第二十話 猛者と誘い
新たな力を手に入れたガーネットは、地面に爪を突き立て、次々と爆発を引き起こしながら攻撃を仕掛けてきた。俺達は慌てて回避したが、その爆発の余波で付近の廃墟が崩れ落ちた。
「なんだこいつ……! さっきより強くないか……!?」
崩壊する建物を背に、俺は息を切らせながら叫んだ。
「僕達の力だよ」
その光景を、アルフはまるで他人事のように見つめている。ベンチに座り、片手でラヴァクリスタルを弄びながら、薄い笑みを浮かべていた。
「僕みたいな特殊個体は、彼らのデストロイクリスタルを進化させられるんだ。開眼って言うんだよ」
「か、開眼……?」
「彼の左目を見てごらん」
アルフに言われてガーネットの左目に注目してみると、赤い宝石のようなものが埋め込まれているのが見えた。さっきまでに無かった異質な輝きだ。
「あれはネオクリスタル。デストロイクリスタルを進化させた結晶だ。本来、普通のデストロイクリスタルが集まってもただのデストロイヤーしか誕生しない。でも開眼することで、彼らはネオクリスタルという突然変異した結晶を持つことができるようになるんだ」
「ネオクリスタル……って、そんなこと、俺に話して良いのか?」
俺の問いかけに答える代わりに、アルフは立ち上がり、一瞬で俺の背後に移動していた。まるで重力さえ無視する動きに、全身の毛が逆立った。
「僕は君と友達になりたいんだ」
「何だと……?」
「君の家族の写真を持っていた人の正体も知ってるしね」
アルフから衝撃的な一言が語られた。その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に冷たい刃が突き刺さったような感覚がした。
「誰なんだ……教えろ!」
アルフに向かって手を伸ばすが、彼は瓦礫の上に瞬間移動し、俺の視界から逃れた。
「でも、君が僕に釣り合う存在なのか確かめる必要がある。彼を止めてみなよ」
「そんなことのためにあいつを暴走させたのか!」
「暴走じゃないって、かーいーがーん」
その瞬間、レイがアルフに向かって走り出した。彼女の眼差しは決意に満ちており、その手はアルフが持っているラヴァクリスタルへ伸ばされた。
「それを返しなさい!」
「おっと」
レイの手がラヴァクリスタルに触れる寸前、アルフは体を翻し、まるで遊んでいるような動きでレイの背中に飛び乗った。
「きゃあ!?」
「バイバイ、レイちゃん。君って可愛いよね。良かったら今度デートしてよ」
アルフの姿が霧散するように消えた直後、ガーネットが吠え声を上げながらレイに向かって襲いかかる。咄嗟に身を翻した彼女だったが、ガーネットの角が服を掠め、鋭い音を立てて裂け、脇腹が露わになった。
「っ! 動きが更に速くなっている……!」
「っていうか、また戦うのかよ……!」
お互い息が切れている中、荒い呼吸が耳に残る中、予想だにしない連戦が始まってしまった。俺は唯一の希望となるアクアマリンの結晶を手に取った。ガーネットのネオクリスタルと見比べてみると、同じような透き通った輝きを放っていた。
「これもネオクリスタルだったのか……こいつしか対抗手段が無い……!」
だが、その一瞬の隙を、ガーネットは見逃さなかった。
「友の仇……!」
鋭い声とともにガーネットは地中に潜り込み、姿を隠してしまった。その際の地面の揺れも完全に消失してしまっており、位置が全く把握できない。
「どこいった!?」
「ウオオオオ!!」
突然、足元から地面が裂け、尻尾が勢いよく飛び出してきた。咄嗟に地面を転がって避けるが、その直後に地中から角で突き上げられ、鈍い衝撃が腹を貫いた。
「がっ!?」
「レヴァンさん!?」
装備していたアーマーで攻撃は軽減できていたが、その衝撃で腹の傷が広がってしまう。更に、アクアマリンのネオクリスタルが手から離れ、ガーネットに奪われてしまう。
吹っ飛んだ俺はレイに体を支えられ、何とか衝撃を抑えることができた。
「わ、悪い……でも……!」
「アップグレード……!」
ガーネットは奪い取ったアクアマリンクリスタルを飲み込んでしまい、彼の全身を青白い光が走り抜け、身体中にアクアマリンの装飾が現れる。その変化を目にしたレイが、小さく息を呑んだ。
「結晶を食べた……!?」
「ざけんな! どんだけパクっては食うんだよ!」
「ウヴァアアア!!」
叫んだ次の瞬間、ガーネットの身体が液体のように溶け始め、形を歪ませながらレイに向かって襲いかかった。レイは反射的に空中に飛び避けたが、背中から生えた触手に捕まり、地面へと叩き付けられた。
「っ!?」
「やめろ!」
俺はガーネットの体に斧を振り下ろすが、液体化した身体は刃をすり抜け、ガーネットに背後に回られて頭突きを喰らってしまう。
「うわっ! 熱っ!?」
更に、その一撃でアーマーの一部が溶岩に覆われ、じわじわと溶かされていた。
「こいつ……! ラヴァクリスタルの力まで持ってやがる……!」
「アルフって子がラヴァクリスタルの記憶を埋め込んだんですよ!」
「ってことは、今のあいつって……」
レイは触手攻撃を塞ぎながら、俺の隣に近付いた。
「今の彼は、先程の耐久力と破壊力据え置きで、再生能力も備えた怪物です」
「こんなの、どうやって勝つんだよ……!」
レイは青く光る心臓を見つめた。
「せめて再生能力を剥ぎ取らないと……!」
その時、ガーネットは俺達の顔を見つめて眉をひそめた。
「……違う」
「えっ?」
「お前ら同じ匂いがするが……薄い、薄過ぎる……!」
ガーネットが訳の分からないことを口にし始めたその時だった。
「伏せろ!」
「!?」
突然、後方から聞き覚えのある男性の声が響き、次の瞬間、爆竹のような轟音が響いた。俺とレイが驚いて耳を塞ぐと、後ろから黒い服を着た男たちが銃のようなものを構えてガーネットに向かって発砲していた。
銃から放たれた白い光がガーネットの装甲を粉砕するが、それはまるで豆鉄砲のようなもので、ガーネットは傷一つ負わず簡単に装甲を再生し、元の姿に戻った。
「ラース部隊……噂には聞いていたが随分遅い登場だな」
「どういう訳か連絡が遅れたんだよ。だが、どのみち貴様はここまでだ」
群衆の中から、見覚えのある茶髪の男が現れた。
「レオン……!」
レオンは左腕を胸の前に構えた。彼の腕には、銀色の腕輪が装着されていた。
「それは……!」
「遅れはここで取り戻す」
レオンは心臓から飛び出した、金色のディザイアークリスタルを手に取った。その結晶には白いネックレスが入っており、リュウは勢い良くスキャナーの先端に装着した。そして、左腕を空に向かって高く持ち上げると同時に腕輪のレバーを奥に倒した。
『アクティベート!』
力強い音声が響き渡ると同時に、レオンの頭上に金色の結晶が浮かび上がった。結晶は彼の頭部に触れると粉々に砕け散り、その破片が彼の全身を覆い尽くした。目の前に立っていたレオンの姿が、金色の輝きと共に変貌していく。
「えっ……!?」
『ゴールドウルフフォーム!』
光が止むと、黒い服を着ていたレオンは、金色の毛皮のようなものを全身に纏った戦士に変身した。金色に輝く毛皮のようなアーマーはまるで狼のような鋭いデザインで、肩には長い棘のような装飾が施されていた。
「こ、これは……!」
レオンはゆっくりと目を見開き、真っ赤に染まった瞳でガーネットを見つめた。
「……さて、狩りの時間だ」
「ゴールドウルフ……!?」
黄金の光を纏ったレオンは、金色のディザイアークリスタルが装着されたスキャナーを腰から抜いた剣の刃に当てた。
『アクティベート、ビーストサーベル』
音声が流れた直後、レオンの剣は金色の結晶に包まれた。直後に結晶は粉々に砕け散り、レオンの右手には金色の刃の剣が握られていた。
「あれが腕輪の力……」
「そうだ。でもあの威圧感……!」
ガーネットは身体を液体に変化させ、レオンに咆哮して威嚇した。レオンは金色の光を放ちながら高速で移動し、ガーネットと衝突した。
「見ていろ、これが本物の力だ」
レオンの冷静な声が響いた直後、金色の剣が放つ一閃が闇を切り裂いた。ガーネットが液体化してレオンの攻撃を回避しようとするが、剣の一撃は液体さえも斬り裂いてしまう。
「ぐっ……!?」
ガーネットの体は一瞬で再生を試みるも、レオンの剣には金色の光が残り、傷口を焼き尽くして回復を封じていた。ガーネットは地面に両手を突っ込み、地面から触手を生やして攻撃を仕掛けるが、レオンはバク転での後退を繰り返しながら回避し、腕輪を右手の平をスキャンした。
『アクティベート、ビーストクロウ』
レオンの両手が金色の結晶に包まれ、砕けると同時に巨大な爪が生えた。レオンはガーネットの触手を破壊し、爪から波動を放ってガーネットの腹を斬り付けた。更に、ガーネットが怯んで動けない所を、黒い服の男達が銃で発砲して追い打ちした。
「ウガァアア!?」
「能力は多彩だが扱え切れてないな。器用貧乏の代表格だ」
「黙れ!」
ガーネットは地面に潜り、レオンの背後から奇襲攻撃を仕掛けた。ところが、レオンは後方を振り返らずともガーネットの角を破壊し、首を掴んで持ち上げ、地面に叩き付けた。ガーネットは咄嗟に尻尾を振り回すが、レオンは宙に浮いて建物の壁に足を着いてガーネットの懐に突っ込んだ。
「喰らえ!」
レオンは咄嗟に腕輪のレバーを前後に二度倒した。
「させるか!」
ガーネットは地中に潜り、飛び出すと同時に全身から炎を上げながら突撃した。
『エクセキューション! ライジングスパーク!』
レオンの両腕から雷が走り、激しい光が放たれた。ガーネットは無数の触手を放つが、レオンは爪で切断しながら突撃し、ガーネットの胸部を叩き付けた。
「ガァアアア!?」
吹き飛ばされたガーネットは地中に突っ込み、中で大爆発を起こした。
「……終わったのか?」
「あの方、一体何者で……」
俺はレオンに近付き、彼に話しかけた。
「助かった、ありがとう」
「……貴様を助けたつもりは無い」
「えっ……?」
その時、レオンは俺の方にゆっくり視線を向けた。その目は、デストロイヤーに向けていたものと同じ、冷酷な視線だった。
「貴様を手にかけるのは俺だからだ」
「な、何を……」
次の瞬間、レオンは俺に向かって爪を振り上げた。その刃は、まるで俺の心臓を狙うようにぴたりと正確に振られた。
その瞬間、時間が止まったかのように感じた。
現在使えるルインクリスタル 一個(エタニティ)
現在使えるネオクリスタル 零個
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