一章 知らない道

◇1話 記憶

 何度も戦った同じ場面。

 だからこそ、俺が今、取るべき選択肢が何かはよく分かっている。俺の手札にあるのは固有スキルである武器創造を含め、魔法系統である水魔法と空間魔法の計三つ。ここで最善手なのは今発動させた武器創造だ。


 頭の中でイメージした武器を作り出せる……ただそれだけのスキルだが、この能力の真骨頂はそこでは無い。端的に言って作り出した武器の切れ味が最高級であり、それでいて魔力が続く限りは無制限に作り出す事ができるんだ。もっと言えば……。


「死ね」

「ブフッ……!」


 魔力を通しさえすれば持たずとも扱う事ができるという最大の特徴がある。まぁ、元々は俺の魔力から作られているのだから自由に動かせる程度の能力があっても不思議では無い。……ただ、どれだけ練習しても二つが限界だったけど。


 首を切り落とした豚の遺体に触れて回収を済ませておく。ここら辺は空間魔法の技の一つ、異次元倉庫というものの影響だ。無制限……とまでは行かずとも空間魔法のレベル×一トンまで物を仕舞える別次元の空間を作れる魔法らしい。


 ……と、それは今はどうでもいいか。




「仁」

「な、なんだ」

「さっさと日菜子のところに行ってやれ。学校の中はまだコイツくらいしか化け物はいないけど、時期に多くの化け物が中に入ってくる。守ってやれるのはお前だけだろ」


 適当に作り出した刀を一つだけ投げておいた。

 強い……かは分からないが得物も無しだと戦闘も難しいだろう。それに仁は剣道を習っていたからな。そこら辺で刀との相性は悪くないはずだ。


「葵翔はどうするんだよ……?」

「悪いけど雑談をしている暇は無いからな。化け物をたくさん狩って戦闘経験を積むつもりだ」


 未だに記憶が流れ込むせいで纏まりきっていないが……一つだけ自信を持って言える事がある。それはどのような道を選んでも俺は三日後に死んでしまうという事だ。


 時には同じ人間に、時には強大な化け物に、時には日本人とは違った人族に殺された。まるで死の運命が俺にまとわりついているかのように、確実に三日後には死ぬという結末だけが待っている。


 では、どうして俺はその記憶があるのか。

 初期の頃から俺は二つのスキルと一つの魔法を持っていた。一つ目に武器創造、二つ目に空間魔法、そして最後に「輪廻」という固有スキル。俺が記憶を持って何度も死に戻りを繰り返せているのは輪廻のおかげだ。


 ただし、記憶が戻るタイミングは化け物が現れる少し前と決まっているし、能力が発動するタイミングは俺が死んだ時にしか怒らなかった。死んだから何かが起こるわけでも無い事を踏まえれば強いスキルとは言えないだろうな。


「じゃあな、今度こそ生きて会おうや」

「なんだよ……そんな死ぬみたいな言い方……」

「その心持ちが必要なんだよ。ただ、それだけだ」


 手をヒラヒラと振って教室を後にする。

 今まで色んな選択肢を通ってきたが……どれも上手くいかなかったからな。今回はどのような選択肢を見い出せるかだけを考えていく時間にしたいと思っている。……モラトリアムみたいなものだ。


 最初は……やはり、食料の確保か。

 近くのスーパーで物を漁るとしよう。それでいて食料の匂いに釣られた化け物共を一網打尽にして経験値に……一応、ステータスなるものも獲得しているはずだから化け物を倒してレベル上げをするのも悪くは無い。ってか、しておかないと確実に生き残れないな。


 幾ら捨ての三日間とはいえ、何もしないで死ぬつもりは微塵も無い。今は『輪廻』『武器創造』『火魔法』『水魔法』『空間魔法』を持っていると思うけど火魔法と水魔法は他の期間で練習して手に入れたものだしな。


 本当は剣術とかも手に入れていたんだけど……そっちは持ち越しができなかった。何かしらの条件があるのだろうけど手に入れる方法を知っている分だけマシなのだろう。と……。


「外は化け物だらけ、か」


 いや、魔物と言う方が正しいのかもな。

 俺が好んで読んでいたファンタジー小説に出てきていたゴブリンやオークの特徴そのままの化け物ばっかりなんだ。それなら馴染みのある魔物の方が呼びやすいような……って、そこら辺も考えている暇は無いな。


 一先ず、ゴブリンやオークは片っ端から殺していって経験値にしよう。それ以外は悪いけどパスだな。ゴブリンと上位種であるゴブリンリーダーのステータスの差は大きいし、オーガとかになってくるとより酷くなる。それ以外の魔物だと搦手とかもあるから今は逃げておいた方がいい。


「噂をすれば何とやらだな」

「ギィギィィ!」

「……計五匹、アレか。やっぱり、ゴブリンは群れていないと生きていけないのか」


 何回死んで生き返っても、どの世界でも目の前にいる醜くて臭い小鬼共は五匹以上で群れを作っていた。まぁ、個々が弱い分だけ群れていないと生き残れないのは分かるが……そうだな……。


「せめて、勝てる相手にしておけよ」


 浮かせた日本の剣による斬撃……一応、厨二病臭いけど浮遊剣と名付けた攻撃は、今の俺の筋力とかに依存しない分だけ素早く振り切る事ができるからな。そこら辺で多少はステータスで負けていても勝つ事ができる……が、魔力消費が少し多いから多用はできないか。


「ゴブリンは……パス。食っても不味いし」


 一度、本当に食糧難になって食った事があった。その時は死の運命から逃げるために仲間を多く募っていたからな。ソイツらに分けているうちに食料が無くなって食ったっけ。……まぁ、最終的には裏切られたから俺が生き残れた世界線では苦しんで死んで欲しいけどな。


 それで、その時に食った感想だけど……人が食えたものでは無いというのが最初に感じたものだった。言葉で表すのも難しいような……そう、すごく分かりやすく言えば喉を通そうとした瞬間に胃が抵抗して吐こうとするんだ。吐いた後も舌に吐き気を催す味や臭いが十分は残るしで……。


「ただし、経験値は美味いっと」




 ____________________

 名前 カタセ アオト

 種族 異世界人LV3

 年齢 17歳

 職業 学生LV3

 HP 585/585 MP 980/1255

 固有スキル

【輪廻】【武器創造】

 スキル

 魔法

【火LV1】【水LV1】【空間LV1】

 ______________________




 オークとゴブリン五匹だけでレベルが三だ。

 初期だから上がりやすいっていうのもあるかもしれないが、こちらとしては確実に三日で死ぬ命。少しでもレベルが上がりやすくて困る事は無い。


 ただなぁ……何度、輪廻を繰り返してもスキルの説明とかは見れないんだよな。ここら辺に関しては不便というか、これのせいで武器創造の扱い方も分からなかったからどうにかして欲しかった。


 とはいえ、恨む相手も願う相手もいない。




「……さてと、早くスーパーに向かおう」


 俺のような人間がいる事は前世で見ている。

 だから……早めに行って先手を打つのが吉だ。お生憎とチンピラ相手であろうと今なら俺の方が強い自信があるからな。仮に負けて死んだら他のルートで進めばいい。

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