第二十二話 角と強奪
レオンと死闘を繰り広げていたレイは、ガーネットが俺を捕まえて逃げようとするのを見て、急いでその行く手を阻んだ。しかし、ガーネットは獣のように鋭い目でレイを睨みつけ、口から灼熱の溶岩を吐き出した。
「邪魔をするな! このガキを殺すぞ!」
「くっ……!」
その時、ガーネットは触手で俺の体を拘束したまま、建物の壁を突き破って外に飛び出した。瓦礫やガラスの雨が降る中、俺は歯を食いしばって必死に頭を押さえた。
「くそっ! どこに連れて行くつもりだ!」
耳をつんざく風の音の中で叫んだが、ガーネットは答える様子もなく、まるで獲物を抱えた野獣のように空を駆け抜けていった。宙に浮いた感覚と、重力に引かれるような恐怖が腹の底を揺らし、息をするのも苦しかった。
俺は荒々しく動き続けるガーネットの角を掴み、どうにか背中にしがみついた。それでも触手は俺の腹から外れず、ガーネットも走る速度を速めていく。
「うわぁ! デストロイヤーだ!」
「逃げろ逃げろ!」
ガーネットの巨体が街を駆け抜けるたびに、建物の壁や地面が粉々に砕け散った。人々の悲鳴が周囲に響き渡り、逃げ惑う群衆の中で瓦礫が容赦なく降り注いでいく。
「やめろ……! これ以上巻き込むな!」
俺はガーネットの背中に乗ると、角を引っ張って動きを止めようとした。その時、俺はガーネットの右目に赤い宝石を見つけた。
「ネオクリスタル……!」
アクアマリンも持っていたネオクリスタルが装着されているのを見つけた。俺はガーネットの右目を掴んだが、ガーネットは驚いて首を振り回し始めた。
「やめろ! このっ!」
俺は触手に体を引っ張られるが、角を両手で掴んで必死に堪えた。宙吊りになりながらもガーネットの顔面を蹴り続け、遂にガーネットは進行方向を変えた。
その瞬間、目の前に路面電車の姿が現れた。突如迫るその光景に、俺は息を呑んだ。
「危ない!!」
「!?」
ガーネットは咄嗟に避けようとするが、路面電車と正面衝突を起こし、デストロイクリスタルを大量に吐き出して吹っ飛ばされる。触手から解放された俺も宙に飛ばされ、ガーネットとともに少年達が遊んでいる芝生の上に転がり落ちてしまう。
「うわっ!」
全身に激しい痛みを感じながら、俺は芝生上を転がり、やがて金属フェンスに衝突して動きが収まった。付近でボール遊びをしていた少年達は、驚きながら俺に近付いてきた。
「おいっ、あんた何なんだよ!」
「いや……お前ら、早くここから……!」
その時、一人の少年の体が触手になぎ払われ、大きく吹っ飛ばされてしまう。目の前にはデストロイクリスタルを吐き出しすぎて、かなり体が縮んだガーネットが立っていた。
「ルイ!」
「くそっ、よくも!」
少年達は手に持っていたラケットや木製の棒でガーネットに殴りかかるが、あっという間に体を掴まれて叩きのめされてしまう。俺は慌てて体を起こし、地面に落ちている石を持ち上げてガーネットの角に向かって振り下ろした。
「おらぁ!」
しかし、ガーネットは咄嗟に身を屈めて触手を突き出し、俺は腹を殴られて付近の小屋に突っ込んでしまう。少年達も全員襲われ、ガーネットは雄叫びを上げた。
「まずいぞ……手が付けられない……!」
その時、俺の目の前に見覚えのある建物が目に映った。素朴な見た目をした木製の建物。どう見てもキョウジの建物だった。
「まさか……!」
嫌な予感を感じたその時、建物から慌てて飛び出すキョウジの姿が見えた。騒ぎに気付いて外に飛び出してしまったのだ。
「キョウジさん駄目だ!」
「エクリプス……!」
キョウジを見つけたガーネットは、痛め付けていた少年から手を離してキョウジに向かって歩き出した。俺は少年達が落とした木製の棒を持ってガーネットの背中に飛び付き、後頭部を殴り付けた。
「くそっ、しつこいぞ!」
「キョウジさん! 逃げろ!」
俺は触手を必死に避けながらキョウジに向かって声を上げた。しかし、キョウジは俺の顔を見て、反ってこちらに近付いてきてしまう。
「レヴァン!? 何やってるんだよお前!」
「あんたは狙われているんだよ! 早く逃げろって!」
俺は必死に棒でガーネットの角を殴り続けた。体を振り回されて手から棒が離れても、右手を振り下ろした。遂に角にヒビが入り、俺は咄嗟に角を掴んだ。
「いい加減にしろ!」
その瞬間、ガーネットは背中を振り回して俺から手を離させ、尻尾で体を打ち上げてきた。背中に衝撃が走り、俺は再び地面に転がった。
「なっ……!」
「レヴァン!」
キョウジは俺に近付くが、ガーネットの触手に捕まってしまう。エクリプスであるキョウジの体に触れたガーネットは、キョウジの記憶を読んでしまう。
「……ほう、貴様の願いはこの店か」
「えっ……!?」
ガーネットはキョウジの店に視線を向けた。
「両親の反対を押し切って、数十年かけて築き上げたか……瓦礫に変わる姿を想像するだけで愉快だ」
「待て、やめてくれ……!」
そう言うと、ガーネットは目を赤く光らせ、光線を放つ準備を始めた。
「ガーネット!」
体を起こした俺は、ガーネットに向かって声を上げた。ガーネットは両目を赤く光らせたまま、俺を睨み付けた。
「雑魚は引っ込んでいろ! 貴様はデストロイヤーにするだけなど生ぬるい! 徹底的にぶちのめしてやる!」
俺はガーネットの額を見つめた。ガーネットの二本ある角の一本が折れており、再生していないのを見る限り、ガーネットは折れていることに気付いておらず、逆転の可能性を感じた。
(アクアマリンのネオクリスタルさえ奪い返せれば、再生と触手は使えなくなるはず……!)
俺はガーネットから外した角を腰に差し、息を整えた。しかし、先程レオンから受けた攻撃の傷が痛み、思わず膝を地面に付けた。
「うっ……!」
「エタニティクリスタルも貰うぞ!」
ガーネットが触手を伸ばしたその時、俺の頭上から黒い光が飛んできて、ガーネットの腹に命中した。ガーネットは驚いて足を止めると、ロストフォームの状態のレイが現れた。
「レヴァンさん!」
「また貴様か!」
ガーネットは全身から触手を生やし、レイに向かって放った。レイは建物の壁を蹴って宙に舞い、次々と触手を斬り付けながらガーネットに接近した。しかし、ガーネットは右腕を巨大な鉈に変化させ、大きく振りかぶった。レイは背中を反って避けるが、その衝撃で周囲の建物が大きく切断され、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
ガーネットがレイを標的にしている間に、俺はキョウジのもとに向かった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……それより、レイが……!」
俺はレイの様子を確認した。ガーネットが次々と繰り出す攻撃を避けられていたが、ガーネットの猛攻を前にして、近付くことができなかった。
その時、俺はガーネットの腹が不自然に青く光っているのに気付いた。
「! あれは……!」
「……レヴァン?」
俺はキョウジに背中を向け、ガーネットに向かって体当たりした。デストロイクリスタルを吐き出しすぎたガーネットは非常に軽くなっており、俺はガーネットの体を持ち上げたまま建物の壁に叩き付けた。
「グゥッ!?」
「レヴァンさん!」
「今だレイ! こいつの腹からクリスタルを奪えぇ!」
ガーネットがアクアマリンの能力を使うたびに、腹が青く光って反応を見せていた。アクアマリンクリスタルの位置が判明したなら、後は奪うだけだ。
「こいつ!」
ガーネットは咄嗟に右手を振り上げたが、俺は腰に隠していたガーネットの角を取り出し、ガーネットの右目に思いっきり刺した。
「ギャアアアア!!」
ガーネットの悲鳴が周囲に響き渡った。その隙に、俺はぐらついたガーネットクリスタルを掴み、強引に引っ張るが、その手をガーネットに掴まれ、手首を捻られてしまう。
「ぎっ……あぁ……!」
「舐めるなぁ!」
痛みに声を震わせたその時だった。
「はぁあああ!!」
「!?」
俺達のもとにレイが飛び込み、ガーネットの顔面に向かって膝蹴りを喰らわせた。その衝撃で建物に巨大な亀裂が入り、咄嗟にレイはガーネットの腹に銃を撃ち込み、傷を負わせた。そして、レイはガーネットの腹に躊躇無く手を突っ込み、遂にアクアマリンクリスタルを手に取った。
「よせ!」
ガーネットは肩から触手を生やすが、後方から謎の銃声が響き渡り、触手は破壊されてしまった。後方を向くと、フェリックスが率いた黒い服の男達が銃を向けていた。
「行くぞぉ!!」
「はぁあああ!!」
俺達は声を上げ、最後の力を振り絞ってクリスタルを引っ張り出した。その瞬間、ガーネットの体から赤と青の光が激しく放たれ、俺はガーネットクリスタルを、レイはアクアマリンクリスタルを強奪することに成功した。
「うわっ!?」
「ウガァアアアア!!」
俺とレイは地面に尻餅をつき、ガーネットは全身からデストロイクリスタルを吐き出しながら悶絶した。ガーネットは頭を抱えながら悲鳴を上げ、みるみる体が小さくなっていった。動きも鈍くなり、レイはすぐさま立ち上がってトドメの姿勢に入った。
「ま、マズい……!」
『エクセキューション』
「ブルーホークエッジ……!」
レイは背中を向けて逃げようとするガーネットを捕らえ、ブルーホークエッジを放った。ガーネットは付近の建物ごと盾に切断され、直後に爆発とともに瓦礫が飛び散り、轟音とともに建物が崩れ落ちた。辺りにはデストロイクリスタルが散乱し、ガーネットの姿は跡形もなく消えていた。遂にガーネットを撃破できたのだった。
「……やった……」
俺は安堵の声を漏らし、地面に仰向けになって倒れた。レイも息を切らしながら、俺に向かって笑顔で親指を立てた。
「やりました……」
「こっちはまだ終わってないぞ!」
俺が小さく頷いたその時、再び空気が張り詰めた。レオンが剣を構えてこちらに近付いていたのだ。立ち上がる力さえ奪われたまま、俺はレオンの鋭い目を見つめるしかなかった。
「……くそ、休む間もないのかよ……!」
俺は疲れ切った体を奮い立たせようとするが、動かない。対して、レイは疲労で震える足を踏み出し、もう一度剣を構え直した。
「レオンさん……これ以上はやめてください!」
レイが必死に声を上げるが、レオンの様子は変わらない。レイは覚悟を決めたかのように、腰を落とした。
その時だった。
「レオン! もうやめろ!」
俺達の前にフェリックスが立ちはだかった。フェリックスは腕を組んだままレオンと向かい合い、その冷静な声が戦場の空気を変えた。
「何故ですか隊長! その男は……」
「彼らは俺達の仕事の八割を済ませてくれた。俺達が向けるのは剣では無く感謝の意志じゃ無いのか?」
「……隊長?」
フェリックスの指示を受け、レオンは大人しく剣を鞘に収めた。その威圧感に心を惹かれていると、俺達のもとにフェリックスが歩み寄ってきた。
「素晴らしい働きだった。ネオクリスタルを一気に二つ強奪するとは、やはり俺が見込んだ通りの者達だ」
「そ、それはどうも……」
俺は息を整えながら頭を下げ、フェリックスにディザイアークリスタルを返した。
「……ところで、君達は一体何者なんだ?」
「えっ?」
彼は突然、レイの右腕に装着されたスキャナーを取り外し、じっくりと観察し始めた。その視線は、何か特別な答えを探しているかのように鋭かった。
「一つのスキャナーを二人で併用させるなんて、流石に故障だとは思うが……」
「それより、あなた達は何なんですか? この腕輪も……」
俺がフェリックスに尋ねたその時、空から大量にビートルボットが出現した。彼らは機械的な羽音を響かせながら、地面に散らばったデストロイクリスタルを次々と拾い集めていた。その様子を背に、フェリックスは俺達の前でしゃがんで手を伸ばした。
「……その前に、傷の手当てをしよう」
フェリックスは懐から白い結晶を取り出すと、ビートルボットが運んできたデストロイクリスタルを挿入し、空中に放り投げた。結晶は粉々に砕けると眩い光が凝縮して、巨大なキャリッジを形成した。
この神秘的な光景に、俺とレイは息を呑んだ。更に、フェリックスは黒い球体を取り出すと同じようにデストロイクリスタルを挿入させ、次々と地面に転がした。それらは徐々に膨れ上がり、足を生やし始め、巨大なアリを生み出した。
「気持ち悪っ……!」
俺が思わず声を上げると、フェリックスは満足げに笑みを浮かべてアリを撫でた。
「どうだ、驚いただろ?」
レイも恐る恐る巨大なアリの頭に触れ、納得したかのように首を小さく振った。
「なるほど……あなた達がデストロイクリスタルを収集していたんですね」
「あぁ。一緒に来れば詳しく教えてあげよう」
そう言うと、フェリックスは俺達に向かって右手を差し出した。これまでの数々の戦いを物語るように傷痕が刻まれているその手が示すのは救いなのか、それとも新たな戦いへの幕開けなのか……。
現在使えるルインクリスタル 一個(エタニティ)
現在使えるネオクリスタル 二個(アクアマリン・ガーネット)
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