第十八話 一体化と再会

 ガーネットが現れたが、周囲に人がおらず騒ぎになっていないため、レックスや黒い服の男達が助けに来てくれない。しかし、ガーネットは周囲に赤い光線を飛ばして暴走を始めた。


「うわっ、危ない!」


 俺は咄嗟に時計台の下に駆け込み、鳥のぬいぐるみを拾い上げる。直後に光線が降り注ぐが、フェリックスがベンチを片手で持ち上げ、盾のようにして防いでくれた。


「あなたは一体……」


「決断するんだ。奴が街に出る前に戦うか、放って逃げるか」


「でも、俺は弱いし何もできない……」


 フェリックスはベンチを投げ捨て、俺を見下ろした。


「お前自身が弱くても、お前の願いは強く、そして優しさを秘めている。それがお前の力になる」


「……願いが、俺の力に……?」


 フェリックスは俺の腕輪に付いているレバーを奥に倒し、俺の胸から飛び出したディザイアークリスタルを手に取った。警告音が鳴り響く中、フェリックスは俺に語った。


「だが気を付けろ。これを使えばお前の運命は変えてしまう。永遠にデストロイヤーと戦い、新たな世界を目にするまで……」


「えっ……!?」


 背後からガーネットの拳が飛んできたが、再びフェリックスが俺を庇い、ガーネットの顔面を殴って距離を離した。


「くそっ……貴様!」


「早く決めろ、レヴァン」


「……」


 その時、俺の脳裏にキョウジの言葉が蘇った。


 ◇

 

『レイも最初から強かったわけじゃない。彼女は大切なものを失い、その上で戦う覚悟を決めたんだ』


 ◇

 

 レイを失った俺も、変わらなければならない。目を瞑り、震える手を握り締めた。


「……決めた」


 俺の目を見て、フェリックスは満足げに小さく頷き、俺にディザイアークリスタルを手渡した。


「ディザイアークリスタルを装着して、レバーを手前に倒せ。お前の願いと心に眠るデストロイヤーが、力を貸してくれる」


 俺は言われた通り、ディザイアークリスタルを腕輪に装置した。レバーを倒そうとしたその時、フェリックスが声を上げた。


「レヴァン、今からお前は自分の願いとデストロイヤー、三つの力が一つになる。その先に見えるのは、恐らくお前が考えてことも無い過酷な世界だ」


「……過酷な、世界……」


「お前にその覚悟があるか、この目で確かめる。行けるか?」


 俺は目を瞑った。俺が変わらない限り、俺の目に見える世界も永遠に暗いままだ。少しでも、光に手を伸ばすことを決意し、ゆっくりと目を見開いた。


「……俺の願いで未来が変わるなら……もう一度自分を信じてみる……!」

 

 俺は深く息を吸い、震えを抑えてレバーを手前に倒した。ところが、直後にガーネットが俺に向かって赤い光線を飛ばしてきた。


「くたばれ!」


「!?」


 その時、俺の視界が光に包まれた。


 ◇


 ゆっくりと目を開けると、俺は深い暗闇の中に取り残されていた。どうやら、再び精神世界に送り込まれたらしい。

 

「己の命を顧みず、再びこの世界に姿を現すとは」

 

「!」


 振り返ると、俺の心に眠るデストロイヤー、ロストが立っていた。彼は相変わらず俺を見下しており、黒い翼からは禍々しいオーラが漂っていた。しかし、俺は動揺を抑え、冷静に口を開いた。


「……話は聞いていただろ? 俺に力を貸してくれ」


「断る」


 しかし、ロストはあっさり俺の望みを拒絶した。


「な、なんで?」


「本来なら、この戦いでお前が負ければ、俺が望んでいたデストロイヤー化が起こるだろう。だがお前は貧弱過ぎる。デストロイヤー化どころか、お前が死んだら、俺も道連れで消滅するだけだ。ここは撤退した方が賢明だろう」

 

 ロストの冷淡な言葉に、俺は唇を噛みながら首を横に振った。


「悪いが、今回ばかりは弱音を吐くわけにはいかないんだ。レイがいないのなら、俺が代わりに戦う必要があるんだ」


「ふん、お前のような下等生物が、男が言っていた過酷な世界を耐えられるわけが無い」


 どう説得しても、ロストは首を縦に振ってくれそうに無かった。俺は小さくため息を吐き、ポケットから例の指輪を取り出した。


「万が一俺が死にそうになったら、この指輪を壊す。今度こそ俺をデストロイヤーにしてくれ」


「……貴様、正気か?」


「だけど、俺は二度と命を軽く見ないってレイと約束した。それに、これは俺の全てだ。絶対にお前達デストロイヤーには負けない。あいつとの戦いで証明してやる」


 俺は背中を向けるロストに覚悟を伝えた。ロストはしばらく興味を見せなかったが、やがてこちらに振り返った。


「……好きにしろ」


 その瞬間、視界が眩い光で包まれた。


 ◇


『アクティベート!』


 次の瞬間、俺の目の前に黒い結晶が出現し、ガーネットの光線を完全に防いだ。


「何っ!?」

 

 結晶は俺と一体化し、全体に黒い亀裂が走ると粉々に砕け散った。


『ロストフォーム!』


 結晶から解放された俺は、自分の姿を見つめた。ボロボロのローブと黒い重ね着した全身黒い服装、囚人のように体中に撒かれた鎖、そして、腕輪に装着されたディザイアークリスタルは、赤から黒色に色が変化した。


「……これが俺の、願いと罪……」


「何だ貴様……!」


 俺はローブを外し、ガーネットを睨み付けた。この姿になると、やけに心が落ち着く気がした。


「お前と同じ……罪人だ」


「何だと……!?」


 俺は鎖に縛られた右腕を振り払った。鎖の音が響き、俺がゆっくりと息を吐くと、ガーネットは笑みを浮かばせた。


「……良いだろう。ケリをつけるぞ」


 ガーネットは地面に次々とデストロイクリスタルを落とした。周囲に黒い影が湧き上がり、数体のロイヤーが姿を現した。その数に息を飲みつつも、俺はガーネットに向かって走り出し、例の指輪を腕輪にスキャンさせた。


『アクティベート、レガリアシールド』


 俺は最初のロイヤーの爪撃を、再び出現したレガリアシールドで塞ぎ、顔面に拳を叩き込んだ。


「おらぁ!」


「ギャァ!?」


 拳に伝わる衝撃は、まるで自分の力ではないような異質な強さだった。だが、次々と襲いかかってくるロイヤーにそんな余裕を感じている暇は無かった。後ろから迫る別のロイヤーを振り返ることなく、目の前のロイヤーを蹴り上げて盾にした。勢いのままその体を背後に投げ付けた。


「やれる、俺でも……!」


 更にに横合いから迫ってきたロイヤーの腕を掴み、体を捻らせると肘を勢いよくぶつけた。その手応えに心が震え、思わず小さく興奮した。


 だが、息を吐く間も無く群れが押し寄せてきた。その数の多さに思わず視線をさまよわせた俺は、ふと腕輪を見た。

 

「数が多い……そうだ!」


 俺は地面に転がっているデストロイクリスタルを拾うと、レガリアシールドをスライドして、出現した台座にデストロイクリスタルを装着させた。

 

「こいつなら……!」


 俺は左腕のシールドを構えた。迫りくるロイヤーに向かって盾を突き出し、その顔面を殴り付けた。続けてグリップに付いているトリガーを引き、赤い光を放った。爆発音と共にロイヤーが地面に崩れ落ちた。


「反動が……消えてる……!」


 盾による射撃攻撃を繰り返すたびに、ロイヤー達が次々と消えていった。彼らの隙間を突いて足を引っ掛け、地面に倒していく俺の動きは、以前の自分とは全く違っていた。


「ギギギ……!」


「お前ら! 無理するな!」


 俺はガーネットに向かって再び盾で発砲しようとするが、トリガーを引いても赤い光が出なくなった。弾切れのようだ。


「えっ、もう終わりかよ!?」


 その時、ガーネットが戦いに乱入してきた。俺はガーネットのパンチを盾で受け止めたが、衝撃が重すぎて腕に鈍い痛みが走る。怯んだ隙を狙われ、腹を蹴り上げられて地面に倒されてしまった。


「うわっ!」


「盾の方は中々だが、所詮貴様は小者だ!」


 俺はガーネットに首を掴まれて宙に放り出され、腹を蹴り付けられる。吹っ飛ばされた俺は謎の建物のガラスを突き破って侵入し、中にいた人々は次々と建物の外に飛び出していった。


「きゃぁあああ!」


「駄目だ……こいつ強過ぎる……!」


『もう弱音を吐いてるのか?』


 その時、腕輪からフェリックスの声が流れた。俺は驚きながら腕輪に耳を近付けた。


「フェリックスさん? なんであなたが……」


『そいつは一度に三つまで結晶をスキャンできる』


「三つってことは、後一つできるのか。……そうだ!」


 俺はポケットを漁り、アクアマリンが落とした青い宝石を取り出した。


「どう見ても宝石だけど、多分スキャンできる」


『何を使う気だ? っていうか使えるのか?』


「勘!」


 俺はアクアマリンの宝石を腕輪に読み取らせた。


『アクティベート、アクアマリン・スピア』


 俺の目の前に細長い青い結晶が出現し、それが砕けると同時に透き通るような青い刃の槍が現れた。アクアマリンが使っていたものと同じ槍だった。


「あいつの武器か……!」


「それは……何故貴様が持っている!」


 ガーネットが殴りかかってきたが、俺は盾で攻撃を塞いでガーネットの脇腹を槍で刺した。


「ガッ!?」


 次の瞬間、冷たい青い光が広がり、ガーネットの脇腹に凍りつくような氷結が発生した。


「効いてる……! 行けるぞ!」


「このガキ! ルインクリスタルとそいつを渡せ!」


 ガーネットは牙を振り下ろして来たが、俺は槍を振り回して顔面を貫き、腹を斬り付けた。ぎこちない動きだったが、槍はまるで自分の意思を持つかのように形を変え、水のようにしなやかに形を変えながらガーネットを攻撃した。ガーネットはデストロイクリスタルを吐き出すとともに凍結を起こし、次第に動きが鈍くなっていく。


「よしっ、あと少しで……」


「こうなったら……!」


 その時、ガーネットは右手からオレンジ色の光を取り出した。その正体は、レイから奪い取ったラヴァクリスタルだった。


「あっ、それ!」


 ガーネットは不気味な笑みを浮かべてラヴァクリスタルを飲み込んでしまった。次の瞬間、彼の胸が眩しいオレンジ色の光で脈動し、全身が燃え上がるような熱気を放ち始め、身体が更に巨大化した。


「熱っ!? これって……!」


 レイがラヴァクリスタルを使った時と同じ現象だった。ガーネットの身体から氷が剥がれ落ち、ガーネットの全身が真っ赤に染まった。


「そんなのありかよ!」


「ガァアアアア!!」


 炎に包まれた彼の動きは、信じられないほど速くなっていた。ガーネットは全身火だるまになって高速で移動し、俺の身体を捕らえて建物の壁に叩き付けた。ガラスが飛び散り、俺は地面に転がった。


「うわっ!」


「ウォオオオオ!!」


 ガーネットは俺の身体を持ち上げ壁に引きずり回した。壁、柱、骨組み、次々とぶつけられ、建物が崩れ始めた。


「がはっ!?」


「ヌァアアア!!」


 全身が悲鳴を上げる中、俺はガーネットの尻尾に叩き付けられ、地面に放り出された。力の差が圧倒的過ぎて、勝ち目が全く見えなかった。


「はぁ、はぁ……」


「手こずらせやがって……!」


「こんな所で……負けるかよ……!」


 俺は荒い息を吐きながら崩れ落ちるが、槍を杖代わりにして、震える足でゆっくりと立ち上がった。痛みも出血も気にしている余裕は無かった。ただ前を見据える。それだけだ。


「レイがいないなら……俺が何とかしないと……!」


「何を抜かす! あんな小娘など、意志を継ぐ価値も無い!」


 ガーネットが嘲笑を浮かべながら近付いてきた。その瞳には、狂気とも言える怒りが宿っていた。


「そんなことはねぇ!」


 俺はガーネットに向かって盾で射撃を行った。しかし、ガーネットの動きは更に速く、なりその巨体を信じられないほど軽快に動かして攻撃をかわしてしまった。俺は地面に叩き付けられて手足を押さえ付けられてしまい、身動きが取れなくなってしまう。


「あいつとあの世で仲良くな!」


「くそっ……!」


 ガーネットは俺に向かって大きく口を開いた。口の中が赤く光り出し、俺は覚悟して目を瞑った。


 その時、ガーネットの背後に青い光が飛び込み、鋭い風切り音とともにガーネットの背後で青い光が閃いた。


「ギャァアア!?」


「うわっ!?」


 押さえ付けていた力が消え、俺の体は投げ出されるように解放され、地面に転がり落ちた。痛みをこらえながら顔を上げると、一人の人影が目の前に降り立った。


 その者は静かに立ち上がり、振り返った。輝く青い髪。その姿を見た瞬間、言葉を失った。

 

「意志を継ぐ価値も無い、ですか……」


 青い髪が輝き穏やかな声が響いた。彼女の姿を目撃した俺は、胸が締めつけられるような感情がこみ上がった。


「レイ……」


「私達の再会って、いつもデストロイヤーがセットですね。レヴァンさん」


 震える声で名前を呼ぶと、彼女は微笑みながら手を差し出してきた。




 現在使えるルインクリスタル 一個(エタニティ)

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