第3話 フェチバレも唐突に
「こういうのとか。ハーフフレームだからすっきりしてるし、宮野君って少し童顔だからこのくらいシンプルな方が大人っぽくなっていいと思うわよ」
終業後、私と宮野君は彼が通っているという眼鏡ショップに来ていた。
いくつかのコーナーになっている店内で、ビジネスマン向けのスタイリッシュなデザインのものが集められた中から一つを彼に勧めてみる。
少しインテリっぽくはあるけれど、宮野君の顔立ちなら中和されて丁度良くなる筈だ。
「そう!そうなんですよ! 俺って顔がガキっぽいみたいで、昔からよく年齢下に見られるんですよね。そっかー。こういうのにしたらいいのか」
「普段は今まで掛けてた物でもいいと思うけど、職場ではね。シルバーとか、ブラックみたいな渋い色の方がきちんとして見えるし、印象も良くなるわよ」
「へ~。眼鏡一つでも大分違うんですね」
私の眼鏡蘊蓄を嫌な顔一つせず聞いている宮野君は、何やら真剣そうに考え込みながらうんうん頷いていた。あんまり語ると引かれるかと思ったけど、こうまで真面目に聞いてくれるとこちらも嬉しい。
調子に乗って、あれもこれも、と勧めてみる。そのうちのいくつかは、正直言って私の好み丸出しだった。だけど、宮野君はそれも「いいですね」と言って手に取っていた。
何度か試着もして(眼福眼福)、やっぱりハーフフレームのタイプがしっくりくるね、という事で再び厳選した二本を掛けてみる事になった。
一つは国内老舗眼鏡ブランドの物で、シンプルで上品なオリジナルフレーム。すっきりしているのに棘が無く、掛ける人の顔に馴染み易そうなのが私好みだ。
そして、もう一つは海外の物で、こちらもテンプルのワンポイントが印象的な綺麗なデザインである。
ブランド等には拘らないと道すがらに聞いたけれど、本人が用意していた予算が思ったより多かった為、しっかりした物を購入しよう、という事になった。私自身、ブランド推奨派というわけでは無いが、どちらにせよ宮野君自身の掛け心地が良く、気に入る物が一番だと思った。
それにしても私……結構責任重大?
と今更ながら気が付いた。
「俺はこっちのが好きだなって思うんですけど……中原さんどうですか?」
鏡の前で、宮野君が私の方に振り向いた。今掛けているのは国内老舗眼鏡ブランドの物で、ダークシルバーの色味といい、デザインといい、シンプルかつ上品。
……うん。やっぱり思った通り私の好みストライク。
「いい、と思う。すごく」
ただ感想を聞かれただけなのに、好みど真ん中な宮野君の眼鏡姿に若干戸惑う。
そのおかげか返事が微妙に片言になってしまった。
いや、だってね。すごく似合ってるのよ。いつもよりちょっと大人っぽくなって。なんて言うかこう、色気が出た?みたいなね。
「中原さんって……本当、好きなんですね」
「へ?」
唐突に、そんな事を言われて目が点になった。
見れば今の今まで神妙な顔をしていた宮野君が、ニコニコと嬉しそうに笑って私を見ている。
「眼鏡。好きなんですよね?フェチって言うのかな? 俺が眼鏡してる時ってよく目が合いますし、眼鏡を掛けてる他の社員の事も、よく見てる事ありますよね。俺、気づいてました」
「えっ……あ、はい……」
ばれてた。
ば・れ・て・たっ!!!
気づかれていた事に、ぐわわっと肌の熱が上がった気がした。的確に指摘され、否定も出来ずに素直に頷いてしまう。
うわ。恥ずかしい。
私そんなに見てた?自分としては気づかれないようにチラ見してたつもりだったんだけど……。
宮野君が気づいたという事は、他にも気づいている人がいるんだろうか。いてもおかしくない。が、ばれてないと思いたい。
羞恥で固まっている私に、くすくすと小さな笑い声が聞こえた。もちろん犯人は宮野君である。
「やっぱり」
宮野君はそう言うと、なんだか嬉しそうな顔をしていた。
別に隠していたわけじゃないけど、面と向かって言われると恥ずかしい。習性なのか癖なのか、眼鏡をかけている人を見るとつい目で追ってしまうのだ。
でも、これからはもう少し控えよう。うん。絶対控えよう。
そう私は心に決めた。
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