リンカーネーションに終焉を

張田ハリル@伏線を撒きたいだけのオッサン

◇序章 輪廻

 ───ああ、また失敗した───






「グルゥガァァァ!」

「はは……何回も聞いた叫び声だな……」


 ───どうせ、また戻るんだ───




 ───次は、次こそは───






 ───絶対に生き残る───











 ◇◇◇











 この世界は平凡で狂っているといつも思う。

 この窓の外の先に広がる美しく青い空、それがどうしてこうも美しく感じられるかは俺達が暮らしている世界が醜く汚いものだからだろう。だから、多くの詩人や文化人は美しい空を題材にして話を描き、そして自分の色で汚していく。


 何ともゴミみたいな最悪な世界だよ。

 ただただ黒板に書き連ねただけの文章、それを板書させては消していくだけの言わば作業でしか無い行為。こんなものにどれだけの価値があるって言うんだ。もしも、俺が教師の立場なら確実にこんな眠気を誘うだけの授業はしていない。


「​───と、時間が経つのは早いな。それじゃあ、日直、終わりの挨拶をしてくれ」

「起立、気を付け、礼。ありがとうございましたー」


 何とも軍隊のようなやり方だ事。

 どうせこれも一種の洗脳教育のようなもの。価値のあるものに対して感謝をするのは当然だけど、どうして無意味なものに対しても感謝をしてやらないといけないんだ。こういうものは任意制にして欲しいものだよ。


葵翔あおと、お前よく寝ないでいられるな」

「寝たらつまらなさ過ぎて永眠しそうだからだよ。意外と他の事を考えていたら眠気なんて覚めるし」

「お、それは隣のマドンナちゃんの事ですかな。どれどれ、親友である拙者にも詳しく教えて」

じん……親友は兎も角としてあの子に好意の欠片も持っていないよ。それだけは訂正して謝って、いや、土下座という形で誠意を表してもらいたいね」


 授業終わりに席まで迫ってくる一人の男。

 親友……は言い過ぎかもしれないけど、この高校で唯一の友人とも言っていい存在だ。名前は卜部仁とかいう誰彼構わず話しかける五月蝿さが特徴的な男。静かにしていれば体育会系の爽やかイケメンって感じでモテそうなのに……いや、彼女が居るコイツにはどうでもいい話か。


「んな事より飯食おうぜ」

「んな事って……まぁ、いいよ」


 誰が始めた争いだと……待て待て、これで乗ってしまえば仁の思うツボだ。コイツはあくまでもマイペースを地で行くような男、そんな奴に構っていたら俺の精神が削られていくだけだからな。二人で遊ぶ時にでも土下座させれば良い。


「それで……アイツって何を教えていたんだ」

「第一次世界大戦前の話……ってか、それくらいは流していても分かるだろ。……お前、まさか……」

「おう、後でノート見せてくれ!」


 なるほど……寝ていて板書していない、と。

 そんな清々しい顔で言われても俺が困るんだけどな。というか、普通にライ○とかを送ってきていた癖に寝ていられるとか……どのタイミングで就寝していたんだよ。数秒間の睡眠を繰り返しているとかならペンギンか何かか。いや、ペンギンのような可愛さはコイツにねぇ。


「マッ○のグラコ○セットを一つ奢れ」

「セットだと……それはボリ過ぎ(※)だな。せめて、グラコ○単体だ」

「セット、それもポテトとジュースのセットで俺の美しいノートを見せてやろう」

「くっ……確かに他の奴のノートは字が汚ぇ。ここは飲むしか……無いのか……ッ!」


 これに懲りて二度と同じ過ちはしないようにするんだな。今までの優しい俺はもういない。今度からは見返りを求めていく……いや、リア充から金を毟り取っていく亡者となってやろう。


「……話は変わるけど豪華な弁当だな」

「ああ、ヒナに渡されたんだよ。お前はパンと牛乳しか食わないから作ってやったって」

「惚気ご苦労さん。吐き気がしたわ」

「喜んでくれたようで俺も嬉しいぜ」


 ヒナ、佐藤日菜子……まぁ、呼び方で分かる通り仁の彼女さんだ。元々、交流があった分だけ生真面目で通っていた日菜子と不真面目で有名な仁がくっ付いて驚いたが……そこら辺は当人の問題だよな。


「狙っていても渡さねぇぞ。弁当もヒナも」

「要らねぇよ。あんなガリ勉女のどこがいいんだか」

「でも、羨ましいだろ」


 それに関しては否定する気も無い。

 やはり、いち青い春を送る高校二年生の男子からすれば甘酸っぱさは多少、欲しくは思う。だが、どうだろうか。この世界にいる女共はやれKーPOPだ、やれ先輩がどうだとか、やれインターネッツがどうとか……そういう俺とは確実に話の合わない女しかいない。


 せめて、秋アニメの五話程度までは話せるような存在で無ければ……いや、そんなオタクに優しいギャル、もとい女の子なんていないんだ。いるのは運動部に媚びるだけの女子だけ。


「お前も作ろうと思ったらできそうだけどな」

「何がだ」

「普通にお前の連絡先を教えてくれって言われるぞ。それに対してルーズな対応をしているのはお前だろ」

「好きでも無い女に気を遣いたくない、以上」


 だってさ、開口一番に「好きな人とかいますか」とか聞いてくる女に興味を持てるか。話題を作りたいのならもう少しやり方というものがあるだろうに。そういう雑なところが好めないんだよ。それに大概の女は……はぁ、そこは別にいいか。


「はぁ……本当にお前という奴は……」

「いいんだよ、俺はずっと独り身を謳歌するから」

「そういう事じゃ……って、俺は何を心配しているんだ。まさか、俺は葵翔の事を……!?」

「冗談でもやめろ」


 さすがに男に欲情する性癖は無い。

 と、話し過ぎてパンの一口も食えていなかった。さっさと食事を済ませて仁から離れ……アレ、何だろう。


 美しい青い空に流れる一つの星。

 ……いや、違う! アレは! アレは!




「仁! 早く逃げるぞ! ここは!」


 分かっている、叫ぶには遅いって。

 いつもこうだ、思い出すのは本当にギリギリ。だから、俺は何も上手くいかずに進んでしまう。来てしまう、アイツが……あの魔物達が俺達の元へと走って……!


「ブルゥァァァ!」


 扉を蹴破ってきたのは二足歩行の豚。

 そうだ……俺は何百回と戦ってきた。この時、この場面で何回も戦って勝ち続けて……そして、最後は死ぬ。いや、そんな悲観的な考えは後回しだな。今は戦える俺がコイツを処理した方がいい。


「武器創造ッ!」


 さっさと倒して早く進むんだ。






 このリンカーネーションを終わらせるために───




_______________________

(※)ボリ過ぎ→ボッタクリ過ぎという意味


間違えて下書きに戻してしまったので再投稿しております。


この作品の一部設定の中に人によっては大きく嫌悪感を抱くようなものが存在します。もし、苦手に感じた場合は読むのをやめて頂けると助かります。また、この作品は一部の主義主張を擁護するための物語でもございません。あくまでも創作物の設定という前提のもとでお楽しみください。

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