、本当に苦手なんでござるよ…」
ああ……そういえば、お姉も一応ヲタクではある。俺よりライトなヲタクだけど。
その関係かは知らんが、確か中二の頃から総司に絡むことが多くなった気がする。如何せん無表情だから、何を思って総司にちょっかい出してんのかよくわからん。
「ねぇねぇ桐ヶ谷君。桐ヶ谷君のお姉ちゃんってなんて名前なの?他にも色々教えてよ」
「お姉の個人情報だから、その辺については本人に聞いてくれ」
その後はシリウスの三人が出演するドラマの話を肴に、昼飯を楽しんだ。
……だし巻き卵うんめぇ~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます