第二話 目覚めと出会い
叔母さんと言い争いをしてしまい、帰る場所が無かった俺はベンチで横になった。
今の時期、昼は暑かったが夜は冷えていた。こんな所で眠っていたら凍え死んでしまうかもしれないが、金は無いし友人もいないしでどうしようも無かった。
「ハァ……」
俺がため息を吐いた、その時だった。
「うぅ……!」
「ん?」
公園に謎の人物が入ってきた。その者はフラフラとした足取りで、俺に近付いて来た。
大きな黒いローブを羽織って顔を隠しているため、表情を伺うことはできなかった。しかし、酔っ払いの可能性があるため、絡まれる前に公園を出ることにした。
「ったく、俺がいたらいけねぇのかよ……」
「っ!」
すると、ローブの人は完全にバランスを崩して倒れてしまった。
「……えっ?」
俺は驚いて足を止めるが、ローブの人は全く動かなくなってしまった。流石に見捨てられなくなった俺は、ローブの人に近付き、肩を揺すった。
「あの……。ん……?」
その時、俺は違和感を感じた。ただ肩に触れただけなのに、何故かヌルヌルするのだ。
俺はローブの人に触れていた右手を離し、その違和感の正体を知った。
「!?」
なんと右手が真っ赤に染まっていたのだ。更に鉄臭い匂いが辺りに広がり、俺は嫌な予感がした。
「まさか……!」
俺はローブの人の体の向きを変えて驚愕する。なんと全身傷だらけで大量出血していたのだ。更に歩いてきた道をよく見ると、足跡とともに血痕が残っていた。
「うっ!?」
大量出血を目撃してしまった俺は思わず口を押さえ、その場から去ろうと立ち上がった。
「!」
だが、あることが俺の頭を過ぎった。この人はこれだけの大怪我を負っていながら、誰にも助けられずにここまでやって来たのだ。
何て言うか、俺に似ている感じがした。
「ったく!」
俺は携帯電話を取り出そうした。しかし、安子との喧嘩で携帯電話を置いていったまま家を飛び出したことに気付いた。更に、公衆電話が設置されておらず、助けを呼ぶことができなかった。
「だ、誰か! 来てくれ!」
俺は必死に声を上げたが、こんな古びた公園の近くに人がいる訳が無い。先程寄ったコンビニまで行く手もあったが、それまでの間この人を放っておくのはどうしてもできなかった。
(コンビニまで運ぶか……いや、下手に動かさない方が良い。じゃあどうしたら……)
俺はとりあえず怪我の確認をする事にした。ローブの人を仰向けにして服を少し捲ると、剛は再び口を押さえた。なんとお腹には刃物で滅多刺しにされたような痕があった。出血位置を見つけた俺は水で濡らしたハンカチを使って傷を押さえた。
「あと他に無いのか……!?」
他の傷口を探してローブの人の左腕を掴むと、鋭い痛みが走り右手を引っ込めた。ローブの人の左腕にはガラスの破片のような物が刺さっており、それに触れた俺の右手は傷だらけになってしまった。
「本当に何があったんだよ……」
大きな傷があるのは腹だけだったようで、俺はハンカチを両手で必死に押さえた。これが正しいやり方かは知らないが、絶対に見捨てるわけにはいかなかった。
「大丈夫ですか!? しっかり!」
「……」
ローブの人に意識は無かった。もう手遅れなのかもしれない。また助けられないかもしれない。
「そうはさせない……!」
それでも、俺は手の力は緩めなかった。こうして、気が遠くなるほどの長い時間が流れていった。
「……ガハッ!」
「えっ?」
「ハァッ、ハァ……」
なんと、ローブの人は呼吸を取り戻した。これだけの出血をして助かったのは、奇跡としか言いようが無かった。
「良かった……大丈夫ですか?」
「……」
俺は水の入ったペットボトルを取り出し、ローブの人に差し出した。
「すぐに助けを呼んできます。これでも飲んで……」
しかし、俺の記憶はここで途切れてしまう……。
◇
「……、……ァン……」
「……誰だ……誰かが俺を……」
「……ァン……生きて……」
「生きる……? 何を言って……お前は誰だ……」
◇
俺は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまったようだ。こんな所で寝てしまえば確実に風邪を引く。大人しく家に帰るか……。
「……ん?」
俺は辺りを見渡し異変に気付いた。さっきまで公園にいたはずなのに、今は洞窟のような所にやって来ていた。
中は暗く、人のいる気配が無い。何よりとても寒かった。夜の外よりもずっと寒かった。直接氷を当てられているくらい体が冷たく、洞窟の奥からは冷たい風が吹いていた。
「さ、寒っ……ここはどこだ……?」
近くには出口らしき場所は見当たらず、どこからやって来たのか分からなかった。そもそも、自分が何でここにやって来てしまったのかも覚えていなかった。
「お、おい……どういうことだ……」
出口も見当たらず、どうやってここに来たのかも分からない。洞窟の中で、奇妙に整備された地面と崩れやすい壁を見つけた。
整備されているなら人がいたということになるし、いつかは会えるはずだ。……いつかは分からないが……。
「買ったやつもどっかにいっちまったし、早く出ないと……何だあれ?」
その時、俺は不自然に赤く光っている壁を見つけた。何かが光に反射され、赤く光っているようだった。俺は洞窟の奥に向かい、光の発生源を調べた。
「……これは一体……?」
光の正体は大量に生えている赤い結晶のようなものだった。地面から天井に掛けて無限に生えており、暗い洞窟を照らしていた。
俺は結晶の生えている空間に足を踏み入れ、結晶を間近で観察した。
「ここまで光るのか……?」
結晶に心を奪われた俺は、それに向かってゆっくりと手を伸ばした。
「……ん?」
その時、俺は結晶に紛れてあるものが落ちていることに気付く。金属製の白い箱だった。俺は結晶を蹴らないように足を伸ばし、箱を手に取った。
(あれっ、重くない……?)
見た目の割に軽く、中身が何なのか見当が付かなかった。
他人のものなので流石に中身を見るわけにはいかなかったが、こんなところで見つかったなら意外と珍しいものが入っているかもしれない。そう考えると興味が湧いてしまった。
(中……見るだけなら……)
その時だった。
「うらぁ!!」
「!」
俺の背後から何者かが襲いかかったのだ。咄嗟にしゃがんだため攻撃は避けられたが、俺の近くにあった結晶は斧によって粉々になってしまった。
「えっ……!」
「見つけたぞ」
俺の目の前には、左目が割れた仮面を付けた男が立っていた。
全身軽そうな赤い鎧を纏っており、右手には赤い刃の片手斧、左腕には銀色の腕輪。そして、見覚えのある黒いローブを身につけていた。
「まさか……!」
俺は思い出した。公園で出会った、大怪我を負っていた黒いローブの人。この未知の洞窟で再会を果たしたのだ。それも最悪な形で……。
「ま、待ってくれ! 俺だよ! 公園で会った奴だ!」
「黙れ!」
男は俺の説得に応じず、斧を構え直した。
俺は白い箱を抱えたまま洞窟の奥へ逃げたが、男もしつこく追い掛けてきた。俺のすぐ背後では次々と結晶が破壊されていき、少しずつ洞窟内が暗くなっていた。
「なんで……こんなことに……!」
俺は善意で人を助けたつもりだったが、実際にやっていたのは、辛い現実からの逃避に過ぎなかったのかもしれない。この時、俺は確信した。
この世界そのものが、俺の敵であるということを。
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