第四話 怪人と青髪の少女

 俺は体中の痛みを我慢しながら、荒れ果てた工場にたどり着いた。

 

 工場の外壁はひび割れ、崩れたレンガとガラスの破片が散らばっている。かつての工場の威容は失われ、今では朽ち果てた廃墟と化していた。夕暮れ時で、日が沈むにつれて空は薄暗く、沈んだ光が工場の残骸に影を落としていた。周囲は静寂に包まれ、時折風が通り抜ける音だけが響く。


「はぁ、はぁ……撒いたか……?」

 

 俺は周囲を警戒しながら歩を進める。背後に何かの気配を感じて振り返っても、ただの虫が這っているだけだった。しかし、その小さな動きさえも、今の俺には恐ろしい存在に思えた。


「おい……誰か……!」


 俺は声を上げようとして、腹を押さえた。腹からは出血が止まらず、触れた右手は真っ赤に染まっていた。まるで、公園で助けたローブの人のように……。


(何で、俺はまたこんな目に……)

 

 実際、俺はその人を助けようとして、逆に命を危険にさらしてしまった。しかも、次は本当に殺される。俺は恐怖と絶望に押し潰されそうだった。


「追い付いた」

 

「!?」


 背後から聞こえた声に反応する間もなく、俺は何かに打ちのめされ、体が吹き飛ばされた。槍の柄で殴られた感触が体に残り、背後を振り返ると、そこには青い怪人が立っていた。


「この……バケモンが……!」

 

「化け物……ね」


 その時、怪人は両手から大量の赤い石を生み出した。この赤色、どこかで見たことのある色だった。


(……あれは、洞窟にあった……)

 

「じゃあ、この子達は何に見える?」


 怪人は石を足元に放り投げた。すると、赤い石から煙が黒い煙が上がり、不気味な容姿の赤い怪人が姿を現した。


「えっ……!?」


 額から角が生え、口には鋭い牙、体は真っ赤に染まっていた。まるで鬼のような見た目だった。さらに、放られた赤い石全てが全身赤と黒色に染まった怪人に姿を変え、俺は大勢の怪人に囲まれた。


「その答えを教えて。行きなさい、ロイヤー」


 青い怪人の命令で、ロイヤーと呼ばれる怪人達は俺に襲いかかった。俺は近くの建物に駆け込むが、すぐに追いつかれる。四方から殴られ、首を掴まれて放り出された。

 

「うわぁ!」


 倒れているところを頭を掴まれて無理矢理起こされ、腹を蹴られて遠くに飛ばされた。吹っ飛んだ俺は柵に体を強打し、動けなくなってしまう。その衝撃でポケットから例の指輪が飛び出してしまう。


「あぁ……! くそっ……!」


 彼らの力は人間のそれをはるかに超えていた。あの仮面の男と同じ。いや、それ以上に俺に殺意を向けていた。


「フフッ……」

 

「!」


 怪人は左肩に付いている青緑色の宝石を触り、右手を掲げた。怪人の右手から青緑色の火花が散り、それを俺に向かって放った。

 

 その瞬間、周囲に青い霧が発生し、視界が悪くなった。更に、急激に気温が下がり、まともに体を動かせなくなってしまう。


「寒い……! 何が起こっているんだ……!」

 

「フンッ!」


 霧の中から怪人が姿を現し、俺の腹に衝撃波を当てた。声を上げる間もなく、体が吹き飛ばされる。その衝撃で指輪を手放してしまった。


「うがっ!?」


 建物に激突した俺は、地面に倒れ込んでしまう。怪人は槍を地面に刺すと、地面が少しずつ氷に覆われていく。それは徐々に広がり、俺の指輪の目の前までやって来た。

 

「苦しいなら早く死んじゃえば?」

 

「うぅ……! そんなわけに……!」


 俺は傷の痛みを必死に堪え、目の前に転がっている指輪に手を伸ばした。あと少しで手が届きそうなのに、僅かに足りなかった。

 

 怪人は右手から火花を生み出し、地面に這いずっている俺に近付いた。


「くそっ……くそっ……!」

 

 こんな所で死にたくなかった……。せめて、この指輪の持ち主ともう一度……。


「さよなら」

 

「っ!」

 

 俺は額から汗を流して目を瞑ったその時だった。

 

 俺の背後から銃声が聞こえ、直後に怪人とロイヤー達は爆発を起こした。驚いた俺は背後を振り向き、その正体を知ることとなる。


「……間に合って良かった」

 

 一人の少女だった。少女は俺の前でしゃがみ、俺の顔を覗き込んだ。

 

 宝石のように輝く青い長髪。その髪を留めている二つの赤と黒のリボン。黒いインナーと白と青のキュロットパンツのような服装をしていた。かつて見上げなくなった青空のように、綺麗な青い髪を持つ少女は、俺の前に立ちながら怪人達に視線を向けた。

 

 ロイヤー達が少女を威嚇する中、先頭に立つ怪人は、冷静に少女に問いかけた。


「あんた、何者よ」

 

「……ちょっと難しい質問ですね。あえて言うなら……」


 少女は左手に持っていた白い銃を回転させ、戦闘態勢に入った。少女の瞳には冷たい決意が宿っていた。

 

「……やっぱ思い付かないので後にして下さい」

 

「……え?」

 

「行け!」


 待たされ損の怪人はロイヤー達に命令を下し、同時にロイヤー達は少女に襲い掛かった。


「危ない!」

 

「ウガァ!」


 ロイヤーの鋭い爪は、少女の頭部に向かって振り下ろされた。

 

 ところが、少女は左腕を曲げてロイヤーの攻撃を押さえ、直後に右足でかかと蹴りしてロイヤーの顔面を攻撃した。少女の攻撃は正確無比で、力強さと精密さが両立しているその蹴りで、ロイヤーは地面に倒れて動かなくなった。

 

「えっ……」

 

「ですが、これだけは忠告しておきます」

 

 少女は淡々と銃を構え、怪人たちを鋭い目で睨みつけた。その瞳には、揺るぎない覚悟と確固たる殺意が宿っていた。

 

「今の攻撃で敵と見なしました。命乞いだけは認めません」

 

「っ!?」

 

 少女の低く冷たい声に、怪人たちは一層の警戒を見せた。そんな中俺の目に映ったのは、微かな希望である、一つの青い光だった。


 しかし、ロイヤーも攻撃姿勢を崩さず、再び少女に襲いかかった。少女はロイヤーの爪を軽く避け、腹を思いっきり蹴り上げた。


「ウガァ!?」

 

「はぁ!」


 少女の蹴りを受けたロイヤーは大きく吹き飛び、地面に倒れた。少女は正確な角度と驚異的な力で次々とロイヤーを圧倒していく。更に、高所から奇襲攻撃を仕掛けてきたロイヤーを銃で撃ち落とし、着実に数を減らしていった。

 

 俺は無事に指輪を確保し、壁の後ろに身を隠して少女の戦いを見守った。冷気で視界がぼやける中でも、少女の戦いぶりは鮮明に目に焼き付いていた。


「な、何だ、あいつは……」


 少女の蹴りは空気を切り裂き、命中したロイヤーは一撃で瀕死状態に追い詰められていた。更に、銃の扱いも一流だった。ロイヤーの顔面を的確に撃ち抜いており、あれだけ威嚇していたロイヤー達も後退するほどだった。


「小癪な……」

 

「!」


 その時、怪人は氷を纏った槍を構え、少女に向かって攻撃し始めた。少女は周囲の障害物に身を隠して攻撃を避けるが、槍の攻撃を受けた障害物は凍結し、俺が隠れている壁にまで氷が広がった。


「うわっ! 何だ何だ!」

 

「!」


 凍った障害物が次々と崩れる中で、少女は怪人の槍を防いで足で押さえつけた。更に、無防備になった怪人の顔を蹴り上げ、距離を取った直後に銃を発砲した。弾丸は僅かな空気の揺らぎを生じさせながら飛び、敵の左肩の宝石に命中した。

 

 弾丸が宝石に攻撃が入ると、怪人は左肩から赤い石を吐き出し、肩を押さえた。

 

「クッ! おのれ!」


 怪人は少女のもとに急接近した。少女は触手攻撃を連続で防ぎ、怪人の額に弾丸を撃ち込んだ。少女が銃のグリップを折り畳むと、銃口から刃が飛び出した。銃から剣に変形したのだ。

 

 少女は剣を片手で器用に回して、怪人へ攻撃した。少女が怪人に攻撃を当てるたびに、怪人の体から火花とともに赤い石が吐き出されていた。

 

 怪人が怯んだ瞬間、少女は剣を逆手に持ち替え、怪人の顔を切りつけた。


「グッ……! やってくれる……」

 

 先程の一撃で怪人は怯み、後退せざるを得なくなる。怪人が後ろに下がると、ロイヤーが怪人の前に立った。


「邪魔しないでください」


 少女は剣を銃に変形させ、後部に付いているレバーを引っ張った。銃口が青く光り出した瞬間、少女はロイヤー達に向かって砲撃した。


『エクセキューション』

 

「スカイフェザーバレット!」


 銃から音声が流れ、少女は発砲した。銃口から青い翼が放たれ、ロイヤー達を捕らえた。その瞬間、一帯は爆発を起こし、青い煙に包まれた。煙が消えるとロイヤー達は姿を消しており、代わりに大量の赤い石が辺りに散らばっていた。


「……何?」

 

「逃げられた……」

 

 少女は銃をしまい、俺のもとに近付いた。


「大丈夫ですか? 怪我の具合を見ます」

 

「……」


 しかし、俺は少女の手を振り払った。助けてもらったことには感謝の気持ちでいっぱいだったが、その感謝の思いが今の俺には虚しく響いた。助けられたとしても、もう遅すぎた。


「今のは何だ……?」

 

「動かないでください。まずは治療を……」

 

「俺に構うな! 質問に答えろ……っ!」


 だが、腹の傷の痛みが限界を迎え、俺は地面に崩れ落ちた。しかし、少女は迷うこと無く俺に肩を貸し、体を支えてくれた。彼女の腕の温もりに、俺は一瞬心が揺らいだ。

 

「しっかりして下さい」

 

「お、お前……」

 

「……あれは……?」

 

 その時、少女は先程の赤い石が散らばっている箇所に目を向けた。そこには、一匹の赤い体のカブトムシが、赤い石を持っていこうとしていたのだ。

 

「それは私のです!」

 

 少女が俺に肩を貸したまま近付こうとすると、空から同じ体の色をしたカブトムシが大量に飛んできた。カブトムシ達は辺りに散らばった赤い石を一つ残らず拾い上げると、空へ飛び立ってしまった。

 

 この異様な光景に俺は目を疑い、少女に尋ねた。

 

「い、今のは何だ……」

 

「……妙ですね。一体誰がデストロイクリスタルを……」

 

「えっ……? っ!」

 

 その時、腹の傷の痛みが限界に来たし、俺は膝から崩れ落ち地面に倒れてしまった。少女が俺を心配する声が微かに耳に残り、俺は気を失ってしまった。

 

 

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