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「お、おおぉぉぉぉ! ワッツが来てくれたぞぉぉぉ!」
ワッツを知っている者たちの歓声が響く。特に実力を目にしている『探求者』たちの表情は一気に緩んでいる。それだけ信頼されているということだ。
「みんなっ、ここは俺が引き受けるから、住民の避難誘導と消火を優先してくれ!」
「い、いいのかワッツ! 相手はとんでもねえんだぞ!」
「そうだぞ、いくらお前一人でも!」
「俺らだってまだ戦えるはずだ!」
ワッツの提案に対し、身を案じてくれる言葉を投げかけてくる。それはそれで嬉しいが、彼らはすでに戦闘で大なり小なり怪我を負っている。無理もない、相手が相手だ。掠っただけでも大ダメージになってしまう。
これでは満足に動けないだろうし、彼らには悪いが、ルーシアならともかく、一緒に戦うほど連携力も期待できない。それに、重傷者を巻き込まないようにここから運んでほしいというのもある。
「これから全力で戦う! 巻き込みたくねえんだ! だから下がっててくれ!」
そう言うと、彼らは少し躊躇する様子を見せるものの、素直にその場から引いてくれた。
その直後、ワッツの頭上から金棒が落下してくる。
しかし、それを盾状に形態変化させた《霊波翼》で受け止めた。
「慌てるなよ、ちゃんと相手してやるからさ」
二枚の羽を追加し、メガフロッグを寸断したような形にし、金棒を持っている腕に向かって羽を動かす。このまま攻撃手段を奪うつもりだったが――。
Bランクのモンスターを豆腐のように断絶した刃だったのだが、グランオーガの肉体を切断できなかったのだ。
(筋肉で受け止められたみてえだな)
無傷というわけではないが、分厚い腕の筋肉が思った以上に強度があったようで、裂傷程度で終わってしまった。しかも自己回復も備わっていて、放っておけばすぐに完治してしまう。
(さすがはAランクってとこか。ならこれでどうだ!)
今度は腕ではなく、グランオーガが持つ金棒をターゲットにした。こちらは半ばくらいまで斬ることができたので、何度も同じところを羽を行き来させて、見事真っ二つにすることができたのである。
これで相手の武器とリーチを奪うことができた。ただ、これだけで攻略できるほどAランクは甘くない。
その証拠に、グランオーガが怒りのボルテージを上げ、身体を細かく震わせ始めた。その高速振動によって、次第にグランオーガの身体が発熱していきマグマのように色づいてくる。
同時に周囲の大気の気温が上昇し、グランオーガの肌に触れている地面や建物の瓦礫などが融解していた。
(これがコイツの特技――《
響きが良い名前で、前世でも好きな特性であった。実はこれ、モンスターだけの技ではなく、れっきとした《霊操技》でもある。
身体を震わせることで生まれる熱を、霊気で増幅させるのだ。攻撃にも防御にも活用することができる汎用性の高い技である。
そのためコイツの傍にいるだけで、熱により徐々に体力が削られる仕様だった。しかも素手で触れたら大ダメージを受け、熱耐性の無い武器で攻撃しようものなら、数撃で壊れてしまう厄介さ。
「ギガァァァァッ!」
ワッツに向かって手を伸ばし掴もうとしてくる。触れられると困るので、ワッツはその場から跳躍して回避した。
だが、そこを狙っていたかのように、もう片方の拳でハンマーのように叩き潰そうとしてくる。
咄嗟に《霊波翼》でガードするが、そのまま勢いに押されて、地面に激突してしまう。
(やっぱコイツ……力は強えや)
盾になっている羽は溶けることはないが、その周囲の地面が触れてもいないのに熱されている。背中にしている地面もまた同様で、まるで鉄板焼きにされている気分を味わう。
ワッツをそのまま叩き潰すつもりで、何度も何度も拳を振り下ろしてくる。
その衝撃で大地は砕かれ、そこから周囲へと亀裂が伸びていく。
(ったく、鬱陶しい!)
拳が上がった瞬間を狙い、その場から起き上がって退避する。
ダメージ皆無でケロッとしているワッツを見て、益々機嫌を悪くして顔を歪ませるグランオーガ。やはり真正面から力押しで勝てる相手ではない。
一般的な攻略法としては、遠距離から弱点属性攻撃を繰り返すことで、相手をダウンさせることができ、一時的に《火纏身骨》を停止させられる。同時に防御力がガクッと下がるので、その間に攻撃を畳み込むのだ。
逆にいえば弱点をつかなければ、どんな攻撃を繰り出してもほぼ無敵ということ。
(とまあ、普通ならそう考えるけど……)
ワッツは二枚の羽を操作し、グランオーガが口を大きく開けた瞬間を狙い、その中へ羽を飛び込ませた。
すると、突然グランオーガが苦悶の表情を浮かべて身じろぎしだす。
「っ……!? ギィッ……ガッ……ゥグォッ……ギグガハアァァァッ!?」
大量の血液を口から吐き出し、立っていられなくなったのか、両膝をつきつつ身体を毟るような動きまで行う。
(ゲームじゃ、こんな攻撃はできなかったけど、やっぱ身体の中は普通みてえだな)
体表面を覆う鋼の皮膚。それは文字通り最強の鎧となって身を守っているが、体内は普通の生物と同様で鍛えられていない。そう判断して、羽を体内に侵入させ内臓を傷つけているのだ。
今頃奴の体内はズタズタで、たとえ高い自己回復能力があっても追いつかないはず。その証拠に、《火纏身骨》も解除されており、次第にぐったりとしてきた。
ワッツは、今もなお苦しみに喘いでいるグランオーガの真上へ跳躍する。
体内で暴れ回っていた羽を回収し、天に掲げた右手の先に再度顕現させた。
さらに二枚だけでなく、全部で五枚。
それらの先端だけを付き合わせて、ドリルのような形を作る。そのまま凄まじい音が鳴り響くように高速回転させていく。
「……お前の無念は俺が晴らしてやるから、もう楽に逝け」
掲げていた手を、サッとグランオーガに向けて振り下ろすと、ドリル状になった《霊波翼》が直下していく。
ワッツが放った攻撃は、弱り切ったグランオーガが防げるようなものではなく、その胸を大きく貫いた。
「ンゥギガワァァァァァァアアアアアアアアッ!?」
耳が痛くなるほどの断末魔の叫びを上げ、その直後に大地に倒れ絶命した。
その光景を遠くで見ていた者たちは、街を脅かす脅威が去ったということで、盛大に歓喜したのである。
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