早乙女総司

「誠殿~?もう大丈夫そうでござるか?」


 鹿野さんが俺の胸にぐりぐりしていると、後ろからござる口調で話しかけてくる変な奴が来た。

 俺の知り合いだけど。


 いい加減落ち着いてきた鹿野さんを引っぺがすと、彼女はやや不満そうな顔をしたが、すぐに元の笑顔に戻って俺の後ろにいる奴に挨拶した。


「こんにちは!桐ヶ谷君のお友だ……ち…?」


 しかし鹿野さんはそいつの格好を見て、固まってしまった。

 無理もない。そいつはグルグルメガネとボサボサな頭に鉢巻を巻いている不審者感漂う男だからな。


「お初にお目にかかるでござるオリオン殿!拙者は見ての通り、ヲタクの早乙女さおとめ総司そうじでござる!誠殿の幼馴染兼ヲタク友達でござる!」

「うるせぇ。俺の耳元で騒ぐな総司」

「ぬ?これはすまぬ誠殿。なにやら誠殿に新しい友人が出来たと思い、思わずテンション上がってしまったでござる。ははははは!」


 早乙女総司。

 本人も言っていた通り、俺のもう一人の幼馴染だ。

 俺が漫画やアニメが好きになったのはこいつの影響だ。

 ちなみに例の先約というのは総司のことだ。


 昔は今ほど騒がしい奴ではなかった……というか、隅っこで大人しくしているような奴だった。

 どういう訳か中学二年の時に今のヲタクスタイルに目覚めてしまい、俺と隆二は本気で心配した。

 理由を聞くと、ただ深夜アニメにハマっただけだという。なんかガールズバンドが主体のアニメだったり、心がぴょんぴょんするアニメだったり色々あった気がする。


 総司が最初に俺に薦めて来たのは、確かS○Oだったな。おかげでヲタクの仲間入りだ。


「総司が驚かせてすまねぇな鹿野さん。悪い奴ではないのは確かだ。たぶん…」

「そこは絶対って言ってほしかったでござる…」


「……………はっ!ご、ごめんね!私は鹿野結衣。よろしくね、早乙女君」


 鹿野さんが漸く立ち直り、改めて総司に挨拶する。


「鹿野結衣殿でござるね。いやーそれにしても、一部始終をずっと廊下から眺めていたでござるが、あの誠殿に拙者と隆二殿以外に友達が出来るとは思わなかったでござる」

「お前に言われると無性に腹が立つな」

「ははははは!ドイヒーでござるっ!」


 一頻り笑ったあと、総司は「あっ」と言って俺と鹿野さんたち三人に提案する。


「なにやら拙者が誠殿と約束をしていたせいで、一悶着あったご様子。なればここは、この五人で一緒にお昼は如何でござろうか?」

「え?良いの!?」

「もちろんでござる。誠殿も構わぬでござろう?せっかく鹿野殿と友達になったんでござるし」


 総司の提案に、目をキラキラとさせながら見てくる。

 どんだけ俺と一緒に飯を食いたいんだよ…。


 まぁ。前の学校であったことを聞くと、鹿野さんのそういう欲求めいたものも、わからないでもない。

 友達との距離が開いてしまったのが、相当寂しかったらしいからな。

 だから鹿野さんは俺みたいに無愛想な奴でも、普段通りに接してくれる友達が欲しかったんだろう。


「……藤堂さんと二条院さんは?」


「私はむしろ大歓迎です!実は早乙女さんともお友達になりたかったので、ぜひ!」

「私も全然大丈夫よ。よろしく、二人とも」


「あいやー。照れるでござるー…」


 男の照れ顔は需要無いのでおやめください。


「じゃあまぁ……良いよ」

「やったー!桐ヶ谷君とごっはん♪ごっはん♪ごっはんー♪」

「……そんなに嬉しいもんなのか…。幸せな人だなー本当に…」


 意気揚々と机をくっ付けていく鹿野さんを見ながら、そんなことを呟いた。

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