陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル
結城ナツメ
プロローグ
「おい聞いたか?今日『シリウス』が商店街でドラマの撮影するんだってよ」
「マジで!?俺めっちゃファンなんですけど!?」
「夕方から撮影らしいから、授業終わった後急げば間に合うかもな」
「クッソ~…。俺部活で行けねぇよ…」
登校中、なんか目の前を歩いてるうちの学校の男子生徒二人が騒いでる。
話からして『シリウス』って、芸能人の名前か?
「はぁ~……生『オリオン』ちゃん見たかったな~」
「俺は断然『アルファ』様だな」
「あ~、でも『イシス』ちゃんのデカパイも見てみたくね?」
「わかるわ~。あのFカップのおっぱいに挟まれてぇ~…」
……気持ち悪い会話だ…。話を聞いてる限りだと、アイドルかなんかなんだろうな。
さっさと学校行きてぇのに、前塞いで話す内容じゃないだろ。
前後から車が来てないことを確認して、少し歩道からはみ出しながら前の二人を抜かして行った。
そして横切るときに、こんな会話があった。
「そういえば、今日は転校生が来るって話だったよな?しかも三人も」
「ああ。五月に転校、しかも三人なんて珍しいなぁ~としか思ってなかったけど、もしかしたら……」
「もしかすると~……」
「「うおおおおおぉぉぉぉ!!!絶対そうだーッ!」」
「うるさっ…」
朝っぱらから盛り始めた動物みたいな二人に、耳を塞ぎながら呟いた。
――――――――――――――――――――
「おーっす。おはよう
教室に入って席に着くと、前の席の幼馴染兼友人の
今日も不公平なくらいイケメンだ。その爽やかスマイルだけでクラスの女子達は黄色い声を上げる。
俺も女だったら惚れてるね。知らんけど。
「ん…」
返事にもならなそうな返事だけして、リュックから教科書などを出す。
「聞いたか?うちの学校に転校してくるの、シリウスらしいぜ」
「そう」
「しかも内一人は、お前のとなりの席っぽいぜ」
言われて見てみると、窓際に机が一つ追加されていた。
先週の金曜まではクラスの人数のキリが悪く、一列だけ穴が空いてる様な状態だったのだ。
「ふーん」
「良いな~。この学校の教科書まだ買ってないだろうし、教科書見せ合いっこ出来るじゃん」
「は?めんどっ…」
漸くまともに発した言葉がこれだった。
教科書持ってないと決まった訳じゃないが、これから来るであろう転校生に対して我ながら酷い奴だと思う。
だが隆二はそれに対し、特に反応することなく続ける。
「学校の案内も、ゆかりちゃんならお前に任せそうだな」
「なんで?」
「だってお前、他人に興味ないだろ…?」
「……それ理由になるか?」
隆二の言う通り、俺は他人に興味がない。
ただ単に人付き合いが面倒なのだ。
隆二みたいに小さい頃から付き合いがある奴ならまだしも、俺は基本、一人で読書やアニメ、ゲームを楽しんでいたい人間だ。
ちなみにゆかりちゃんとは、担任の
「まぁ、心構えはしておけ。あと、シリウスとは少なからず関わるだろうから、三人について少し教えといてやる」
「いらん」
「まずはオリオンちゃんから―――」
俺の言葉を無視して話し始める隆二。
小さく舌打ちした。
オリオン…シリウスという去年から活動しているアイドルユニットでセンターを務める天真爛漫で明るく元気な女の子。
ライブの他にドラマや舞台なんかもやっていて、男顔負けの運動神経でライブ中にいきなりバク宙などのとんでもないアドリブをするとのこと。
ドラマや舞台での演技もアドリブしまくるそうな。ただそれがファンからの受けが相当良いらしく、今回はどんなことをするのだろうと毎回期待されてるらしい。
アルファ…シリウスのリーダーでクールビューティな女の子。
オリオンの無茶苦茶なアドリブにも即対応する冷静な判断力とモデルの様な細身と高身長で人気が高い。
イケメン系の女子らしく、男性ファンよりも女性ファンの方が多いとのこと。
ちなみに男性ファンの一部では『アルファ様に蔑まれ隊』もしくは『踏まれ隊』というのが結成されてるらしい。知りたくなかった。
イシス…シリウスの聖母と言われてる穏やかで天然な女の子。
Fカップのワガママボディで男性達を魅了。守ってあげたくなる幼顔と天然な性格も相まって女性ファンも多いらしい。
ちなみグラビアアイドルも兼任してるらしく、まぁそれでアレしたりする男も続出しているとのこと。アイドルでナニしてんねん。それはファンと呼んで良いのか?
「とまぁ、こんな感じ。たった一年で、もはや日本にはなくてはならないと言われる程のアイドルユニットになったんだぞ?」
「ふーん」
「あっはははっ。マジで興味無さげ」
「実際無いからな」
話が終わるとチャイムが鳴り、担任の野茂瀬先生(20代ポニテの女性教師)が入ってくる。
「おう。ホームルーム始めるぞ~。知ってると思うが、今日は転校生が来ている。ここに一人、隣に二人だ」
先生の言葉にクラスの皆は「誰かな?誰かな?」と話し始める。
完全にシリウスの誰かだと信じ切っている様子だった。
「はいはい静かに。待たせるのも悪いからさっそく入ってもらうぞ。おい、入ってきてくれ」
「はーい!」
廊下から響き渡るような声で元気よく入ってきたのは、ショートボブの見るからに元気が有り余ってそうな女の子だった。
さっき隆二から教えてもらった特徴と合致させると、一発で誰かわかった。
明らかにワガママボディでもないし、クールビューティなんて言葉も当てはまらない。
「初めまして!
挨拶が終わると、途端に教室全体が騒がしくなる。
「やべぇモノホンだー!」だの「サインくれー!」だのと本当に騒がしい。
野茂瀬先生が落ち着けと言っても聞かないので、しばらく止みそうにない。
ただそんな中、俺はもうとっくにオリオンこと鹿野結衣の姿から視線を外して、ずっと窓の外を眺めていた。
「……晩飯、何作ってもらおう?」
「本当にお前は興味ないのな…」
隆二に呆れらながら、お姉に今日の晩飯は何を頼もうか考えていた。
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