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【
クエストには、モンスターランクと同じ位置付けがされていて、上位ランクほど報酬も高いがリスクも比例する。
クエストを達成していくことで、ランクを上げることもでき、より難度の高いランクを受注することが可能となる。
また、モンスターの素材やアイテムなどを売買しており、ワッツが討伐したジャイアントマンティスの素材も、ここで売却して換金するのだ。
【ギルド】は大小様々な形で、各国や街などに設置されていて、『探求者』にとってはありがたい組織である。
ワッツはロジンたちと一緒に、受付で登録すると発行してもらえる《探索者カード》を提示し、ジャイアントマンティスの素材を買い取ってもらった。
受付嬢は、Cランクのモンスター討伐が異常な早さで達成されたことに驚いているが、あまり時間をかけたくないので、サクッと換金を済ませてもらい、ワッツはロジンに断って、先に家に帰ると言って外へ出た。
だが、そこへ――。
「――見つけたわよ、ワッツ!」
背後から聞き覚えのある声が轟き、無意識に溜息が零れ出る。
(あーあ、見つかっちまった)
見つかりたくないからこそ、早く家に閉じこもっておきたかった。残念ながら、ワッツの思惑はものの見事に砕け散ってしまったが。
ワッツは諦めて振り返る。
そこには――丁寧に手入れされた金髪カールが特徴の少女が立っていた。
「もう! クエスト行くならアタシを誘いなさいって何度も言ってるじゃない!」
ビシッと、ワッツを指差して怒鳴ってきた。公衆の面前だというのに恥ずかしくないのだろうか。
(いや、いっつもコイツはこんな感じだしな……)
羞恥心が無いというよりは、一つのことに夢中になると、他のことが考えられないだけ。言うなれば猪突猛進。巻き込まれる側としては非常に迷惑となる。
「あのですね、クミル様……前にも言いましたけど、あなた様は『探求者』じゃありませんよね?」
「だから何よ?」
「いや、だからって……」
幾度も説明しているはずなのだが、何故か都合の悪いことは、すぐに忘れるという傍迷惑は能力を持っている。
そんな彼女の名は――クミル・オル・ベアーズ・クロンディア。もうお分かりかもしれないが、領主であるアロムの一人娘である。
ちなみに、ロジンが〝お嬢さん〟と言っていた人物だ。
あのイケメンの血を引いているからか、ルックスは素晴らしいもので、胸も平均以上で男の目を惹く美少女ではあるが、いかんせん難解な性格の持ち主なので、ワッツとしては距離を置きたい人物だった。それに、だ。
(こう見えても、原作ヒロインの一人だしな)
しかもかなりのチョロイン枠。主人公と出会い、少し優しくされて即落ちする。性格的にツンデレっぽいが、惚れたらデレしか見せない。そんなデレ甘なクミルが良いというプレイヤーもいたが、前世の自分からしたら惚れっぽい女性というのは好きではないのだ。
「とにかく、領主様のお許しが出ない以上は、勝手にあなたをクエストで外に連れ出したりはできないんですよ」
足手纏いでもあるし、とは言えないが。
「お父様は関係ないじゃない! アタシの人生はアタシのものなんだから!」
「それを言えるのは、独り立ちできるようになってからでしょう。いまだ親の庇護下にあり、何不自由なく生活している立場でありながら、身勝手に危険なことをしたいなんてワガママはどうかと思いますよ?」
だからさっさと諦めてくれと願う……が。
「むぅぅぅ! いつもい~っつも、ワッツは意地悪だわ!」
「えぇ……」
「何でアタシの味方をしてくれないのよ! 幼馴染じゃない!」
そう言われても、こちとら幼馴染とは思っていない。何せ、十歳からの知り合いだ。それは幼馴染と言えるのだろうか。言えるとしても、できればもっと愛らしい萌えるような妹キャラが良かった。しかも誕生日的には上になるし。
「それに! 敬語で話さなくていいって言ってるでしょ!」
「そういうわけにもいきませんよ。あなた様はこの街の領主様のご息女なのですから」
というより、原作に積極的に関わりたくないので、あまり気軽に話しかけるような関係にはなりたくない。
「どうしてよ! このアタシが仲良くしてあげるって言ってるのに、どうしてアンタはいつも距離を取るのよ!」
それはお前がワガママで、面倒事を引き寄せるタイプの人間だから……とは言えない。
ただ、あまり正論を言い過ぎても後が面倒なのだ。
何せここは天下の往来。涙目で睨みつけてくる少女と、ぶっきらぼうの少年では、やはりこちらの方が不況を買ったりする。ただ、こういう光景も一回や二回ではないので、ご近所さんたちの中には、微笑ましそうに見ている者もいるが。
「……はぁ。分かりましたよ。今度のクエストなら連れて行っても構いません」
「……! ホ、ホント!? ウ、ウソだったら許さないわよ!」
涙目が嘘のように消え、期待に溢れる表情へと変わっている。
「ただし条件があります」
「じょ、条件……って、何よ? も、も、もしかしてエッチなこと、とか?」
「頭の中、バグってんですか?」
「正常よ、失礼ねっ!」
誰が好き好んで地雷を踏むだろうか。確かに好かれればデレ甘になってくれるが、現状他人に対しては高圧的な態度なので、そのせいで不必要な争いに発展したりして、結局面倒臭さが勝つ。
(嫁さんにするなら、もっと温和で家庭的な人がいいしなぁ)
原作ヒロインにも好みのキャラはいるが、できるだけ関わりたくはないのだ。これから起こる世界のアレやコレらは、全部主人公に押し付けるつもりだから。
主人公にとっても、強敵であるワッツがいなくなるので、その分、楽になるはずだ。だからヒロインたちとハーレムでも作りつつ、頑張って世直しでも何でもしてもらいたい。
「条件は、アロム様の承諾を得ること」
「っ……結局それじゃない……」
「俺も一緒に頼みに行ってあげますから」
「!? それホントよね!」
「ええ。でもそこで断られたら諦めてくださいね」
「ちゃんと頼んでくれるのよね?」
「口にしたことは守りますよ」
「…………分かった」
少し疑わしそうに見てきたが、それでもチャンスだと判断したようだ。
(ま、アロムさんならきっと断ってくれるだろうしな)
クミルが可愛いからこそ、危険な『探求者』にしたくないのだ。だから、たとえワッツが頼んでも絶対に頭を縦に振らないはず。
(それできっぱり俺に絡むのは諦めてもらおう。まあ、安心しろクミル。もうすぐ主人公と会えるし、そいつに存分に甘やかしてもらえばいい)
博愛主義者で器も大きい主人公ならば、どんな女性でも対応できるので問題ないだろう。
「じゃ、じゃあさっそくお父様の所に行くわよ!」
「え? 今からですか? 俺……帰ってきたばかりなんですけど……」
「思い立ったが吉日って言うじゃない! アタシのためにもキビキビ動いてもらうわよ!」
こういうとこなんだよなぁ……と思いつつ、ワッツは肩を落としながら、彼女と一緒に領主の館へと向かった。
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