桐ヶ谷誠と鹿野結衣①

「それじゃあ、鹿野の席はあそこの窓際の一番後ろの席な。教科書は隣の桐ヶ谷きりがやに見せてもらえ」

「はーい」


 漸くして皆が落ち着いた(野茂瀬先生が睨みを効かせた)後、鹿野さんが俺の隣に座った。


「改めて初めまして!よろしくね、桐ヶ谷君!」

「んー…」


 鹿野さんが笑顔で挨拶してくる。

 しかし俺は今日の晩飯は何を作ってもらおうかと、ずっと上の空状態だった為、適当に返事をした。


「あれ?もしもーし。聞こえてますかー?」

「んー。聞こえてたよー」

「じゃあせめて目を合わせてほしいな…。しばらくお隣さんなんだよ?」

「どうでもいいです。そんなことより今日の晩飯の方が最優先事項です」

「むー…」


 淡々と、ご要望通りに目を合わせてそう言うと、不満たっぷりですと言わんばかりに頬を膨らませて睨んで来る鹿野さん。

 それを見た男子のほとんどが「可愛い~…」とだらしない顔をしていた。

 キショイ。


 するとそれを見かねたのか、隆二が鹿野さんに話し掛ける。


「どうも鹿野さん。俺は桐ヶ谷誠の幼馴染の、冴木隆二って言います。よろしく!」

「うん!よろしくねー!」


 隆二が挨拶すると、彼女は一瞬で元の笑顔に戻った。

 やはり女子の扱いはイケメン陽キャの隆二に任せるに限る。


「誠は人に興味がないんだよ。たとえそれが、大人気アイドルユニットのオリオンちゃんであろうとね」

「そうなんだぁ…。でも、少しくらい愛想良くしてくれても良くない?ちょっと傷付く…」

「うーん。確かにそうだけど、誠のそれは短所と同時に、長所でもあるよ」

「そうなの?」


「おい隆二。余計な事喋るな」


 しかし隆二は俺の言葉を無視して続けた。


「愛想は全く無いけど、分け隔てなく誰とも接せられるからね。誰にでも……それこそ俺にさえさっきみたいな感じなんだよ、誠は」

「え~。それ本当に分け隔てないって言えるの~…」


「……チッ…」

「舌打ち!?」


 俺と鹿野さんのファーストコンタクトは、正しく最悪だった。主に俺が悪いと自覚はしている。

 だけどそれを直すつもりは、今の俺には全く無かった。

 距離感が近い感じの彼女は、俺が最も苦手とするタイプだから。別に印象最悪でもいいし、嫌われた方が楽だ。


 そう思う俺の視界の端では、野茂瀬先生が溜息を吐いて心配そうにこちらを見ていた。

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