第2話 やさしさとポイント
ハームレスは商店街から外れた寂れた路地に来ていた。
あれだけ周りから英雄の後継者と囃し立てられたら、落ち着かない。あれから英雄はすぐに他の現場に言ってしまうし、否定する間もなかった。
正直、英雄の素質などない。なる気もない。
だが、盛り上がった周囲は止まらなかった。
「お、英雄様の後継者じゃねぇか」
またか。とうんざりして見ると、さっき逃げた巨漢の冒険者だった。
「やめてくださいよ……。僕にそんな素質はありません」
「謙遜すんなよ。それと……」
「どうしたんですか?」
巨漢の冒険者は大きく息を吸って、勢いよく頭を地面にこすりつけた。
「さっきはすまなかった! お前を一人置いて逃げちまった!」
「え? あの、ちょっと! そんな、やめてくださいよ! むしろ命令違反したのは僕ですよ」
ハームレスは逆に狼狽えた。さっきの三人パーティにおけるリーダーは黒ローブの冒険者だった。そのリーダーの判断を無視して残った。
「それでもだ。あの場に人が残っていることは俺もわかってた。その上で逃げちまったんだ。戦況の判断としては間違ってなかったのかもしれねぇ。けど市民を守る冒険者としては失格だ」
「わかりました。じゃあ、今度僕が困った時に助けてください。それでチャラってことで」
「一つ貸しを作っちまったな。絶対返すぜ」
「そういえば、もう一人はどうしたんですか?」
黒ローブの冒険者の姿がない。
「あぁ、あいつは怪我した市民を治療しに行ってたぜ。見捨てて逃げたこと、かなり後悔してたからな」
「そうですか……」
「それより、すげぇ騒ぎになったな」
「あんなにやさしくて強い方の後継者なんて恐れ多いです」
「そうだな。本来なら英雄様が総取りの手柄を分けてくれてるからな。ここまで被害が抑えられたのは俺たち冒険者のおかげってアピールしてくれた。おかげでただ逃げ回った俺にまでポイントが入ってきてる」
ハームレスたちは長方形の鏡を取り出す。教会が支給している個人管理端末ドミネイター。ドミネイターにはあらゆる情報が映し出され、ポイントの管理もできる。巨漢の冒険者は指でドミネイターを操作してポイントを確認する。
「このポイントは市民の感謝だ。俺がもらうべきじゃねぇ」
この世界にとってやさしさこそが正義であり、力であり、貨幣である。
人助けなど、人に感謝されると二種類のポイントが入る。
貨幣としてのポイントとステータス強化のためのポイントだ。
あのまま英雄が何も言わずに行ってしまったら、ポイントは英雄の総取りだっただろう。しかし、他の冒険者やハームレスの功績をアピールすることにより、分配した。
「真面目過ぎますよ。魔物の迎撃はしてましたし、英雄様に魔物のこと報告してくれましたよね?」
だからこそ、あれだけ早く英雄が到着できたのだ。
いち早く応援を読んでくれていなければ、ハームレスは死んでいただろう。
「やっぱりお前はやさしいな! さすが英雄様の後継者!」
「さすがに怒りますよ!」
「そうカリカリすんなって。今日は飯奢るからさぁ」
「え? なんでですか?」
「今日、俺がもらったポイントは間違いなく、坊主の手柄だ。だから遠慮なく奢られろ!」
「一緒に飲みにはいきますけど、奢りはなしです」
「つべこべ言わずに行くぞ! 先輩の言うことは聞けよ! 命令違反で協会に通報するぞ!」
「そんな滅茶苦茶なぁ」
気のいい笑い声と共に、大変だった一日が終わる。
思い返せば、この日が始まりだったのかもしれない。
ハームレスが今までの冒険者人生で積み上げてきたものすべてを代償に、真の英雄となる道を歩み始めたのは。
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