21

(へぇ、思った以上にデカイし、枝も多いな。それに俺と違って、やっぱり蒼い)


 原作では、彼女が《霊樹》を生み出しているシーンは描かれていなかった。だから少しだけ感動している。


「フフン、見なさい! 美しい《霊樹》でしょ!」

「わぁ、さすがです、お嬢様ぁ!」


 パチパチと笑顔で拍手するメリルに、気分良くした様子のクミルは、益々鼻が高くなっていく。


「ほほう、すげえじゃねえか、クミル。〝霊象神経〟が十七本もあるぜ! 貴族の中でも優秀な部類に入るなこりゃ!」


 ルーシアの言う通り、貴族の平均が十本程度なので、クミルは優秀だと言えよう。さすがは腐っても原作ヒロインの肩書を持つ存在だ。


「そうでしょう、そうでしょう! もっと褒めてもいいのよ! ほら、ワッツも!」


 まあ確かに凄いことは凄いが、調子に乗らせるのも嫌なので、早く次の段階に移る。


「クミル様、潜在霊気量を100としたら、行使霊気量は現在どれくらい使えます?」

「え?」

「え?」


 クミルがポカンとしたので、反射的にワッツも同じような表情になってしまう。


「もしかして潜在霊気量や行使霊気量が分からないんですか?」

「な、何よそれ? それって知らないとダメなの?」


 不安気に目を大きくさせて聞いてくる。このまま放置すれば、また泣きそうだ。


「あー別に問題ありませんよ。知らないなら、これから知ればいいだけですから。でも……ルーシアさん、貴族……というか世間一般の『霊道士』は、霊気についての知識不足が酷いの?」

「うーん、さっきも言ったように、普通は学園で教えてもらうことだしな。けど学園を出てない奴や、野良で『霊道士』として活動してる連中は、独学だったりして生兵法が多いぜ。実際にそのせいで実力を発揮できてねえ連中もいるしよ」


 そういう連中は、先輩に教えてもらったりして知識を深めていくとのこと。

 原作でも、主人公が霊気に目覚めたのは十五歳。彼もまた、霊気に関しての詳しい知識は、確かに学園で学んでいた。


 だから、クミルが未熟なのは別に珍しいことではないのだ。何せ、これから学ぶべきことなのだから。


(まあ、俺はたまたま原作知識っていうチートがあっただけだしな)


 だからこそ、僅か六歳で霊気に目覚め、すでに『霊道士』歴が八年にも及んでいる。知識でいえば、専門の学者よりも上という自負さえある。


「まず潜在霊気量とは、自身の中に存在するすべての霊気の量のことです」

「すべての?」

「はい。そして行使霊気量とは、現在実際に使用できる霊気の量。クミル様、《霊樹》の数が十七本ありますよね?」

「あ、うん、あるけど……」

「この《霊樹》の枝の数で、その人物の霊気量が決まる。つまり枝の数が多ければ多いほど、必然的に潜在霊気量が多いということになります」

「ア、アタシは多い方なの?」

「そうですね、平均よりは確実に多いですよ」


 褒められたとでも思ったのか、嬉しそうに口角を緩めるクミル。


「ですが、いくら潜在霊気量が多いといっても、行使霊気量が少ないと意味がありません」

「ど、どういうことよ!」

「クミル様、霊気を身体から溢れさせてください」

「え? わ、分かったわ」


 すると、クミルが持つ《霊樹》の枝は二本しか光らない。


「これを見て分かる通り、枝は二本しか光っていません。つまり、枝に宿る霊気量を二本分しか使えないということです」

「二本分しか使えないって……何で? アタシの中には、十七本分の霊気があるんでしょ! それなのに何で使えないのよ!」


 そう言いたい気持ちは分かる。ワッツだって、初めて見た時はショックだったから。


「クミル、吠えたってどうしようもねえよ」

「で、でもルーシア!」

「いいか、ちょうどいいから洗面器の水に例えて話すぜ」


 だから、とクミルに《霊樹》を解除させて、元の水にし洗面器に戻させた。

 皆が洗面器に注視し、その中でルーシアが語り始める。


「この洗面器に入っている水すべてが、クミルの潜在霊気量だとする。んで、このカップが今のクミルの行使霊気量だ。技や術を発動するには、このカップで水を掬う必要がある」


 そう言いながら、メリルが用意していたカップで水を掬った。


「こんだけしか今のクミルは使えないってわけだ。何か嫌な気分だよな。自分の中には、こんだけの水がまだあるってのによ」

「そうよ! まったくもってその通りよ! もったいないわ!」

「そう、もったいねえ。じゃあ全部使うにはどうすりゃいい?」

「え? つ、使えるの?」

「もちろんだぜ。だってお前さんのエネルギーで、お前さんだけが使えるもんなんだしよ」

「ど、どうすればいいの!?」

「簡単だ。このカップを大きくすりゃあいい」

「え……大きく?」


 そこからはお前の仕事だと言わんばかりに、ルーシアがワッツを一瞥した。そこまで言ったなら、最後まで授業をしてやればいいのにと思うが。


「このカップは、いうなればクミル様の今のレベルです」

「レベル……」

「そう、強さと言い換えた方が分かりやすいならそれでもいいですよ。だったらどうすればいいか自ずと分かってくるんじゃないですか?」

「レベルを上げて……強くなる?」

「はい。つまりクミル様が成長することで、カップも大きくなり、この洗面器と同じ容量のカップにすることだってできます」

「そうすれば、今は二本分しか使えなくても、いずれは十七本分、すべての霊気が扱えるようになるってことですか?」


 そう尋ねてきたのはメリルだった。そんな彼女に対し、ワッツはコクンと首肯する。


「もし、十七本分全部を扱えるようになったら、きっと『霊道士』としても高みにいけるでしょうね」

「た、高み……! ど、どどどどうすればレベルを上げられるの!?」


 いつも以上にやる気に満ち満ちた表情で、クミルが迫ってきた。


「そのために基礎が必要なんです。さっきも言いましたが、霊気は肉体と精神のエネルギーの結晶物。まずは認識し、イメージするんです。そうすることで、霊気操作をスムーズに行うことができるようになります。霊気の扱い方を学ぶことができれば、自ずと行使霊気量も増えていくんですよ」

「わ、分かったわ! すぐにやるから見てて!」


 居住まいを正したクミルは、さっそく霊気操作をし始めた。


(こういう素直なところは好感持てるんだけどな)


 余計な部分が多いせいか、好感部分が色褪せてしまうのが難点だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る